第55話 バーンズ伯爵家の養女となる

 それからは、バーンズ伯爵夫人と王妃殿下で会話が盛り上がり、私たちはただ聞いているだけ。カイルは仕事はいいのか、ずっと私から離れない。


「それでは、伯爵家への養子縁組の件、お任せしてもよろしいわね?」

「もちろんですわっ!」


 そこは伯爵が答えるところじゃないのだろうか。

 どうも、元々、養子縁組に乗り気だったのは、伯爵夫人の方だったらしい。バーンズ伯爵家にはすでに3人の息子さんたちがいて、今更4人目? という感じだったようなのだ。


「ああ! 息子ばっかりで、可愛らしいドレスなんて着せられなかったから、嬉しいわっ!」


 ……私は着せ替え人形になるようだ。


「ドレスを頼む時は、ぜひ私も誘って欲しいわ」

「ええ! ぜひぜひ」


 バーンズ伯爵は、すでに遠い目になっている。

 完全に伯爵夫人の尻に敷かれているんだろう。お疲れ様、である。

 伯爵家の屋敷の方の準備はできていて、いつでも移ってもいいとのこと。本当に、いいのだろうかと、伯爵の方へと目を向けると、スッと視線を外されてしまった。


 ――本当は、嫌なのかな。


 そう思った時。


「うっ!?」


 突然、バーンズ伯爵がうめき声をあげる。なんと、伯爵夫人の肘鉄が入った模様。


「ローレンス、あなた、照れるのはいいけれど、そういう態度は誤解されますわよ」

「ア、アリエル」

「ごめんなさいね。レイさん……いえ、もう、レイでよろしいわよね?」

「は、はい」

「もう、この人ったら、不器用で誤解されやすいんだけれど、うちは家族みんなであなたが来るのを楽しみにしているのよ?」

「そうなんですか」


 そう言われて伯爵へ目を向けると、顔の表情じゃわからないけれど、耳が真っ赤になっていた。

 

「ん、んんっ、アリエルの言う通りだ。いつでも、屋敷に来てもらっても構わない」

「……ありがとうございます」

「レイ、お待ちしてるわね!」


 なかなか賑やかな伯爵夫人に、私もクスリと笑ってしまう。ファルネーゼ子爵夫人も、パワフルな女性だと思ったけれど、伯爵夫人も通じるものがありそうだ。

 伯爵夫妻が出ていった後、王妃殿下とカイルと私、という3人だけになった。


「仲良くやっていけそうね?」


 そう微笑みながらティーカップを手にしている王妃殿下。この方とも私が血縁関係があるのも、不思議な気持ちになる。


「だといいのですが」

「レイなら大丈夫よ。困ったら、私に言いなさい。お仕置きしてあげるわ」


 そうならないことを願いながら、私は再び、公爵家から貸し出された絵に目を向ける。

 自分と似ているといいながらも、こちらの女性の方が快活な印象がある。不思議と目が離せない。


「気になるなら、この絵、写真にとっておく?」


 隣に座っていたカイルがそう言ってくれた。


「いいのですか?」

「構いませんよね?」

「大丈夫よ」


 その後、護衛のリシャールさんに撮影機を取りに行かせると、絵だけではなく、それの横に並ばせられて写真をとることになった。

 すごく恥ずかしかった。

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