第56話 バーンズ伯爵家で歓迎される

 バーンズ伯爵夫妻とお会いしてから2日ほど、王城でお世話になった。

 たかだか子爵令嬢(その上、元は平民)の私に、王城の方々は大変親切に対応してくださって、こちらの方が申し訳ない気分になるほどだった。

 そしていよいよ、バーンズ伯爵家に移ることになった。そのまま養女として入るためだ。いまだに、自分が伯爵家に入るということについていけていないのが正直なところだ。

 城から出ていくのを、エルドおじさんは嫌がったけれど、そこは王妃殿下に窘められていた。その次に嫌がったのは、なんとテオドア王子だった。


「ヤー!」

「ほら、ちゃんとお見送りしてあげなくては」

「ヤー!」


 カイルの宥める言葉も耳に入らないようで、私の方も困ってしまう。


「(すぐに戻ってもらうから。今日は、ね?)」

「うー」


 何やら耳打ちしているようだけれど、私のところまでは聞こえない。それが魔法の言葉のように、テオドア王子を落ち着かせてくれた。さすが、父親だ、と言うべきか。


「(新しいママはレイがいいだろ)」

「うー!」


 ついにはニコニコ顔に変わったテオドア王子に、ちょっとだけ寂しい気持ちになったけれど、延々と泣かれるよりはずっといいだろう。


「では、お世話になりました」

「いつでも、遊びにきていいからね」

「待っているわ」


 温かい言葉に、少しうるっとしてしまったが、私も笑顔で別れを告げることが出来たと思う。



 そして、バーンズ伯爵家についたら、ついたで、予想以上の歓迎ぶりに固まった。

 思った以上に大きなお屋敷の前に、馬車が止まる。小さく気合を入れて馬車から降りてみれば、出迎えてくださったのは満面の笑みを浮かべた伯爵夫人。その後をお子様なのか、3人の男の子たちがワクワクした顔で待ち構えていた。


「レイ! 待ってたわ!」


 そう言って、ギュッと抱きしめてくださる伯爵夫人に目を白黒させる私。

 うん? 貴族のご婦人がいいのかしら?

 ちらりと、そんなことが頭をよぎったけれど、それも一瞬。伯爵夫人のパワーに、吹っ飛んだ。


「あなたのお部屋も、ちゃんと用意してあるの! そうそう、ドレスも色々用意したのよ、ぜひ、あなたに着てほしくて……」

「母上、落ち着いてくださいっ!」

「もー、母上ばっかり、ずるいですっ!」

「ですー」


 最初の言葉は、たぶん、長男なのだろう。私と同い年くらいだろうか。父親のバーンズ伯爵にそっくりの金髪・金目で、少し華奢な印象を受ける。弟たちも、そっくりだ。

 なんとか伯爵夫人の腕から抜け出した私は、ようやく挨拶ができる。


「レ、レイ・ファルネーゼでございます。よろしくお願いいたします」

「さぁさぁ、ちゃんとした挨拶は中でしましょう!」

「……母上のせいでしょうに」

「何か言ったかしら」

「いえ、なんでもありません」


 澄ました顔でウィンクをしてきた長男に、私の方も、ちょっとびっくりした。

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