第11話
ソフィアが突如深刻そうな面持ちで、俺にこんなことを言ってきた。
「……わたし、ごしゅじんのあかちゃんがほしい……」
「……………」
俺はソフィアの発した内容に驚きのあまり頭が追いつかず、口をだらしなく開けて放心していた。
この子はいったい何を言っているのだろう……
赤ちゃんが欲しいって、つまりあれがこうでこうなる事だろ?
って、いかんいかん……俺は何、卑猥なことを考えているんだ……
おそらく俺の聞き間違いだろうな……
赤ちゃんではなくアパちゃんが欲しいだったかもしれない……いや、そうに違いない!
って、アパちゃんって一体なんだよっ!
AP○ホテルの社長さんのぬいぐるみみたいなやつか? そうなのか?
俺が頭の中で必死に整理をしていると、ソフィアがコテンと首を傾げて俺の方をジーーと見つめてくる。
「………ねぇ、ごしゅじん。どうしたの……」
ソフィアは俺の慌てた様子が気になったのか、いつも通り無気力な声色で俺に尋ねてくる。
「あぁ…… アパちゃんって一体何のことなんだ?」
俺の言っていることがよくわからないのか、ソフィアは今度は逆方向に首を傾げて、
「……ごしゅじん、アパちゃんなんて知らない……わたしが言ったのはあかちゃん……」
ソフィアはまたも無気力な声色で、ピースサインを俺に向けてそんなことを言った。
だがピースサインを向けられても事が事だけに俺は動揺を隠し切れない訳で、
「ソ、ソ、ソフィアさん……あなたは何を言っているんでしょうか? まだ俺たち会ったばっかりだよね? それにソフィアさんや! あかちゃんってどうやって作るのか知ってるの?」
俺は動揺しながらもソフィアに「赤ちゃんの作り方」について聞くことにした。
どうせソフィアは赤ちゃんは「コウノトリが運んでくれる」だったり、「お母さんとお父さんがチューしたらできる」なんて思っているに違いない……
そうに決まっている!
だからこそソフィアはこんなことを恥じらいも一切なく言えるのだ。
こうなったらソフィアのためにも性についてしっかりと教えてあげよう。
別に下心がある訳じゃなく、今後ソフィアのためになると思うから……
俺はそう決心したのだが、ソフィアは俺の質問に対し、
「……ごしゅじん、知ってる……」
ソフィアは両手を腰にやって、偉そうな感じにえっへんとしてそう言った。
俺はそんなソフィアに本当のことを伝えたら、さぞ恥ずかしがるだろうなと思いながらも、ソフィアに
「じゃあソフィアっ! 俺に赤ちゃんの作り方について教えてくれるかな~!?」
ソフィアに『赤ちゃんの作り方』について、俺は強めの口調で教えるように促す。
するとソフィアは俺に教えることができるからか、すごく嬉しそうな笑顔を見せて、
「……いい、ごしゅじんに教えてあげる……」
ソフィアはまたもえっへんとした感じでウンウンと頷いて、俺に赤ちゃんの作り方を教えてくれる。
なんだかそのソフィアの姿が可愛らしく見えてしまう。
俺はどうせソフィアは正しい性知識なんか持っていないと踏んで、自分の可愛い娘をを見る親のような顔でソフィアの話を聞いていた——————のだが、なんだかおかしい。
「……ごしゅじんに赤ちゃんの作り方教える……まずごしゅじんは赤ちゃんがコウノトリかなんか運んでくれるなんて思ってるかもしれない……でもそれは嘘……本当は男の人の(ピー♪)が女の人の(ピー♪)にこうやっ—————」
「ストォォォォォップッッ!!!!」
俺はソフィアがそれ以上言わないように咄嗟にソフィアの口を塞いだ馬乗りにする。
えっ!? ちょっと待ってっ!? ソフィア!? 何、普通におち○ち○とか言っちゃってるの? 思わずモザイク掛けちゃったよ? 美少女だというのになんてことをやってくれるんだ————
せっかくの美少女エルフだったのに、これじゃただのエロフじゃないかっ!?
俺がソフィアを馬乗りにしていると、ソフィアは
「……ごしゅじん、わたし初めて……優しくして……」
ソフィアはこれからの続きを期待しているのか、うっすらと目元に涙を浮かべ、頬をポッと赤く染めていた。
ちょっと待てっ! なんだこの状況……
絶対におかしいだろ!?
って、なんだよこの可愛いさ……それは反則だろ!?
こんな可愛い子となら、せっかくだし————
俺がソフィアを馬乗りにして、なんだか不思議な空気が流れ出したところに俺たちを引き裂くような風の刃がこっちに向かって飛んできた。
俺はそれを避けるために咄嗟に風刃を躱す。
放たれた風刃は誰のものかというと、
『こ、このエロフぅぅ! ご主人様から離れろぉぉ!』
アオバは『赤ちゃんの作り方』を聞いたからか、若干赤色が混じったような色をしていて、ソフィアに対して妬いているのか怒った様子だった。
色んな意味で危なかったな……
俺もあのソフィアの可愛さには理性を失うとこだった……
アオバには感謝しないとな……
アオバのおかげで冷静さを取り戻した俺はアオバにお礼を言ってアオバを腕に抱いてからソフィアの方に振り返って、
「ごめんな、ソフィア! 俺はお前の気持ちには答えられない……」
俺がそういうとソフィアは
「……あと少しだった、でも仕方ない。次頑張る……」
無気力な声色でそう言いながら、俺にいつも通りにピースサインを向けてきた。
ってか、次があるんだね!? 俺も気を引き締めないとな……
俺はそう思いながら、アオバを優しく撫でながらギルドへと報告するためにヴァッカの森から出て、冒険者ギルドへと向かった。
予想はしていたのだが、ソフィアはさも当たり前のような感じで俺たちに着いてきたが、俺たちも別にソフィアに付いて来られても問題なかったのでそのままにしておいた。
冒険者ギルドへと戻る途中にふとこんなことを思った。
なんでソフィアは俺との赤ちゃんがほしいなんて言ったんだろうと思った。
俺はそう思って、ソフィアの方を見てみるとソフィアはなんだか暗い表情を浮かべて俯きながら歩いていた。
すると俺の視線に気づいたのか、ソフィアが顔をこちらに向けて、俺の視線を疑問に思ったのか可愛らしく首をコテンとさせてきた。
俺はそんなソフィアの様子に無意識にも手が動いてしまって、ソフィアの頭を撫でていた。
するとソフィアは気持ちよさそうに目を細めていた。
そんな状況にアオバとチユキがムッと怒った思念を俺に向けて来てギャアギャア言ってきたので、いつものように対処すると大人しくなった。
俺は2人を宥めながらも。後でソフィアに事情を話してもらおうと思って再びギルドに向かって足を進めた。
⭐︎⭐︎
俺たちは冒険者ギルドにたどり着き、そのまま冒険者ギルドの扉を開けて中へと入る。
すると昨日と同様に、アルコールの匂いが充満していた。
俺たちが入ると冒険者ギルドは一瞬音がなくなったように静まり返ったが、すぐにガラガラとした騒がしさを取り戻した。
ヒソヒソと俺のことを噂する冒険者。
そして俺の顔をみてポッと顔を赤くする女性。
加えて今は、ソフィアがいるせいか、頬を赤く、染めて鼻の下を伸ばす男ども。
そんな人々の間を抜けて、俺とソフィアは冒険者ギルドの受付へと歩いていく。
そして俺の姿を発見したミリアちゃんがいつも通り俺の応対をしてくれるようで、
「ケントさん! ようやく戻られたんですねっ! わたしずっと心配で——————って誰ですかぁぁあ!? その女はぁあ!」
ミリアちゃんは俺の後ろで俺の裾をつまんでいるエルフの少女、ソフィアを発見して、突如顔色を変えて、俺の方に咄嗟に詰め寄ってきた。
「まぁまぁ、ミリアちゃん落ち着いてよ!
(ってなんでミリアちゃんはムキになっているんだ?)」
俺がそんなことを考えていると俺の考え事がわかってしまうチユキが
『今更マスターは何をいっているんですか? キャラ変したいお年頃かなんかですか? マスターは鈍感系主人公目指しちゃいますか?』
チユキは俺のことを嘲笑うかのような調子でこんなことを言ってくるので、内心俺は溜息を吐いて
(まぁミリアちゃんに好意を持たれてるのはわかるけどさぁ……なんでこんなに好意を持たれてるのかがわかんないんだけど……)
流石に俺も鈍感ではない、というか思考がある程度わかってしまうのでそういうのはかなり敏感なのだが、それでも俺はなんでミリアちゃんが出会って2日の俺にこんなに好意を寄せているのかがわからない……
人間なら打算的な何かがあるとは思うんだが、それがミリアちゃんには感じられない……
となるとミリアちゃんは——————なんてことを考えていると
『マスター、なぁに簡単なことですよ! ミリアさんはマスターに所謂、一目惚れしたんですよ!? それにマスターの強さにも惹かれちゃって、ミリアちゃんの胸は恋する乙女の如くドキドキしちゃってます』
チユキがそんなことを俺に教えてくれた。
ってなんじゃそれ!? なんだかみんなチョロインばっかりなんじゃないか?
まぁそんなことはいいとして
「この子はさっきオークの集団に襲われていて助けた子だよ! エルフでソフィアって言う名前だよ!」
俺がミリアちゃんにソフィアのことを紹介すると、ミリアちゃんも落ち着いてくれたようで、ソフィアの方もミリアちゃんの方に無表情ながらもピースサインを向けていた。
そんな感じで事が収まったので今日受けた依頼の達成報告を進めた。
ミリアちゃんは俺のことでもう驚かないと言わんばかりに依頼達成を淡々と受理してくれた。
「……はい、ケントさん……これでDランクに昇格しました。今後ともに頑張ってください……」
ミリアちゃんは驚かないようにしていたのだが、あまりの俺の異常さに精神の方はかなり疲れてしまっていたようだった。
俺は流石にミリアちゃんの事が可哀想になったのでミリアちゃんにヒールを掛けてから冒険者ギルドを後にした。
そのあとはミリアちゃんに勧められた近くの宿『白鳥の安らぎ亭』という宿に向かうことにした。
冒険者ギルドから歩いて数分で、白鳥が池で休んでいる様子が描かれた宿らしきところに到着した。
そのまま俺は肩にアオバを乗せて、そしてソフィアは俺の裾を掴んで中へと入る
「すみません! 一晩泊まらせていただきたいんですが二部屋開いていますでしょうか?」
『白鳥の安らぎ亭』の扉を開けて中にいる恰幅のいい30代後半の女性に尋ねてみると、
「あらあらいらっしゃい! なかなかのイケメンじゃないの! あたいはメイナっていうよ! よろしくね! で二部屋でいいんだっけ?」
確認のためかメイナさんがそういうと、
「はi——————」
「……一部屋でいい……」
ソフィアが俺の言葉を遮って普段通りにピースサインを向けてそんなことを言った。
だがそんなことは俺個人的にも色々問題がありそうなので断ろうとしたのだが……
「あらぁまぁ……ごめんなさいねぇー(棒) 今一部屋しか開いていないだよー(棒) 悪いけど2人で一部屋でもいいかい?」
ソフィアに配慮をしたのか、メイナさんが大根役者のような下手くそな演技でそう俺に言ってきた。
するとソフィアは女将さんであるメイナさんに対して、笑顔でグッドサインを向けていた。
なんだか最初はメイナさんの様子にイラッとしてしまったのだが、こんな茶番に怒る気も無くしてしまったので俺は素直に2人で1部屋にすることにした。
冒険者ギルドへと向かう途中に見せたソフィアの暗い顔の理由も少しだけ気になることだし……
「じゃあメイナさん! 2人一部屋で一晩でお願いします!」
「あぁ、わかったよ! 1人、4000フェスで食事を付けるなら追加で1000フェスだよ! お湯は一杯なら無料だけど、二杯目以降は500フェスだよ!」
「夕食の方は食べてきたのでいらないんですが、朝食の方はつけてくれますか?」
「あぁ、わかったよ! じゃあ、銀貨9枚だね!」
俺はソフィアの分を払ってやる義理はなかったのだが、ソフィアは俺がソフィアの分を払うことを一切疑っていなかったので、俺もソフィアの図太さに負けてソフィアの分も支払った。
別に俺はケチという訳じゃないんだが、ソフィアに少しくらい申し訳なさだったり、有り難さを感じて欲しいものだ……
俺はそんな思いを抱きながらソフィアの方を見てみるが、ソフィアは俺が見ると見られる理由がわからないのか、可愛らしく首をコテンと傾げて上目遣いで見てくる。
くっ! なんだよ、ソフィアめっ! 可愛いじゃないか!
俺はソフィアの無防備な可愛さに心打たれ、さっきまでソフィアに持っていた不満が綺麗さっぱり霧散してしまった。
そんな俺の情けない様子に呆れたのか
『マスター……ダメダメのアマアマですね! このままだとマスターに娘なんか出来たら、その子はわがままに育っちゃいますね!』
辛辣なことをチユキが言ってきた。
「じゃあこれが鍵ね! 部屋は二階の1番奥の部屋だよ!」
俺はメイナさんに部屋の鍵を貰って、チユキの辛辣な言葉に少し心に傷を負いながらも自分の泊まる部屋へと向かった。
部屋の中は前世でいうビジネスホテルのような場所で、広さはそれほどないがきちんと掃除がされていて小綺麗な感じだった。
庶民歴の長い俺的にはこういう感じの方が落ち着ける。
俺は早速ベッドの上に腰掛けて、肩にいるアオバを膝の上に乗せた。
そのままアオバのことを優しく撫でてあげる。
なんと言っても今日1番の功労者はアオバなのだから!
『ご主人様ぁ、アオバは今幸せですぅ~!』
そんな風に俺とアオバが戯れているとそんな様子が羨ましいのか、ソフィアが俺の隣に座りジーーと俺の方を見つめてきた。
流石に放っておくわけにもいかなかったので、
「ソフィアそんなに俺の事をジーーとみてどうしたの?」
俺がアオバを撫でながらソフィアに訊いてみると
「……ご、ごしゅじん、わたし我慢できない……」
ソフィアが震えた声でそんな事を言って、突如俺をベットに押し倒してきた。
突然ソフィアが俺を押し倒されたために、膝にいたアオバは床にコロコロと転がっていった。
俺を押し倒したソフィアは俺の服を脱がそうとするが、その指が震えていてソフィアの眼はうっすらと潤んでいた。
ソフィアは普段は無表情なんだが、今といい、さっきの時といい、ソフィアには似合わない思い詰めたような表情をしている。
俺的にはこのまま美少女エルフに襲われて事をなしてしまっても構わないのだが、それは本心から襲ってきた場合に限る。
俺は服を脱がそうとする手を掴んでソフィアの動きを封じる。
「ソフィア……これは君が本心からしたいことなのかな?」
俺がそうソフィアに尋ねると、ソフィアは驚いたように一瞬目をカッと見開いた。
だが、ソフィアはいつも通り無表情になって、俺から視線を逸らして
「……そう、これはわたしのしたいこと……」
ソフィアは俺を馬乗りにしながらそんな事を言う。
だが、ソフィアの瞳孔だけは正直なようでユラユラと動き動揺していた。
俺の神眼の効果もあってソフィアが嘘をついている事がわかった俺は馬乗りにしているソフィアをそっと自分の体から下ろした。
俺はソフィアになんらかの事情があるのがわかっていたので、その事情を尋ねるべくソフィアに訊くことにした。
「ソフィア……何かあるなら俺に話してくれないか?」
ソフィアは俺が勘付いていることを思ってもみていなかったのか、かなり驚いた表情を俺に見せてきた。
そしてとうとうソフィアも観念したのか、普段とは違い思い詰めたような必死な形相を俺に向けてこんな事をを言った。
「……ごしゅじん、隠しててごめんなさい……実はわたしの里が大変なことになっている! このままだと世界樹様までも危険なの!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます