アストリア王国 上級学校編

第51話 旅立ち

 無事に卒業式を終えた3日後、エルドおじさんたちとともに、アストリアに旅立つことになった。まさか、こうもすぐに旅立つことになるとは思っていなかった。

 ファルネーゼ子爵邸の前には、3台の馬車が並んでいる。


「気を付けて言ってくるのよ」


 そう言って私を抱きしめてくれたのは、ファルネーゼ子爵夫人。うっすら涙を浮かべている姿に、私ももらい泣きしそう。


「まったく、何もこんなに早く連れて行かなくてもよかろうに」


 サカエラのおじさんが、エルドおじさんに文句を言う。

 私にはいつもの二人のやり取りではあるものの、王妃殿下もいらっしゃるし、護衛の人もいる状態でのあまりの気安さに、周囲を見てしまう。


「レイ、気にしないでいいのよ」


 そう優しく声をかけてくれたのは、王妃殿下。

 結局、二人はお忍びでやってきていたそうで、下位貴族が乗るような馬車でやってきたらしい。二人の格好も、顔を知らなければ……いや、知っていても気が付かないような格好だ。実際、エルドおじさんは何度も来ていたわけだし。


「では、ファルネーゼ子爵夫人、短い間ではあったが世話になった。レイのことも含め、感謝する」

「勿体ないお言葉です」


 子爵夫人は、エルドおじさんたちの正体を知っていても、堂々としている。さすが、元侯爵令嬢でもあり、王族も宿泊するような宿屋のオーナーだけのことはある。


「さぁ、早く戻らねば、カイルだけではなく、テオドアにまで叱られるぞ」

「そうね。テオドアには、レイを連れて帰ると約束してきたのよ」

「えっ?」


 うん?

 この後は、バーンズ伯爵家に入るという話だったような。ただの言葉の綾だよね?


「さぁさぁさぁ」

「では、サカエラ、また、アストリアで会おう」

「ああ。気をつけてな! ……レイも気を付けて!」


 満面の笑みを浮かべているように見えるけれど、目が少し寂しそうに見えたのは気のせいではないだろう。

 私は馬車の中から、彼らの姿が見えなくなるまで、窓際に張り付き、手を振り続けた。




 馬車はオルドン王国の王都を出て、街道を物凄いスピードで駆け抜けていく。少し前を走っていた乗合馬車なんて、あっという間に後方に消えていく。


「は、早い」

「フフフ、こう見えても、王家専用の馬車だからね」

「見た目は少し地味ですけれどね」

「そ、そうだったのですか」


 この速さの割に、車内の揺れがほとんど感じないとは、凄すぎる。

 前にサージェント様と乗らせていただいた馬車も、かなり立派で揺れが少なかった記憶があるが、それよりも、である。


「……前は気付かなかったけれど、やはり、バーンズ家の血を引いているのね」

「はい?」


 突然、しみじみと王妃殿下が言うので、私の方は首を傾げる。


「いえね……先日、久しぶりに王宮で実兄あにと話をする機会があったのだけれど……」


 王妃殿下は、その日のことを話してくださった。

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