第19話 テオドア王子(2)
『カアイイー!』
テオドア王子は、そんな私の心境なんて、気づくわけもなく、キャッキャと私の髪をいじりはじめた。
「わ、ど、どうしよ。ダ、ダメですよ、テオドア様」
ぐしゃぐしゃにされながら、私は眼鏡をとられないようにはずした。せっかくメイドさんたちに綺麗にしてもらったのに。そう思いながら、手櫛で整える。
カイルも慌ててテオドアを足元に下して、私の顔を見ると、にこりと笑った。
「そうやって、眼鏡なんてはずせばいいのに」
カイルは、前髪をすくいあげて、私の瞳を覗き込む。
「えっ……」
「美しい瞳をしているのだから」
母以外に、そんなことを言う人はいなかった。
近所に住む子供たちに散々揶揄われてたから、小さいうちは前髪を伸ばして、学校に上がるころには眼鏡もかけて、金色の瞳を隠していた。
私は慌てて前髪を元に戻すと、カイルから少しだけ離れた。あまりにドキドキし過ぎて、自分の顔が火照ってるのがわかる。カイルは自分がどれだけ美形なのか、わかってないんじゃないか。
「レイ?」
私の足元に来たテオドア王子が、ドレスをちょいちょいと引っ張る。
「おねつあるの?」
「……大丈夫かい?」
テオドア王子の言葉に、少し心配そうに優しく語りかけるカイル。
「す、すみません。ちょっと、疲れが出たのかもしれません」
「それはいけない。今日は、一日ゆっくり休むといいい」
カイルはテオドア王子を乳母に預けると、私とともに部屋を出た。
そこには、しっかり護衛の二人が待っている。さすが王太子だ。それなのに、私の隣を歩いて、歩調まで合わせて歩くカイル。
先ほどのカイルの顔を思い出すだけで、ドキドキが止まらなくなるから、顔をあげることができない。
私の部屋まで送ってくださったのは、助かった。この広い王宮内、一人で戻ってこれる自信はまったくないのだもの。もう一度、エルドおじさんのところに行く自信もない。
「無理はいけないよ?」
「……はい。ありがとうございました」
ドアの前でぺこりと頭を下げると、去り際に、カイルに軽く額にキスされた。
「へ?」
こっちでは挨拶のたびに、するものなのだろうか? いや、貴族とか王族とか?
呆然と見送る私を、護衛の二人……厳つい方はまったく見向きもしなかったけれど、もう一人の若い方は、ニヤニヤ笑いながら、私にひらひらと手を振って去っていった。
彼らの姿が見えなくなったとたん、胸がドキドキしてきた。
――毎回、こんなことされてたら、私の心臓は持たない気がする。
私は頭をクラクラさせながら、部屋の中へと入っていった。
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