第23話 襲撃

 リシャールさんが、思いのほか、市場の他、平民街にも詳しくて驚いた。なんでも、カイルのお忍びとかに、何度か付き合わされたことがあるらしい。王太子がお忍びで、とか、あの容貌では目立ちそうなのに、ちゃんと忍ぶことができたのだろうか。


 ダイスさんの実家では、なかなかの収穫があった。

 おじいさん、久しぶりのオルドン語で泣きそうになってて、つられて私も泣きそうになって困った。


「シーユとミシルまで分けていただけるなんて」


 期待はしてた。

 絶対ソームルがあるなら、シーユやミシルもあるはずだって。ただ、オルドン特有なものでもあるから、こちらでは貴重なものになるかも、と思ったのだ。

 でも、エルドおじさん……国王陛下が召し上がると聞いたら、おじいさんはむしろ大喜びで分けてくれた。ありがたいものだ。

 しかし、荷物が増えてしまった。どうしようと、思ったら、いつの間にかお付きの人が増えていてびっくり。もしかして、つけてきてたのだろうか。


「ずいぶんと塩辛いんですね、シーユというものは」


 そんなことを考えていると、味見をしたリシャールさんが、味を思い出して顔をしかめている。普通は原液のままでなんて飲まないから。


「あくまで、調味料ですから」

「そういうものなんですね」


 リシャールさんは普段、厨房になんて入らないだろう。だいたい、できたものしか口にしないようで、なかなか新鮮な驚きだったようだ。

 そんな会話をしていたおかげか、私たちはだいぶ砕けた雰囲気にはなったと思う。お貴族様相手に、どうかとは思うけど。


 必要と思われるものは一通り手に入れた私は、かなり満足していた。あとはまた、王宮の厨房をお借りして……と、作る物を考えながら、ほくほくした気分で王宮へ戻ろうと、リシャールさんの後をついていく。

 リシャールさんは王宮までの近道を選んでくれたようで、王宮の裏の通りを歩いていると。


 パシッ!


 突然、私の足元に太い矢が突き刺さった。


「えっ!?」


 目の前の状況に、固まる私。


「!? レイ様、こちらに急いでっ」


 荷物を持ったリシャールさんが、いきなり私を背後に庇うように隠しながら、王宮の裏門へと走る。気が付くと、黒ずくめの服を着た男の人たちが現れて、私たちの周りを守るように並走している。もしかして、こんなにつけてる人がいたの!?


「リシャール様」

「任せる」


 一人がぼそりと問いかけてきたのを、リシャールさんが小声で何か答えている。数人だけ残して、他の人達はババッといなくなった。

 一瞬のことにびっくりしながらも、私はリシャールさんに促されて王宮の裏の入口から無事に戻ることに成功した。

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