第21話 エルドおじさんのために料理をする(2)

 私が用意したのは、おじさんの夕食になってしまった。メイドさんから、食事を運ぶワゴンを借りて、私自ら持ってきた。なかなか新鮮。


「私がおじさんに作ってあげられるのは、これくらいだよ?」


 ベッドに半身を起こしたおじさんの目の前におかれたソームルの具だくさんスープ。出来立てほやほや。コックトウル(瓜科)の漬物は、浅漬けだから、歯ごたえもあっていい感じ。水麦の炊いたやつは、土鍋ごと持ってきた。目の前で小さな器に盛ってあげたら、おじさんの目がキラキラしてるし。


「おおお! 久しぶりの水麦だ!」

「王宮の厨房にはあったよ? 作ってもらわなかったの?」

「……作り方がわからんし」

「え、でも、ダイスさんっていう若い料理人の人が、食べたことあるって」

「なんだと!」


 ……エルドおじさんは知らなかったらしい。オルドン出身の身内がいる者が厨房にいるのを。まぁ、確かに、国王陛下なわけで、わざわざ、厨房のそれも下っ端にまで目が届くわけもない。


 ……あ、そうだった。エルドおじさんは、国王だったっけ。


 今更思い出して、内心焦っている私をよそに。


「早くに知っていれば!」 

「とりあえず、どうぞ」

「おお!」


 ――病人だったんだよね?


 そう思うくらい、エルドおじさんの食事が進む。


「……美味い。美味いなぁ」


 エルドおじさんの呟きが聞こえる。


「おじさん、おかわりいる?」

「あ……お願いしようか」


 私の言葉に素直に器を差し出すおじさん。

 格好はいつもと違うけれど、浮かべる笑みはいつものおじさんだ。


「このスープもいいな。少し塩味が強い気がするが」

「ごめん、これもこちらで分けていただいたやつだから」

「そうか、そうか」


 気が付いたら、スープも水麦も完食してるし。


「美味かった!」

「それはよかった」


 すっかり、二人の世界になっていたところで。


「……次回は、私たちも食べさせていただきたいものですね」


 あ。

 カイルと王妃様が、笑みを浮かべながら立っていた。


「す、すみませんっ!」


 いや、しかし。おじさんが望んだから、食事を作ったわけで、さすがに他の王族の方々には……。

 チラリとおじさんへと目を向けるけど、スッと視線を逸らされた。ズルいッ!


「いや、でも、私が作れるのは、こんな質素なものでしかありませんし」

「いえいえ、陛下が美味しそうに召し上がっているのですもの、私も一度は頂てみたいですわ」


 ……えぇぇぇぇ。

 これ、料理人の方々に失礼ってもんじゃ。


「レイ、今度は卵のフッカ焼き(キッシュ)が食べたい」

「お、おじさんっ」

「お前のフッカ焼きは世界一美味い。食べたいなぁ」


 そんな物欲しそうな顔をするなんて、ズルいっ。


「う、う~ん」

「ぜひ、作ってはもらえないだろうか……今度は、私たちの分も」


 カイルがニンマリ笑ってる。

 ああ、これは、断れないやつだ。 


「は、はぁ……」

「じゃあ、明日のお昼なんてどうだ?」

「わ、わかりました……料理人の方には、ちゃんと断りを入れといてくださいね」


 私は料理をするために、ここまで来たんだろうか。

 食器を片づけながら、ちょっとだけ、首をかしげる私なのであった。

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