<カイル>(5)

  絵姿を見ていた優しい表情とは裏腹に、私に向ける表情は冷たい。


『で、あなたは誰ですか』


 両手を胸で組んで、見下ろしてくるレイ。

 学園の二年生というと、年齢としては十六才。確か、この国では成人のはずだ。

 しかし、見た目が十三、四才くらいの、多少子供っぽい容貌で、可愛らしくて思わず微笑みそうになる。


『何が楽しいんですか』


 余計に彼女の怒りを煽ってしまったようで、ますます顔をしかめられてしまう。


『そんな不機嫌な顔をするものじゃないよ。レイ。私は、君が言う『エルドおじさん』の息子のカイルだ』


 私の言葉に、レイが面白いほどに驚いた顔をした。

 義父は私の存在を話していなかったのだろうか?


『おじさんの息子?』

『ああ。義理の親子だけどね。正確には年の離れた異母兄弟なんだ。』

『え? なんで?』

『ん~、義母が子供が生めない人でね。でも、跡取りが必要で、義父の血縁関係の中で、一番近かったのが私なんだ。』


 そう説明しても、どこか信用してない顔をしている。

 実際、かなり事実を端折っているのは確かなので、彼女が簡単には納得しないのも仕方がない。


『じゃあ、これを見るかい?』


 そう言って、私は普段から持ち歩いている絵姿を胸元のポケットから取り出す。掌のサイズにおさまった持ち運び用のそれは、つい最近増えた、私の大事な宝物の一つ。義父と私と息子のテオドアが描かれているものだ。テオドアの三才の祝いにと、王室の絵師に描かせ、錬金術師に劣化防止の加工をさせたものだ。


 気がつくと、隣に座って私の持つ絵姿を覗きこんでいるレイ。

 前髪で隠れてしまっている目は見えないけれど、体を乗り出して見てくる姿は、少し子供っぽいかもしれない。


『ほら、これだよ』

『あ! おじさんだ!』


 嬉しそうな声で絵姿を食い入るようにみつめている。


『この子は?』

『私の息子のテオドアだよ』

『へぇ、エルドおじさんは、おじいさんだったんですね!』

『ああ、そうだ』

『おじさんは、元気? 私、最近会ってないから、心配だったんです。時々、青い鳥で手紙はくれるけど、短い文章だし』


 義父が彼女とこまめに連絡をとっていた様子に、少し驚く。

 一方で、心なしか、沈んだ声で話をしているのを見ると、本当に義父が大好きなんだというのがわかる。そんな彼女を見ていると、自分でも不思議と、口元に微笑みが浮かんでしまう。


『……実は、最近、体調を崩しているんだよ』

『!?』


 驚いたように私の顔を見上げてきた。

 やっぱり、この前髪は邪魔だな。あの素敵な金色の瞳が見えないのは、もったいない。私がじっと見つめたせいか、レイは顔を真っ赤にして顔をそらそうとしたので、小さな顎をとらえて、私のほうに顔を向けた。


『なぜ、前髪を伸ばしているんだい?』


 その言葉は、彼女には聞いてはいけなかったのか。

 急に不機嫌な顔をして、私のそばを離れた。それと同時に、廊下を誰かが慌ただしく走る足音がした。

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