第22話 王都の市場で買い物をする
翌日、初めて街に行ってみた。一番は、エルドおじさんに食べてもらう食材探しだ。
一応、王都ということもあり、市場もかなり大きい。ここであれば、オルドンの食材があるのではないか、と期待したのだ。
当然、ついでに街の観光も楽しむつもりだ。
オルドンと違い、アストリア王国は冬場かかなり寒くなるせいか、石造りの重厚な建物が多い。木製のドアには、必ずと言っていいほど、その家々の紋章のようなものが色とりどりで描かれていた。
当然、街中はアストリア語であふれている。それなりに会話はできるものの、今までにないくらい、アストリア語ばっかりなので、なかなか新鮮だし、勉強になっている。
人の波をぬいながら、市場の店を覗いていく。そんな私の後をついてくるのは、なんと、カイルに付いていた厳つい人……リシャールさんと言うらしい。王太子付きの人だから、絶対、この人もお貴族様だと思うんだけど、私についてきていいんだろうか。
『あ、コイモン(とろろ芋)だ』
まさか、オルドンの食材でも珍しいコイモンがあるんなんて。
『おや、あんた、オルドン人かい』
かなり高齢の店主がオルドン語で声をかけてきた。
『ええ、つい、この前、こちらに来たのよ。コイモンなんて、珍しいんじゃない?』
『そうさね、アストリアではあまり食べられないんだがね、好きな者がいるんでな』
コイモンは山の中に生えているもので、平地が多いオルドンでは珍しい。そういえば、アストリアは山に囲まれた土地柄、あってもおかしくはないのか。それでも、食べないっていうのはもったいない。
『これ、ください』
『おう、ありがとさん』
これをすりおろしたものを、エルドおじさん、食べてくれるだろうか。店主がずいぶんと大きなのを渡してくれたもので、大きめな籠からにょっきりと芋が出てします。
「よろしければ、お持ちしますが」
そう声をかけてきたのはリシャールさん。
「え、あ、いえ、大丈夫ですっ!」
私は恐縮しながら、籠を抱え込んで、ニッコリ笑った。
一応、護衛とはいえ、お貴族様に、無理ですっ!
しばらく市場をうろうろしているうちに、買いたい食材はほぼ揃えられた。たぶん、王宮の厨房にもありそうだけれど、自分で選んだ方が、なんとなく落ち着くというか。
「あとは、ダイスさんの家ですね」
昨日、わざわざソームルと土鍋を持ってきてくれたダイスさん。もしかしたら、他にもオムダル由来の調味料とかないかな、とか思ったので、ダイスさんの実家に伺うことにした。ちゃんと、ダイスさんには許可をもらってる。
――できたら、シーユ(醤油)やミシル(みりん)あたりがあったらいいんだけど。
私はダイスさんに書いてもらった住所をリシャールさんに見せる。
「それでしたら、あちらですね」
リシャールさん共もに、私たちは市場を抜けると、平民が多く住む街の方へと足を向けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます