第30話 物騒な話に困惑する

 思わず、「え?」と声をあげてしまう。


「こう見えても、私は国王だからねぇ。狙われる可能性があるから、護衛がいるわけだし」


 そんな私に、お道化たふうに言うエルドおじさん。


「そ、そりゃそうだけど」

「早いところ、邪魔な王様は消してしまいたい奴等もいるわけさ」

「でも」

「私がいなくなれば、カイルが跡を継ぐ。しかし、もし、君が私の隠し子だとしたら、正当な後継者として、君が継ぐ可能性もある」


 確かに、その昔、アストリアに女王がいたというのは、歴史で習った記憶がある。かなり、苛烈な女王だったからだけど。それだって100年以上前の話だ。


「でも、私はおじさんの子供じゃないよ」

「ああ、だから、それを知らない奴等が君を狙ってるかもしれない、ということだ」


 それだって、なんだか、納得いかない。


「その、マイア―ル男爵が私へ接触してきた理由って」

「可能性としては、自分のところへの囲い込み、かな」


 サカエラのおじさんが、首をかしげながら、そう答える。


「……跡継ぎとかいないんですか?」

「いや、一応、息子が一人いるようだ」

「だったら、私の必要性、なくないですか?」

「彼らが何を考えているのかはわからんがね。アストリアに戻ってこられないよう、マイア―ル男爵家に引き止めさせようとでもしてるのかもね」

「引き止めって」

「結婚とか?」


 その言葉に、固まる私。

 確かに、学校を卒業してすぐに結婚する子がいるにはいる。特に、お貴族様とか。

 でも、私は平民で、結婚よりも母と同じ仕事がしたい。

 いや、そもそも、私なんかと結婚させられるのって、まさか。


「ないない、私、平民ですし」


 お貴族様的メリットなんて、ないでしょ。

 

「彼らは、君を王族の落としだねだと思ってるんだ。それをアストリアに来させないようにするだけで、何がしかの報奨があるとしたら?」

「え、でも、資産家なんじゃ」

「……資産はいくらあってもいい……そういう輩は、いくらでもいる」


 思わず、げんなりする。


「それと、レイは忘れているようだけれど。君の父親は、アストリアでは伯爵家の長男だったんだよ」

「……」

「王妃であるイレーナに繋がる血筋だ。けして、ただの平民ではない」


 苦笑いするエルドおじさん。

 この前、アストリアに行って初めて会っただけなのに、王妃様からしてみれば、大した関係ではないと思うのだけれど。


「でも……たとえば、私が死んだとしても、カイル様が跡を継げば国としては安泰なのでは?」

「そんな悲しいことを言わないでおくれ。確かにカイルなら、よい王になるだろう」


 エルドおじさんが、優しく微笑む。


「できれば、面倒なことは私の代で、始末してしまいたいものなんだがね」


 遠くを見るように、天井を睨むエルドおじさんは、いつにも増して厳しい顔をしていた。

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