第10話

「…………ここは………」


 オークの集団に襲われたエルフの少女がようやく目を覚ました。


「おっ! ようやく起きたみたいだな……」


 俺は今しがた起きたエルフの少女に優しく声をかける。



 すると突然、エルフの少女が四つん這い状態で俺の方にジリジリと寄ってきて、


 くんくん。くんくん。


 犬みたく俺の匂いをクンクンと嗅ぎ始めた。

 そしてエルフの少女は匂いを嗅ぎ終わって、何か満足した感じでそのまま俺へと抱きつき、胸元に顔を押し付けた。


 流石の俺もこんな摩訶不思議なラブコメ的展開には慣れてはいないので、動揺を隠せずに、


 な、な、何をやってるの? 出会ってから10分も経ってないんだよ? もしかして前世からの運命の人だったりするのかな?

 てか、女の子ってこんなに柔らかいんだなぁ……

 


 女の子の柔らかさを初めて感じた俺は脳内で慌てふためいていると、この状況はスライムのアオバには不満があるようで、


『ご主人様から離れるのぉぉ〜っ! このビッチのエルフぅぅぅ〜〜っ! このこのぉぉ!』


 アオバがエルフの少女に抗議するべく、丸い体を精一杯に使って、突進の攻撃を繰り出し、さらに噛みつきを繰り出す。

 だがしかし、アオバの攻撃力は0、エルフの少女にはなんの影響も与えない。

 アオバもとうとう我慢が出来なくなってしまって、


『ご主人様ぁぁぁあ! うぇぇぇぇえん!』


 アオバが子供みたいにワンワンと泣き始めてしまった。


 流石にこの状況はどう考えてもおかしいので、俺的には感触はとても心地よくていいのだが、俺はエルフの少女の肩を持ってそっと自分から遠ざける。


 そうするとエルフの少女はコテンとハテナ顔で俺のことを上目遣いで見る。


 な、な、なんなんだ……この破壊力は……か、か、可愛すぎる……なんでこんな美少女が俺の事をこんなふうに見てるんだ? どう考えてもおかしいだろ……


 いつまでもこうしてるとアオバが可哀想なので、エルフの少女のかわりにアオバを抱くことにした。


 しばらくしてアオバが落ち着いたところで、


「俺の名前はケントだよ。そして、こっちのスライムが俺の従魔のアオバだよ! ところで君の名前はなんていうの?」


 俺が自己紹介し、アオバのことを撫でながらもアオバの紹介をすると、アオバは『どうだ、ほれみろ!』と言わんばかりの得意げな様子をしていた。

 

 まぁ、そんなアオバの煽りはエルフの少女には届かないようで、

 

「……わたしはソフィアっていう。宜しく……」


 エルフの少女はどこか感情のこもってない声音で、何故かピースサインをこっちに向けて自己紹介をした。


 俺はこの子はこういう子なのだろうと思って、次の質問に進むことにした。

 

「俺たちは君がオークの集団に襲われているのを発見して助けたんだけど、なんであんなところに一人でいたの?」

 

 俺が疑問に思ったことを聞いた。

 見たところ冒険者のようには見えないし、それほど強そうにも見えない。

 それなのに何故こんな子がヴァッカの森にいるのだろうか。


「……道を歩いてたらここにいた……」


 ソフィアがそう答える。

 だが、いくつか疑問に思うことがある。

 こんなところに道なんかあっただろうか……

 いや、この周辺は森か平原しかなかったはず……となると


「……もしかして、ソフィアは道に迷ってこんなところにいたのかい? つまり迷子ってこと?」


 俺がそう訊くと、


「……そうとも言う……」


 ソフィアは自信満々に俺にピースしながらそう答えた。


 俺が考えるにこの子は迷子になって、森に彷徨った所をオークに襲われたってことなんだな……

 

 って、このソフィアっていうこのエルフの少女、さっきから見てるとすっごいマイペースだし、道に歩いてたら森に彷徨うほどの方向音痴……

 こんなんで今までよく生きて来られたな……


 と、俺はそんなことを内心思っていると、ソフィアから『ぐぅぅぅぅ』と可愛らしい音が鳴った。


 ソフィアの方を見ると、ソフィアの長い綺麗な耳がポッと赤くなっていた。


 俺はソフィアがお腹が空いたんだなと思って、何か無いかなぁと思っていた所、先程狩ったばかりのオークがあったことを思い出して、


「ソフィア、ちょっと待っててね! すぐ何か作るからね!」


 俺がそういうと、


「……さすがごしゅじん、わたしは嬉しい……」

 

 ソフィアは再度、ピースサインを向けてきた。


 俺は早速、


「アオバ! さっきアオバが倒した豚さんを1匹出してくれるかな?」


『ご主人様ぁ、わかったよぉー!』


 アオバがオークを1匹をドンと出してくれた。

 アオバの体内はアイテムボックスみたいになっているようで、任意に物を出し入れすることができる。


 俺はアオバから出してもらったオークをささっと手際良く解体する。


 いくつかの部位に切り分けて、余った部位は無限収納へとしまっていく。


 ソフィアは待ちきれない様子で、俺のことをジーーと見つめていた。


 俺はオークの1番美味しい部位であるロースの部分を切り出し、軽く塩胡椒で下味をつけて土魔法で作った即席バーベキューセットに豪快にのせる。


 オーク肉が焼き上がるまで時間があったので、ささっと食材を創造してコンソメスープ的なものと白パンを作った。


 アオバも何か俺の手伝いをしたそうにしていたので、アオバにはオーク肉にあうタレを作ってもらうことにした。


 しばらくしてオーク肉にしっかりと火が通ったようで肉を金網から取り出す。


 地べたで食べるのも別に良かったのだが、アオバが即席でテーブルを作ってくれるということで、アオバに【樹魔法】でテーブルと椅子を作ってもらった。


 アオバの【樹魔法】はかなり便利なようで、コテージなどを一瞬にして建てることもできる。


 この魔法にはソフィアもとても驚いていて、「………アオバ、やる、すごい………」とアオバにグッドサインを向けていた。


 アオバはまだソフィアの事が許せないようで『プンプン』なんてしていたが、褒められた事には満更でも無さそうだった。


 俺は焼き上がった肉を切り分けて、即席の皿へと盛り付けていく。


 アオバもスライムではあるが、味覚も存在し食べることはできるので、アオバ用も含めて皿は3つに分けておいた。


 食べる準備が全部整ったところで、


「それじゃあ、早速食べようか! いただきます!」

『いただきーー!」

「……いただきます……」


 と言って、俺たちはヴァッカ森の中でオークの肉とコンソメ風スープ、そして、柔らかい白パンを食した。


 アオバが作ってくれたタレがこれまた絶妙で、アーク肉の脂身とタレの優しい酸味が絡まってとても美味だった。



『ご主人様ぁ! おかわりぃー!』

「……ごしゅじん、おかわり……」


 アオバはスライムで【暴食】スキル待ちなので、大量に食べるのはわかるのだけれど、ソフィアも3日間飲まず食わずだったようで、アオバ並みに食べて、当初はオークのロース部分で済ませる予定が、今日狩ったオークをすべて消費してしまった。


 ソフィアにごしゅじんと呼ばれる筋合いはないのだが……

 まぁ、それはいいとして……


 二人の食べっぷりは見ていて気持ち良かったので、思わぬ消費は俺的にはなんの問題もなかった。


 腹ごしらえを終えた俺たちは、


「……ごしゅじん、私は満足……」


 ソフィアは俺をごしゅじんと呼び、お決まりのように俺にピースサインを向けてくる。

 

 なんだかその様子が可愛かったので、俺は無意識にソフィアの頭を撫でてあげる。


 するとその様子に焼き餅をやく奴らがいた。


『ま、マスター! 何、簡単に籠絡されてんですかぁ! もしかしてマスターはチョロインなんですか? そうなんですかぁ!?』


『ご主人様ぁぁ! アオバというものがありながらぁぁあ!』


 アオバとチユキが俺がソフィアの頭を撫でたことに不満タラタラのようで俺に抗議をする。


 一方、俺に撫でられたソフィアは


『……ごしゅじん、それ気持ちいい。もっとやることを許可する……』


 ソフィアは顔を真っ赤にして俺の方を上目遣いで見てそんなことを言った。


 エルフの容姿だけあって、その仕草の破壊力は抜群で、


 何この子、めちゃ可愛い……これは病みつきになる……


 俺はアオバとチユキに止められたものの、俺の右手は欲望に実直なようで、ソフィアの頭をいつの間にか撫でていた。


 ソフィアは気持ちよさそうに目を細めていた。



 すると、そんな様子をみたチユキとアオバは、


『ま、マスター……な、なんてことを……』

『ご主人様ぁあ! アオバはお嫌いですか……』

 

 言ってくるので、チユキのことは実体がなくて撫でられないので甘い言葉を囁いて、アオバは抱き寄せていつも通り撫でてやった。


 チユキとアオバはそれだけで満足だったようで、今回のことを許してくれた。


 俺は内心、「どっちがチョロインだっ!」って思ってしまったが、そのことは自分の中だけにしまっておくことにした。


 それにしてもソフィアは見た目は12歳くらいで、性格もかなりおっとりとしているというか、フワフワしているというか……

 一体、どんな子なのだろうと思って俺はソフィアのことを鑑定してみた。


 すると、




————————————————————

名前:ソフィア・ティア・フローラル

年齢:130歳

種族:ハイエルフ(亜神族)

 lv.197/1000

【HP】80000/80000

【MP】100000/100000

【筋力】10000

【物攻】10000

【物防】10000

【魔攻】70000

【魔防】60000

【敏捷】20000

【知力】50000————————————————————

恩恵:【精霊の囁き】

加護:精霊神の加護lv.8 世界樹の加護lv.8

————————————————————

【エクストラユニークスキル】

精霊衣

亜神化

【スキル】

精霊召喚lv.6

精霊魔法lv.6

魔力感知lv.7

魔力操作lv.6

基本属性魔法lv.6(水、土、光)

上級属性魔法lv.3(氷結、岩石、極光)————————————————————

称号:世界樹の守り手、エルフの神子 ———————————————————— 



 え!? 何これ? ちょっと待って……流石にこれは俺の見間違いだよね? ソフィアがこんなに強いはずは……


「……ごしゅじん、いまなにかした?……」


 ソフィアは俺の神眼の鑑定に違和感を覚えたようで、そんなことを聞いてきた。

 えっ!? そもそもなんで俺の神眼の違和感を感じられるの? 亜神族だからなのだろうか?


「あぁ……いま、ソフィアのステータスを覗かせてもらったよ!」


 俺がソフィアにそういうと、ソフィアは


「……そう、ごしゅじんなら問題なし……」


 ソフィアはそう言って、俺に変わらずピースサインを向けてくる。


 それにしてもこんなちんちくりんがどうして、あんなに強いんだろうか?

 俺が今まで見てきた中では最強に位置するだろう。

 

 でもだとしたら、どうしてソフィアはオークなんかにやられていたんだ?

 俺はこれには疑問を浮かべざるを得なかったので、


「ソフィア、どうして君みたいに強い人ががオークなんかに捕まったんだ?」


 俺が疑問に思ったことをソフィアに訊くと、やはりソフィアはどこまで行ってもソフィアみたいで、


「……お腹が空いてた……お腹が減ると力でない……』


 なんていう答えのような答えでないような返答が返ってきた。


 まぁ今回はひとまずはソフィアを助けられたことを良しとしよう。

 こんな子がオークに襲われ死んだとなれば、色々と問題が起こるだろうし未然に塞が事ができたのはよかったかな……


「それにしてもソフィアはものすごく強いみたいだな!」


 俺は純粋にソフィアの強さに驚いたため、そのことを言ってやるとソフィアはどこか自慢げな感じで、


「………えっへん、わたしは強い……」


 ソフィアはない胸を必死に張って、そんな事をいう。

 そんな所作がやはり俺には、ただの可愛らしい女の子にしか見えないので、俺はまたソフィアの頭を撫でる。


 撫で終わったあと、ソフィアも俺に思う事があるようで、


「……ねぇ、ごしゅじん。ごしゅじんは世界樹様?……」


 といった質問がソフィアからあった。

 だが、俺は神ではあるが、ソフィアの言うような世界樹ではないので、


「ううん、違うよ。俺は世界樹ではないよ」


 俺が答えるとソフィアは首を傾げておかしいなぁといった感じにしていた。俺の答えが腑に落ちないようで、


「……ごしゅじんは世界樹様の匂いがする……ごしゅじんは世界樹じゃないのになんで……」


 ソフィアが首を傾げて聞いてきた。

 これには俺にも思い当たる節がある。

 ソフィアのいう世界樹の香りはおそらく今日、使った俺の洗顔のことだろう……


 俺はその真偽を確かめるべく、チユキに確認しようとしたところ、


『マスターなんかに教えることなんかありませんっ! ふんっだ!』


 チユキはまた俺がソフィアを撫でたことにお冠な様子で、俺の質問に答えてくれそうになかった。


「チユキ、ごめんって。落ち着いたら、今度チユキには身体を作ってあげるからさ!」


 俺がそうチユキにいうと、グラフィック上でチユキの顔がパァッと花咲いたように明るくなって、


『マスター! えへへ〜! しょうがないですねぇ〜! 今回は特別ですからねぇ〜!』


 と言って、俺のことを許してくれた。


 まぁチユキにはいつか、肉体をあげることは前々から思っていたので、今回このことで許しが下りたのは有り難かった、

 

 俺を許してくれたチユキは俺に世界樹の事だったり、それを守護するエルフの関係について色々と教えてくれた。


 今回は俺に関係のあることだけを話すとすると、エルフという種族は世界樹の香りを嗅ぐと催淫効果発動して、そういった気持ちになってしまうとのことだった。


 だから、ソフィアが俺の匂いを嗅いで突如抱きついてきたのもそれが原因だと言うことだった。

 

 話を戻すとすると、俺は今、ソフィアに世界樹の香りのことに関して聞かれている。

 まぁここで俺が正直に語る必要もなかったのだが、不覚にも俺はソフィアのことを可愛いと思ってしまったし、それに加えて守ってあげたいなとも思ってしまった。


 それに俺だけ鑑定して、一方的にソフィアのことを知っているというのも気が引けたので、俺はこれも何かの運命かと思ってソフィアに俺のことを話すことにした。


 話を聞いたソフィアはようやく納得してくれたみたいで、


「……さすがごしゅじん、わたしの予想以上……」



 ソフィアは俺にグッドサインを向けて、ウンウンと頷いていた。


 そのあとソフィアは続けてこんなことを言った。


「……ごしゅじんにお願いがある……」


 ソフィアは珍しく深刻そうな顔を俺の方に向けてきて、続けてこんなことを言った。


「……わたし—————————」

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