第12話 トンネルを抜けると
山が間近になるところまで、私たちはほとんど会話らしい会話をしなかった。
本来なら、色々と聞きたいところだけれど、どうもそういう雰囲気でもない。私は単調に続く外の風景に目を向けるだけ。
そして、いつの間にかに、遠くにあった山脈が、ものすごく大きく見えるところまでやってきた。これを越えた所に、アストリア王国がある。
王族専用の街道というのが気になって、私は窓に張り付いて見ている。
このまま左折したら、普通の迂回する街道になるのだけれど、馬車は右折して行く。明らかに舗装の丁寧さが違うのが体感で伝わる。それだけ、王族専用の方がいい道なのだ。
しばらく行くと、鬱蒼とした森の中に入って行く。そして、見えてきた。見事に大きなトンネル。馬車が二台くらい通れるくらい幅がある。それの入口には、簡単に通れないように柵らしきものがあるし、衛兵みたいな人もいるようだ。
「……」
驚きで窓にへばりついていると、サージェント様がため息をつきながら、私の肩を押して窓からはがした。みっともなかったか、と思ってたら、わざわざ窓を開けてくれた。
『すみません』
思わず身を乗り出す。トンネルの先の方の出口は、真っ暗でまったく見えない。
一応、利用者の申請を行う必要があるようで、私たちは一旦、トンネルの入口近くの駐屯所に向かった。だけど、代表者がサージェント様という時点で、一発で申請が通ってしまった。この人は、どんだけ偉い人なんだろう。
真っ暗なトンネルに入ってからは、終始無言。車内は魔灯火によるほのかな灯りはともっているものの、手元を照らすほどでもない。馬車の中での読書は、無理なので、仕方がないので目を閉じた。
目が覚めてみると、車窓の外がひどく明るい。顔をしかめながら外を見ると、白銀の世界。雪に反射して、目が痛くなるくらい。
「……え、夏じゃないの?」
思わずそう言葉がもれる。
そう。目の前は雪で覆われているのだ。しかし、車内はそんなに寒くはない。
『目が覚めたか』
すっかり目の前にサージェント様がいるのを忘れていた。
『あ、はい。あの、これって』
『高度が高い所に出たのだ。これから下がれば、雪も消える』
トンネルの中が上り坂になってたのか、と驚いていると、どうも途中に昇降機というのがあったらしい。同じ高度でまっすぐに抜けると、アストリア王国の名勝の一つ、オルディリア湖にぶつかってしまうらしい。
そこまでして、直通にする必要があったのか、と思ったが、これが作られたのはつい十年くらい前のことだという。
『そこまでの必要性があったのかと思いましたが(この娘がいたからですかね)』
『え、何ですか?』
サージェント様が何か言ってたようだけれど、私は外の景色に釘付けになっていて、聞き洩らしてしまった。
『いや、なんでもない』
無表情にそう答えると、サージェント様も、窓の外へと視線を向けるのだった。
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