第34話 視線がうるさい

 ―――すごく居心地が悪い。


 自分の席についてから、なんでか、みんなが私私を見ている気がする。

 遠巻きにしながら、コソコソ話してるだけで、近寄ってはこない。

 あからさまにジロジロ見られるわけじゃないけれど、伺うように見られてると、やっぱり気分はよくない。

 どうせだったら、完全に無関心になってくれたほうがいいのに。

 大きくため息をつくと、鞄から教科書を取り出した。


「なぁ」


 私の前の席の男の子が、急に振り向いて話しかけてきた。

 今まで、一度も話したこともないのに。

 思わず、チラッと上目遣いに見た。

 なぜだか、彼は真っ赤になって固まってしまった。

 ……なによ。自分から声をかけてきておいて。


「……何」


 仕方がないから、私のほうから声をかけた。

 その声に驚いたのか、ビクリとすると「な、なんでもない」と言って、前を向いた。


 ――なんだっていうんだ。こんなことなら、前髪もメガネも変えなければよかったかも。


 授業が始まると、先生たちも私の瞳に気づくたびに、たじろがれて、まるで私が悪いことをしている気分になる。


「めんどくさい」


 思わず、ボソリとつぶやいてしまう。

 これも慣れれば、気にならなくなるのか。


 昼休みになって、食堂に向かう。ざわざわした中、私はカウンターで食事を受け取ると、一番端の、誰も座っていない席へと向かう。いつも一人だから、気にかけたことがなかったけれど、今日はここでも、なんだか視線がうるさい。

 席について食事を黙々と口にする。中に、エルドおじさんが好きな卵のフッカ焼きがあって、思わず顔がほころぶ。


「おう?!」


 突然、低い男子の押し殺したような声が聞こえたから、何事かと顔をあげると、男子の集団が私を見てる。目があった瞬間、なぜか、引かれているようで、私が何かしたかと、訝しく思う。

 一方で、女子からはなぜか鋭い視線を向けられて、落ち着かない気分になる。


「はぁ……」


 思わず、大きなため息をついてしまう。

 とりあえず、さっさとこの空間から逃れるべく、味わう余裕もなく食事を終えると、残りは、どこで時間を潰すか、悩ましいけど、ここにいるよりはマシかもと、食堂を出た。

 廊下を歩いているだけなのに、そのたびにふりかえられたり、ヒソヒソ何か言われたり。


「はぁ……もう、いい加減にして欲しい……」


 私は、どこか人が少なそうなところがないか、残り少ない昼休みの間、学校の中を歩き回った。結果、意外に学校の中をよく知らなかったことに気付く。

 そりゃそうか。移動教室以外、ほとんど自分の席から動くことはなかったのだもの。

 おかげで、渡り廊下を挟んで、向こう側に古い建物があるのに今さらきづいた。


 予鈴が鳴った。


 明日から、ホッズさんに携帯食でも作ってもらって、あの建物ででも食べようと思った。

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