第20話 エルドおじさんのために料理をする(1)

 私は、今、王宮内の大きな厨房にいる。

 時間はすでに昼食の後片付けも終わり、料理人の方々の食事も終えているようだ。


 カイルから、エルドおじさんの食事を作るように頼まれて、ここに立っているのだけれど、私が作れるのなんて、母の教えてくれた家庭料理。それなのに、こんな厨房に連れてこられて、さぁ、作れ、といわんばかりに、料理人たちに見つめられてるなんて、どんないじめだ。でも、エルドおじさんの頼みごとじゃ、仕方ない。

 

 でもっ! こんな大きな鍋とか、フライパンとか、私に使いこなせるわけないじゃない!

 それに、サカエラ邸に持ち込んだ、母手作りの調味料、ソームル(味噌みたいなもの)もない! ……今では微妙にマリエッタさんの味になってきてるけど。

 たぶん、エルドおじさんが食べたいのって、そういうのだろう。


 大きなため息をつくと、たぶん、この場で一番偉そうな人(たぶん、料理長)に声をかけた。


「どうかしたかい?」

「すみません、あの、こちらにはソームルはないですか?」

「ソームル……ああ、オルドンの家庭で使われる調味料か。うーん、さすがに、この厨房では用意してないなぁ」

「そうですか……あ、あと、もう少し小ぶりな鍋とか……」

「ああ、それならある」


 料理長が若い料理人に声をかけてくれた。


「そういや、ダイス、お前んとこの爺さん、オルドン出身じゃなかったか」


 小鍋を持ってきた若い料理人に、別の料理人の人が声をかける。


「あ、はい。ソームルなら、実家にならあるかもしれませんが……家々で味が違うんで……」


 確かに、材料の配分で味が少しずつ違ってくる。しかし。


「あの、無いよりいいので、少しお分け頂けたりしますか?」

「ダイス、今から取りに行ってこい」

「は、はいっ」


 ダイスが駆け出していく後姿を見送ると、他の材料の方へと目を向ける。

 一応、今考えているのは、ソームルの具だくさんスープに、コックトウル(瓜科)の漬物、水麦の炊いたやつ。どれも母が得意にしていた料理だ。


「さすが王宮……いい材料が揃ってるわ」


 立派な野菜や大きな肉の塊があったりと、なかなか街中の市場でもみない物がある。

 私がザックザクと材料を切っているうちに、ダイスさんが大荷物を背負って帰ってきた。


「はぁ、はぁ、も、戻りましたぁっ」


 膝から崩れ落ちながらも、背中の荷物は落とさなかった。偉い。

 その荷物を他の料理人たちが受け取り、調理台へと置いていくと。


「わっ! 凄いっ! 土鍋も持ってきてくださったんですか!」


 思わず喜びの声をあげる。


「はぁ、はぁ、はぁ……じ、じい様が、オルドンの料理をやるなら、これも使うんじゃないかと」

「おお! わかってらっしゃる!」


 アストリアの食事はパンがメインなのは聞いていたし、そもそも、水麦の炊くのも、オルドンの田舎料理だと、母から聞いた記憶がある。


「さぁて、頑張りますか」


 私は土鍋を手に、気合をいれたのであった。


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