第13話 宿屋に泊まる

 すでにアストリア王国内には入ったものの、王都まではまだしばらくかかるらしく、途中の町で泊まることになった。まだ山を下りきっていないこともあり、雪がちらほら残っている。すでに日は落ちていた。

 馬車を降りたとたん、寒さに震える。それはそうだ。季節が夏の国から来たのだ。格好はそのまま。馬車の中が過ごしやすくて、気が付いていなかった。


『ああ、忘れていた』


 サージェント様が慌てたように、私に上着をかけてくれる。温かい。


『ありがとうございます』

『いや、私はこの程度の寒さは慣れているが、オルドン王国から来た者には厳しかろう』


 そう言いながら、私の背中を押して宿の方へと案内してくれた。

 宿の中は明るく、外と比べてもかなり暖かかった。私はすぐに上着をサージェント様へと返すと、ぐるりと中を観察してしまう。

 オルドン王国の王都にある母が務めていた宿屋も、そこそこ高級な宿屋だったが、そこと比べるとかなり大きい。エントランスホールには、大きな鹿の頭部の剥製が飾ってある。山の中ということもあり、こういう動物も多く生息しているのだろうか。ついついジッと見てしまう。


『サージェント様、お待ちしておりました』


 宿の主人なのか、立派な服装の中年の男性がカウンターの中から現れた。彼の様子からも、この宿はサージェント様の定宿なのかもしれない。


『ロマーノ、世話になる』

『はい……そちらのお嬢様は?』

『……大事な客人だ。失礼のないように』


 私のことはそれ以上触れない。私もただ頭を軽く下げるだけにした。


『……かしこまりました。お部屋はいつもの所でご用意しております……ご一緒で?』


 中年男性は困ったような顔で、問いかけてくる。

 一応、これでも15才。アストリアではどうかは知らないが、オルドンでは、もう少しで成人なのだ。サージェント様と同室なんて!


『別の部屋で!』

『……当然だ』


 思わず叫ぶ私。一方のサージェント様はギロリと睨む。男性は無表情に頭を下げると、そのままカウンターに行って鍵を二つ持ってきた。

 サージェント様は鍵を受け取ると、勝手知ったるという感じで、階段の方へと向かっていく。私はその後を追いかけていく。


『あ、あの荷物は?』

『後からマリアたちが持ってくるから、気にするな』


 マリアとは同乗していたメイドさんだ。あの馬車には、あとは御者をしていた男性くらいしかいなかった気がしたが、振り向くと御者ではない見知らぬ男性とマリアが、手荷物を持ってついてきている。いつの間に!?


『レイはこちらの鍵だ、マリア、後は任せていいな』

『はい、お任せください』


 そういうとマリアが部屋のドアの鍵を開けて、中へと入っていくので、私は彼女の後をついていくしかなかった。

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