第33話 眼鏡を新調する

 先生に言われて、その気になった私は愚か者かもしれない。

 その日のうちに、メイドの子に、長くてボサボサになってた髪をスッキリ切ってもらって、視界が広がった。

 それだけでも十分だったのに、エルドおじさんが「どうせなら、メガネも新しいのにしようよ」などと言いだして、サカエラのおじさんや、護衛の方たちも一緒に、貴族街にある眼鏡屋さんに行って、新しいメガネを作ってしまった。

 今までは小さな雑貨屋のようなところで、太めの黒ぶちのメガネを買っていた。正直、レンズも少し歪んでいたけれど、目を見られるよりは、と思っていたのだけれど。

 さすが貴族街にあるお店だ。シルバーの細いフレームのもので、隠してた金色の瞳が、今までより大きく見える。


「お、お似合いになります」


 なぜか、私を接客してくれた若い男の人が、顔を真っ赤にしながら、誉めてくれた。


「あ、ありがとうございます」


 誉められて嫌な気はしないし、むしろ照れくさくて、なんとか笑顔で応えた。

 そしたら、いきなり、私の手を掴んで、私の目を見つめた。


「お、お嬢様、もしよろしければ、このあとお茶など……」


 ……え?

 なんで、初めて会った、それも眼鏡屋さんの人に、手を握られてるの?


「さぁ! レイ、帰ろうか!」


 私が返答に困っているところに、サカエラのおじさんが現れた。そして眼鏡屋の男の人の手を剥がして、睨みつけてる。

 そして、その後ろには、エルドおじさんや護衛までが、怖い顔してる。


「は、はいっ。帰りましょう!」


 私は、怖い顔のおじさんたちをなんとか連れ出して、店を離れた。

 店を出てから、なぜだか、ずっと人から見られているように感じて、落ち着かない気分で馬車に乗り込む。どちらのおじさんの隣になるかで、しばらく揉めた。思わず、子供か、と怒鳴りそうになる。

 結局、隣はサカエラのおじさん、前にエルドおじさんが座ることに。サカエラのおじさん、全然、エルドおじさんを王様扱いしてないんだけど。お互いが納得してるならいいけど。護衛の人も、もう慣れてしまってるのか、注意もしない。


「レイは、やっぱり髪をすっきりさせたのは正解だったね」

「ああ、メリンダ譲りの可愛らしい顔立ちが映えるな」


 ご機嫌に語り合うおじさんたち。嬉しいは嬉しいけど、身内びいきが否めない。


「よし、それじゃ、三人で記念写真だ!」

「いいねぇ!」


 エルドおじさんが、服のポケットから掌サイズの小さな撮影機を取り出した。これは最近、貴族で流行りだしているもので、詳細な絵が映し出されるものなのだとか。そのうえ、その絵を紙に移してしまうものまであるという。それこそ、かなりの高級品。さすが国王陛下だ、と思っていたら、サカエラのおじさんまで持っている。


 ……金持ちは違う、と少しだけ、呆れる。


 何度も何度も撮りなおしては、ああだ、こうだ、と楽し気に話している二人。そして最後には、三人の写真を撮ったのかと思ったら。


「さぁ、我々の息子たちに、見せびらかしてやろう!」


 わははは!


 おじさんたちは、楽しそうにそれぞれの息子宛に伝達の魔法陣でその写真を送っていた。

 仕事や勉強に忙しくしている二人のことを思うと、思わず申し訳ない気持ちになった。

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