<カイル>(12)
レイが襲撃された、と伝えられ、執務室を飛び出し客室へと行ってみれば、ひどく青ざめた顔でソファに座るレイの姿があった。
「怪我はないか?」
私の声に、ホッとした顔を向けるレイ。
「はい。皆さんが守って下さったおかげで」
手にしたティーカップを両手で持っていたが、微かに震えている。私は彼女の傍に行ってしゃがむと、彼女の両手を包み込んだ。少し冷たい。
「よかった……リシャール、よくやった」
「はっ」
彼女の前で詳しい話をするわけにもいかないので、彼女の頭を軽くなでると、私はリシャールを連れて部屋から出た。
「なぜ、彼女が狙われた……それも王宮の裏門でだぞ」
「……噂の独り歩きかと」
王宮の中を見慣れない若い女性……それも王族以外の使用人でもなんでもない女性が歩いる姿を見れば、王家の関係者と思うに違いない。
おしどり夫婦として知れ渡っている国王夫妻。王太子である私が同行していたとはいえ、陛下の寝室へと案内されたとあっては、邪推する者もいるかもしれない。
しかし、さすがに十代前半のレイを見て、父親ほども年の差のある陛下とどうこうと考えるような者はいないと思いたいが。
「失礼します」
執務室に戻り、書類を処理していると、普段通りの無表情なユージンが静かに入ってきた。
「……犯人は」
「申し訳ございません」
「くそっ」
レイの怯えていた姿が、頭をよぎる。
「これでは、今日はレイの作ってくれた食事は食べられそうもないな」
「いえ、もう少ししたら、厨房に行かれるようです」
「何だって」
「何かしら作っていた方が気がまぎれるとか……さすが、レオンの娘というところでしょうか」
フッと微笑むユージン。
「カイル様、心配しすぎですよ」
「……そう言われてもな」
髪をかきあげて、大きくため息をつく。
「あれは本気の襲撃だと思うか」
「……いえ、警告ではないかと」
「彼女の情報については、ほとんど知られていなかったはずだが……やはり厨房に行かせたからか」
「可能性がないとは言い切れません」
厳しく緘口令をしいたところで、王宮内には多くの貴族たちの関係者が入り込んでいる。
「……護衛を増やせ」
「はい。王妃様より、ベアトリスをつけるようにと」
「彼女か」
ベアトリスは、チャールズの双子の姉。既婚者ながら、王妃のお気に入りの護衛である。その彼女をつける指示を出すほどとは。
「……だいぶ、王妃に気に入られたようだね」
「そうですね。すでに、バーンズ伯爵家にも連絡を入れらているようです」
「なんだって」
レイの父親のレオン・バーンズは、伯爵家の長男ながら、結婚相手が他国のそれも平民だということで絶縁状態だったらしい。今はその弟が伯爵家を継いでいた。
彼が亡くなったのは、近衛騎士として最後の勤めの日だったと聞いている。それを終えたら、オルドンへと、妻の元へと行くはずだったと。
「伯爵は領地に戻られているらしく、王妃様が奥方をお茶会に招いているそうです」
「まさか、そこにレイを呼ぶとか言わないだろうな」
平民の、それも学生の彼女に、貴族のマナーなどわかるわけもない。そんな場に引きずりだされたら。
「ユージン。あまり、彼女に無理をさせるな」
「……はい」
あのように狙われた後に、これ以上彼女が傷つく姿は見たくない。
そう強く思った。
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