<カイル>(4)

 案の定、小柄なレイは軽くて、階段を上るのも苦にならなかった。その上、素直に抱えられている。思わず微笑みそうになるが、また、それをバカにされたとでも思われて、暴れられたら困るので、なんとか難しい顔をするように努力した。

 二階まで登り切ってから廊下で降ろすと、彼女の部屋に案内するように促す。

 彼女は納得はいかないものの、渋々という感じで廊下の突き当りの部屋まで行くと、静かにドアを開けた。


 その部屋は、十代の女性の部屋にしては、かなり殺風景な部屋だった。勉強をする机の上には、学校の教科書らしきものが載っている。そして小さな額に入った赤ん坊を抱いた男女二人の絵姿。

 サカエラ氏が引き取っているからには、それなりの扱いなのではないかと思ったが、思いのほか質素な様子に少し疑問に思う。


『そこに座ってもいいかな』


 そう言ってベッドを指すと、仕方がない、と、いわんばかりに頷いた。

 レイは、制服のジャケットだけ脱ぐと、クローゼットの中へと仕舞う。隙間から見えたのは、これまたシンプルな紺やグレーのワンピースが数着。ドレスらしきものは見えなかった。


『で、ご用件は』


 冷ややかな声で、彼女が私を拒絶しているのが伝わってくる。

 ……ユージンは、どういう話を彼女としたんだ。


『君の父親の話をしたくてね』

『エルドおじさんだったら、私の父親じゃありませんよ』


 キッパリと言い切るレイ。前髪で隠されている、あの綺麗な金色の瞳が、きっと怒りで燃えているに違いない。


『私の父はこの人です』


 机の上の小さな額をとると、私の手に渡した。

 そこには、小柄で栗色で豊かな髪を太い三つ編みで一本に編み、大きな黒い瞳をした愛らしい女性と、その隣に赤ん坊を抱えた、とても大柄でオレンジ色の瞳と、鮮やかなプラチナゴールドの髪の、優しい笑顔の男性が描かれた絵姿が入っていた。


『彼の名前は?』

『レオン・バーンズ。私が三歳の時に亡くなりました』


 レオン・バーンズ……


 バーンズ!?


 それは、義母イレーナと同じ一族ということか。

 初めて彼女の瞳を見た時、絶対に我が一族……王家に連なる者だと思った。深いエメラルドグリーンの瞳を持つ私自身が、得ることのできなかった金色の瞳。それがアストール王家の血筋を表すものの一つだったからだ。

 しかし、義母の実家であるバーンズ公爵家にも、それは現れる。

 本来、二百年ほど前に王家から臣籍降下した王子から出来た一族でもあり、その後も何度か、王家の血が入っているからだ。


『これで、いいですか』


 レイはムッとした顔のまま、私の手にあった絵姿の入った額をとりあげると、大事そうに机の上に戻した。

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