第54話 バーンズ伯爵と隠されていた絵画
バーンズ伯爵とその奥様とお会いした。
伯爵が父の弟であり、私にとって叔父にあたる、と言われても、実際会ってみても、ピンとこなかった。父と似ているとは思えなかったのだ。
私の中の父の記憶といっても、ずっと飾っていた絵姿の父しか知らない。
父の髪はプラチナゴールドで、瞳はオレンジ色。しかし、今、目の前にいる伯爵の髪は金髪に……金色の瞳。大柄だった父と比べて、あまり背は高くないし、どちらかといえば細身だ。
それは、伯爵の方もそう感じたようで、無表情で私の顔を見つめている。本当に、私が自分の兄の子供なのか、と見極めているようにも見える。
一方で伯爵夫人の方は、目をキラキラとさせ、両手を揉みしだきながら、喜びの声をあげた。
「まぁまぁまぁ! なんて可愛らしいんでしょう!」
豊かなブルネットにエメラルドグリーンの瞳の、可愛らしい女性だ。
「ローレンス! まるで、私とあなたとの娘のようではありません?」
一人盛り上がっている伯爵夫人の言葉に、私の方が固まる。
私を連れてきてくれたカイルも、夫人の言葉に驚いている。
「アリエル、少し、落ち着きなさい」
「何をおっしゃるの! ようやく、姪に会えたのよ? 落ち着くなんて無理な話しだわ」
「バーンズ伯爵夫人、伯爵の言う通りよ。お気持ちはわかりますけどね」
王妃殿下が隣の部屋から現れた。そして、その後を大きな布で覆われた一枚の板状のものが運び込まれた。
私たちは王妃殿下に挨拶をすると、席に座るように促された。なぜか、私の隣にはカイル殿下。いいんだろうか。
困惑している私をよそに、王妃殿下と伯爵夫人の間で話が盛り上がっていく。主に、私の卒業式の話だ。そんな話をするような大した出来事などなかったというのに。
「そうそう、帰りの馬車の中でも話をしたのだけれど、ちょうど届いたのでね」
そう言って、侍従に先ほど運び込んだ物の布を外させた。
「……驚いた」
最初に声をあげたのは、バーンズ伯爵。
自分でもびっくりした。
たぶん、これがバーンズ公爵家でしまわれていた絵なんだろう、というのは運び込まれてきた時点で予想はしていた。その時は、単純にどんな方だったのかな、という興味本位ではあった。しかし、目の前に現れた姿は、まるで。
「……レイにそっくりじゃないか」
カイルが呆然とした声でそう言った。
貴族の令嬢を描くなら、室内で椅子に座った状態のものが普通である。それも無表情で。
その点、この絵は、一般的な貴族を描くようなスタイルとは一線を画していた。かなりの腕前の画家に描かせたのだろう。背景の庭園の緻密な絵もさることながら、描かれた令嬢の振り向きざまに楽し気に笑っている姿は、今にも笑い声が聞こえてきそうなくらいだ。
……そして、カイルの言葉通り、私に似ていた。いや、私が、似ているのか。
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