第15話 ドレスを着る

 私は混乱している。


 ――なぜ、こんな、立派なドレスを着させられているんだ?


 要所要所に美しいレースが施された、薄いサーモンピンクの可愛らしいドレス。人生初ドレスだ。こんなのお貴族様が着るようなものじゃないか。平民の私が着ていいものじゃない。

 その上……なぜかピッタリのサイズのドレスが用意されている。

 三つ編みにしていた黒髪はほどかれ、キレイに梳られて、うねうねと波打ち、艶々に光っている。うっすらと化粧を施されて、今まで見たことない自分がいる。残念なのは黒縁メガネ。これを外すと、よく見えないから、仕方がないけど。


「前髪はお切りになりませんの?」


 メイドの一人がそう言って顔を傾げて、覗き込んでくる。

 眼鏡で隠しても、見えてしまう、金色の目が嫌いだ。この目の色のせいで、小さい頃は散々いじめられた。


「ええ、このままで」


 残念そうな顔をしながらも、それ以上は言わないでくれた。


 私が案内された部屋は、王城の中の一角にある客間なのだろう。一応、私の荷物も置かれているので、ここに泊まるんだろう……って、平民の私が、こんなお城に泊まるのかっ!? と思って、いっしょに来てくれたマリアに聞いたら、ただニッコリとされただけだった。


「まぁまぁ! やはりお似合いですね!」


 そんな葛藤をしている私をよそに、頬を染めながら、メイドたちが喜んでいる。

 彼女たちは王城に務めているのだから、私みたいな平民ではなく、貴族のご令嬢たちのはずだ。そんな彼女たちに、私はどんな身分の者だと伝わっているんだろうか。もし、平民だと知ったら、こんな態度はしないんじゃないか、と思ったら、なんだか嫌な気分になる。まだ、何もされていないのに。

 部屋のドアがノックされる。


「はい、どうぞ」


 私の声に、ドアがゆっくりと開く。そこには、王子様の格好をした(いや、実際に王子様なんだけれど)カイル王太子と……彼そっくりの小さな男の子が、彼に抱えられながら現れた。

 室内にいたメイドたちが、ササッと、頭を下げている。


「あっ」


 私も慌てて彼女たちに習おうとしたんだけれど。


「レイはそのままで」


 そう言われてしまえば、身動きができなくなる。


「凄くいいね」


 おおお。なんだ、その輝かしいばかりの微笑みはっ!


「パパ、このひと、だあれ?」


 ……なんと。この子がカイル王太子の息子!?


「この人はねぇ……国王陛下……お祖父様の大事な人だよ」


 その言い方、なんか誤解を受けそうなんですけど。思わず、苦笑いを浮かべる私。そんな私に目を向け、意味深な笑みを浮かべている。

 いやいやいや。これ以上、何か画策とかしてないわよね。

 私は唇が引くつくのを、止められなかった。

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