第28話 サカエラおじさんに相談する

 サカエラのおじさんは、日付が変わる前に家に帰ってきた。

 今日は商会での仕事の後に、どこかのお屋敷での夜会に行っていたようだ。平民とはいえ、大きな商会の会長だけに、貴族の方々とも親しくしているらしい。

 アストリアにも支店があり、実際、王宮にも顔を出しているのだから、かなり大きい商会なのだろう。それに比較すると、屋敷のほうは、こじんまりしているのは、家よりも商売の方が好きなんだろう。

 ……それもあって、奥さんに逃げられた、なんて本人が冗談を言うくらいに。


 私はあのメモが気になって、おじさんが帰ってくるのを、玄関フロア近くのサロンでずっと待っていた。ドアの開いた音が聞こえたので、慌てて出迎えに行く。


「レイ、まだ寝ていなかったのかい?」


 こんな遅い時間になっても、出迎えに現れるギヨームさんに上着を渡しながら、サカエラおじさんが驚いたように声をかけてきた。お酒の匂いはしているけれど、醜態をさらすほどには酔っていないようだ。


「はい。おかえりなさい」


 ギヨームさん以外の使用人は離れにある建物に住んでいるから、こんな時間にはいない。そして、エルドおじさんも、すでにベッドの中。だから余計に驚いたのだろう。


「あの……エルドおじさんから、連絡いってますよね?」


 なんだか不安になって、サカエラのおじさんを見上げてしまう。


「ああ。一応、知り合いの貴族の方にお時間をいただくことは出来たんで、明日にはわかるとは思うよ」


 考えてみれば、まだ調べがついているわけがないか。

 エルドおじさんが連絡したとしても、まだ数時間前のことだ。それなのに、貴族の方と話をする時間をとってもらえるだけ、凄いことなのだ。


「すみません、忙しいのに」

「いや、レイが不安な気持ちになるのはわかるよ。普通なら、レイくらいの普通の子供のところに貴族が話を持ってくるなんて、ありえないからね」

「……あと、今度、面談があって」


 こんなこと、毎回お願いするのも申し訳ない、と思うけど、今の私の保護者は、サカエラのおじさんしかいない。


「そうだったね! 大丈夫、ちゃんと予定はあけておくよ」

「ありがとうございます」

「そうだ。一度、レイのこれからについて、話をしなくちゃいけないね」

「……」

「心配しなくても大丈夫だ。私もエルドも、きみの味方だから」


 タイをゆるめながら、私の頭をなでると、執務室へと向かおうとした。まだ、仕事が残っているのだろうか。


「あ、おじさん、お夜食とかは」

「ああ、大丈夫だ。今日は、食事もできたからね。ホッズには悪いけど、明日の朝、食べるよ」

「……はい」


 おじさんは、「おやすみ」と片手をあげて、去っていく。

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