第24話 国王一家と食事する

 あんなことがあったせいで少し遅くなったけれど、お昼の準備をすることができた。

 リシャールさんやサージェント様が無理しなくても、とおっしゃっていたけれど、何かしてた方が気がまぎれると思ったのだ。


 今日は、エルドおじさんの希望にそって、卵のフッカ焼き(キッシュ)を用意した。まだ、ベッドから出られる状況ではないようで、私はその脇で、おじさんが美味しそうに食べている姿を見つめてる。そういえば、うちに遊びに来ていた時も、こんな風に美味しそうに食べてくれた姿を思い出す。

 寝室の片隅では、王妃様とカイル、そのうえテオドア王子まで、カフェにでもあるようなテーブルで、私の作ったフッカ焼きを食べている。その上、テオドア王子はフォークでフッカ焼きを突き刺して、振り回してる。

 こういうお城みたいなところは、ながーいテーブルで、食事をするものだと思っていた。今、目の前で起こってるのは、普通のことなんだろうか?


『オイシーイ!』


 急に、テオドア王子が、フッカ焼きを私に見せながらオルドン語で叫んだ。


「私が教えたんだよ」


 ニコリと優しく笑うカイルに、私は一瞬、ドキリとしてしまう。まったく、美男子は罪作りだ。


「お食事中すみません……」


 サージェント様が、静かに現れ、カイルの耳元で何か話している。きっとお仕事の話なのだろう。

 私は、フッカ焼きと格闘しているテオドア王子から、フォークをとりあげて小さく切り分けた。小さくした切ったフッカ焼きを、テオドア王子の口元にもっていくと、嬉しそうに大きくあける。

 ……さすがカイルの息子。凄いカワイイ。


「陛下」

「……どうした?」

「……しばらく、レイ様と一緒にオルドンに行かれませんか』


 部屋の音が、テオドア王子が動かすフォークの音だけになった。

 私、アストリア王国に来たばっかりで、たいした観光もしていないんだけど、と少し思ったんだけれど。


「……いいね」


 おじさんは、躊躇なく、カイルの言葉に頷いた。

 なんだか、いつものおじさんよりも、顔つきが鋭い気がする。


「おじさん、サカエラおじさんのうちに来るの?」

「ああ、しばらくのんびりするのもいいだろう。オルドンに行くのも久しぶりだしね」

「え、でも」


 カイルを見ると、優しく微笑んでる。


「さっそくですが、明日からで、よろしいですか」

「明日!?」


 サージェント様が、当然のことのように言うのに、私もびっくりして、思わず、大きな声が出た。だって、一国の王様が、そう簡単に他国にいっていいの!?

 ……あ、普通にうちに来てたっけ。


「まぁ……私、レイをお茶会に誘いたかったのに」

「王妃様、それは」

「もう……わかってるわ。レイ、次に来た時には、ぜひお茶会に出てほしいわ」

「え、え、え?」

「貴女の義理の叔母様と、お約束してたのだけれど」


 ……義理の叔母?

 王妃様と父がいとこ同士だったとは聞いたから、親戚がいてもおかしくはなかった。でも、それ以上の詳しい話を母からも聞いていなかった。

 当然、王妃様は高位貴族のはず。父は貴族だたってこと……

 というか、高位貴族や王族とのお茶会とか、無理だしっ!


「そんなことより、もっとレイの料理が食べられないのが残念だなぁ」


 エルドおじさんが心底残念そうな顔で言うから、思わず私も笑ってしまう。


「うちに来たら、ホッズさんが作ってくれるよ?」

「私は、レイの料理が食べたかったのだ!」


 まるで、子供みたいなことを言うおじさんに、テオドア王子まで、「たべたい! たべたい!」だなんて言い出す。


「おじさんがそんなのじゃ、テオドア王子がワガママになっちゃいますよ?」


 ダメですよ? と注意すると、カイルと王妃様が、クスクス笑ってる。

 ここに、国王一家がいるなんてことを忘れるくらい、ほのぼのとした空気に、私は幸せな気分になった。

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