第50話 卒業式

 居心地の悪い学校での生活も、あっという間に終わってしまった。

 できるだけ目立たないでいようと思って入学したのに、卒業する時には、ここまで目立つことになるなんて、誰が予想しただろうか。


「ファルネーゼ子爵令嬢は、アストリアの上級学校に行かれるんですって?」


 どこから情報が漏れたのか、卒業式のために登校した私に、教室にいた数人の貴族のご令嬢たちが群がってきた。

 はっきり言って、今までまともに会話をしてきたこともない、高位貴族のご令嬢たちだ。その取り巻きの下位貴族のご令嬢ですら、たまにしか話したことなどなかったのに。


「貴女みたいな平民上がりに、あちらの学校でやっていけるのかしらぁ?」

「確か、ヴェリーニ侯爵令嬢が、同じ学校に行かれるのではなかったかしら」

「まぁ、それはお気の毒に」


 あー、はいはい。

 大丈夫です。そのヴぇなんとか令嬢には、接近しませんから。

 アストリアの学校に行けるのは、好成績の者か、上位貴族くらいのものなので、私みたいな『平民あがり』でそこそこの成績でしかない私が行くのが、気に入らないのだろう。


 ――行かないで済むなら、私だって行きたくはないですよ。


 しかし、一応相手は私よりも上位の貴族のご令嬢たち。言い返すわけにもいかず、笑みを貼りつけるだけで、聞き流す。

 私が反応しないのが面白くないのか、しばらく、グダグダ言われてたけれど、式の開始の案内で、やっと離れて行ってくれた。


 卒業式の式典には、子爵夫人だけではなく、サカエラのおじさんも来てくれた。

 前の方の席に二人が並んで座っていて、穏やかな笑みを浮かべている。私も、笑みを浮かべながら、席に向かおうとしたのだけれど。


「……え゛」


 なんか見覚えのある人が2人いる気がするのは、気のせいだろうか。

 たぶん、平民のふりをしようとしたんだろうけど、全然、平民に見えませんから。


「エルドおじさんに……おう、じゃなくて、イレーナ様……!?」

 

 思わず、呟いたタイミングで、目が合ってしまった。

 二人とも、嬉しそうに手を小さく振っている。平民がいるような学校に、隣国の、それも国王と王妃がいるとか! 駄目でしょ!?

 え、護衛の人とか、どこかにいるのかしら、ときょろきょろ見ていると。


「早く行って」


 後ろにいたクラスメイトの子が、こっそり言う。


「あ、ごめん」


 私は慌てて、自分の席に座る。

 サカエラのおじさんたちは知ってるんだろうか。


 ――知ってても、教えないところ、あるもんなぁ。


 まだ母が生きていた頃、サカエラのおじさんとエルドおじさんから、理由もなくいきなりプレゼントをもらったりして、びっくりさせられたことを思い出した。


 ……でも、国王陛下と王妃殿下が国離れていいのか。それも、たかが子爵令嬢の卒業式に。


 思わず、大きくため息をついた私は、これ以上考えることを放棄することにした。

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