第18話 テオドア王子(1)

 エルドおじさんと、ほとんど話らしい話をする暇もなく、私は別室へと案内された。そこでは、先ほど会ったばかりのテオドア王子が、四十代くらいのおばさんとともに、遊んでいた。たぶん、乳母かもしれない。


「先ほどは時間がなかったからね。改めて、僕の息子を紹介させてくれるかな」


 カイル王太子を見つけたとたん、大きなエメラルドグリーンの目が一層大きく開かれ、 嬉しそうに立ち上がって、とてとてと歩いてくる。


「パパ!」


 カイル王太子は、その姿を誇らしげに見つめ、彼が歩いてくるのを待っている。カイル王太子の足元に到着すると、サッと抱き上げられたテオドア王子。彼の顔が私のすぐ目の前までやってきた。うわ、可愛いっ!


「テオドア、ご挨拶は?」

「う?」


 最初、カイル王太子にきょとんとした顔をしたかと思ったら、今度は私のほうを見る。


「テオドア! さんさいっ!」


 ……満面の笑みを浮かべて、ご挨拶してくれたのはいいんだけれど、なぜか今度は、ご機嫌で私の頭をペシペシ叩き始めた。所詮、三歳児のこと、大した力はないんだけど。

 私も、ついつい、ニコニコしながら叩かれている。


「こらっ! テオドア! 人の頭を叩いてはいけないよ」

「カイル王太子殿下、大丈夫ですよ」


 カイル王太子の注意の声に、彼の息子は、一瞬、父親が何を言っているのかわからないのか、ぽかんとしている。


「いや、そういうわけにはいかない。ダメなものはダメと教えなければ」

「まぁ、そうですけど……テオドア様、痛い痛いですから、やめてくださいね」


 そう言ってニッコリ笑ってみせると、今度は私の笑顔の何十倍もの威力の微笑みが返ってきた。


『か、かわいいいいい!』


 思わず、正直な声が出てしまう。


『カアイイ?』


 ああ、テオドア王子は、なんて顔で、『カアイイ』なんていうんだろう!

 私の顔は、きっとメロメロになってるに違いない。


「クスッ、レイ、君の顔も、『カワイイ』よ」


 そう言ったかと思うと、カイル王太子は、隣に立っていた私の頬にキスをした。


「えっ!?」

「それと、私のことはカイルと呼んでくれ」

「い、いえ、そういうわけには……」


 目の前に、超イケメンの真面目な顔が接近してるっ!

 視線をはずして、乳母らしき女性や、他のメイドさんに目を向けるけど、サッと視線を外される。誰も助けてくれないのか!

 もう一度カイル王太子に目を向ける。


「カイル」


 諭すように言う、優しく響く低い声は、まるで魔法の言葉みたいだ。


「は……はい。カイル」


 目の前にある深いエメラルドグリーンの瞳には、誰も抗えないに違いない。

 相手が身分違いの王族だとわかっていても、吸い込まれるように、惹かれてしまう自分に、気付いてしまった。

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