第9話

 ホワイトウルフを倒した後、依頼の討伐対象である、次の魔物の討伐へと向かう。


 ギルドカードの中に討伐の履歴が残るとのことで、この世界ではわざわざ討伐部位をギルドへと持っていく必要がないとのことだ。

  

 このシステムは大昔に、大賢者とよばれる人が作ったようで、それからこのシステムはずっと使われているらしい。


 俺は神眼のマップ検索を利用して、次なる魔物の位置を割り当てて、次の獲物である魔物のもとへと向かっていく。


 スライムである、アオバは噛みつきというスキルは効果がなかったものの、俊敏lv.4というスキルのおかげで、かなり素早く動けるようになったようで俺の周りをぐるぐると回っている。


『ねぇ、ご主人様ぁ! アオバ、早いでしょ〜!』


 と、新しいおもちゃを手に入れた子供みたいに、新しいスキルを得て楽しそうにしているアオバを見ているとなんだか俺を心がほっこりと温まったような気がした。


 それにしても—————


「アオバ、そのスキル良いね! 俺も早くは動けるけど、スキルではなく身体能力だからな! そんなスキル欲しいなぁ」


 と、考えていると、


『神速EXスキルを取得しました』


 と、乾いた女の人のアナウンスが脳内に響き渡った。


 この世界ではなんでも俺の思うままのようで、あっけなくスキルを手に入れることができた。


 俺もスキルを手に入れたら、試さずにはいられないので、


「アオバ、今から新しいスキルを使ってみるから見ててね!」


 と、俺は神速EXを発動してみた。

 すると、俺は突如、時空魔法を使って、世界の時間を止めた時のような感覚を得た。


 さっきまで俊敏でかなりのスピードで動いていたアオバでさえも、止まっていてように見えている。だが、完全に止まっているわけではなくスローモーションではあるが確実に周辺はミリ単位で動いている。

 

 実質は止まっているのと同じなのだが……

 俺はとりあえずスキルを試すために、アオバの周りを100周ほど回ってみた。

 

 そのあと、神速EXを解除すると、


『ご主人様ぁぁぁぁああああ!』


 不思議なことにアオバが突如、宙に浮いて、遙か空へと飛んで行ってしまった。


 俺は慌てて、飛んで行ってしまったアオバインポートを使って引き寄せた。


 戻ってきたアオバは、


『ご主人様ぁぁあ! 怖かったよぉ〜……』


 と、空に急に投げ出されるという怖い思いをしたアオバは恐怖でプルプルと震えて、泣きべそをかいていた。


 チユキに何が起こったのか聞くと、俺の神速によって、竜巻が生まれアオバがそれに飲み込まれて、吹っ飛ばされたとのことだった。


 俺は自分のせいで、怖い思いをしたアオバを優しく腕に抱えて撫でてやる。

 しばらくしてアオバも落ち着きを取り戻したようで、また俊敏を使って遊び始めた。


 その間、時空魔法を使って時間をゆっくりするのと、神速を使うことの違いを聞いてみると、チユキはやっていることは違えど、俺の場合は高速思考があるせいで、効果は一緒だということだった。

 

 俺とアオバは気を取り直して、次の魔物のもとへと向かっていった。

 アオバは俊敏を使って、俺は単なる身体能力で駆け出していく。


 すると、ようやくお目当ての場所に到着して、グレイトファングという巨大な猪がその姿を現した。


 一応、鑑定をしてみるとこんな感じに表示された。



————————————————————

種族:グレイトファング

lv.25/40

【HP】4000

【MP】150

【筋力】3000

【物攻】3000

【物防】1000

【魔攻】50

【魔防】50

【敏捷】1000

【知力】150

————————————————————

異能:未発現

加護:加護なし

————————————————————

能力アビリティ

突進lv.5

牙突lv.3————————————————————


 グレイトファングは鑑定によると、前に進むしか脳のない、いわば脳筋タイプの魔物だった。

 けれど、脳筋だけあって力に関してはかなりあるようで、こいつの一撃を喰らったら、物理防御0のアオバはひとたまりもないだろう。


 まぁ、さっきみたいに【ヒュドラの毒】を使えば、一瞬で殺せるのかもしれないが、この先それが使えない状況に鉢合わせるかもしれないので、


「アオバ、今回もアオバ一人でやってもらうよ! それと、今回は【液体創造】は使っちゃダメだよ!」


 俺がアオバのチートスキルである【液体創造】の使用を制限すると、アオバはスキルを使う気満々だったようで、


『え〜〜! ご主人様ぁ〜! あれを使えば一瞬だよ〜〜!?』

 

 確かにアオバの言う通り毒でイチコロなのかもしれないが、今はアオバを強くすることが目的なので、


「アオバ! アオバがこの大きな猪を倒せることはわかっているよ! でも、今は倒せることが重要ではなくて、どう倒すのかが大切なんだよ!?』

 

 と、俺がアオバのことを軽く諫めると、アオバもいい子であるのでわかってくれたようで



『ご主人様ぁ、ごめんなさい……アオバ、次は魔法でやってみるね』


「うん、わかってくれてよかったよ。まだまだ、アオバは弱い……だから、自分の力を過信してはダメだし、力を得たとしても慢心したらダメだよ!?」


『うん……わかった〜! 早速、あいつを殺だちゃっていい〜?』


「うん、いいよ! 魔法も気がついたらその際に指摘するから!」


 と、俺が許可を出すと、アオバはすぐさま【俊敏】を使って、グレイトファングの元へと駆け寄った。


 アオバはグレイトファングに攻撃させないように、猪の気を逸らすように、グレイトファングの周りをぐるぐると走り回る。


 そんなアオバにグレイトファングも攻撃の標準が合わないのか、イライラとした様子を見せていた。

 

 猪がいらいらした瞬間に、猪に一瞬の隙が生まれた。

 そして、アオバもその隙を見逃さなかった。

 アオバはグレイトファングに向かって、無詠唱でウィンドカッターを放った。


 魔物の場合、魔法を使える種族は無詠唱なのが当たり前だが、人間の場合は無詠唱スキルがない限り、魔法を使う際には詠唱が必要である。

 

 なんとも不思議なことだなぁと俺は考えていた。まぁ、おそらく神様が関係しているのだろう……


 そんなことは置いといて、アオバの放ったウィンドカッターは確かにグレイトファングの首筋に当たった。


 だが、ウィンドカッターの威力が弱かったのか、グレイトファングには擦り傷がついた程度だった。


 あの一撃で倒せたと思ったアオバは驚いているようで、


『な、なんで〜……しっかり首に当たったのに〜』


 アオバはグレイトファングを倒せなかったことにとても悔しそうにしていた。


 アオバの魔法は確かに発動はしていたのだが、アオバの魔法にはいくつかのものが欠けていた。

 アオバ自身は魔物で教えてもらうなんてこともなかっただろうか仕方がないのかもしれないけれど……

 だが、俺の眷属となったからには強くなってもらいたいので、


「アオバ! 魔法はまずイメージが大切だ! イメージがしっかりしてないと魔法はうまく発動しない! そして、そのあとは魔力を自由自在に操作することが重要だ! これができないといくらイメージできてもを具現化することができない!

ほら、アオバ、見てろ!」



 俺はアオバにアドバイスしながらも、アオバが発動したのと同じ、ウィンドカッターを森の木々に向かって放った。




 その次の瞬間、ウィンドカッターに当てられた木がドドドドドド、と次から次へと倒れていった。

 


 俺のウィンドカッターを見たアオバは同じ魔法なのに威力が桁違いなことに感動している様子で、


『おぉ〜〜! さすがご主人様ですぅ〜〜! アオバもいつかはあんなふううになりたいですぅ〜〜!』


 アオバはもう一度、気合いを入れ直して、グレイトファングへと向かっていった。


 一方、俺は魔法の指導という理由があったとしても、森の環境を破壊してしまったわけで、


『ま、マスター! マスターは何また、馬鹿なことをしているんですか? こんなことをしたら生命神のフィリネさんに怒られてしまいますよ!?』


「いやぁ~。俺もかなり力を抑えたんだけどね……」


『……はぁ、まぁやってしまったことは仕方がないですし、ちゃんと後でここを元に戻してくださいね!』


 と、いつもは自重しないチユキに俺は怒られてしまうのであった。

 チユキが言うには自重しなくとも、環境破壊はダメというエコな考えのようだった。


 俺がチユキに怒られている間に、アオバは魔法に関しては天才的であるので、難なく俺の教え通り魔法を使うことができたみたいで、グレイトファングの首をスパンと綺麗に切り落とすことができたようだった。


 アオバは【暴食】を使い、自分で倒したグレイトファングの死体を吸収した。

 結果、アオバはさらにステータスが上昇して強くなれたみたいでだった。



————————————————————

名前:アオバ

年齢:0

種族:スライム

lv.30/9999

【HP】6000/6000

【MP】6000/6000

【筋力】0

【物攻】0

【物防】0

【魔攻】6000

【魔防】6000

【敏捷】6000

【知力】6000

————————————————————

異能:【暴食(悪食、飽食)】【液体創造X】

加護:覇王の祝福EX、創造神の加護lv.5、魔法神の加護lv.3

————————————————————

能力アビリティ

分裂lv.10

結合lv.10

俊敏lv.4

噛みつきlv.4

突進lv.2

牙突lv.2

————————————————————

称号

覇王の眷属

最強の因子

————————————————————


 レベルが10上がって、ステータスはかなり伸びたのだが、グレイトファングから吸収したスキルは物理系のものしかなかったので、アオバは少し残念そうにしていたが、次はきっといいスキルがあるよ、と言ってあげると気分を切り替えて早速、次の討伐対象の元へと向かっていった。


 ⭐︎⭐︎


 しばらく歩いていくと森の中で、さらに木々が鬱蒼と茂る場所があった。

 

 俺はそこで今回の討伐対象である、魔物を発見した。アオバはまだ探知能力が乏しいようで、未だにその魔物の正体には気がついていなかった。

 

 せっかくなのでアオバに敵を感知する索敵の魔法を教えてあげることにした。


「アオバ、自分の魔力を薄ーく、この森の中に広げてみて! そしたら、違う魔力が自分の魔力に反応して、敵の場所を突き止めることができるよ!」


 俺が索敵のコツをアドバイスしてあげると、魔法に関してだけは才能のあるアオバは、教えただけで一回で索敵魔法を使いこなせるようになったみたいで、


『あっ! ご主人様ぁ、あそこに何かいるっ!』


 と、その魔物を発見することができた。


『ご主人様ぁ! あれなーに? 木にしか見えないけどぉ〜!」


 アオバは首はないものの小首をかしげてコテンとしていた。

 アオバは魔物を発見することができても、正体は知識が乏しいのでのかわからないといった様子だった。


 俺はその魔物を鑑定して、アオバにその画面を共有してやる。


————————————————————

種族:イビルトレント

lv.15/40

【HP】10000

【MP】1000

【筋力】2000

【物攻】2000

【物防】2000

【魔攻】500

【魔防】1000

【敏捷】500

【知力】1500

————————————————————

異能:未発現

加護:加護なし

————————————————————

能力アビリティ

樹魔法lv.3

自然治癒lv.2

————————————————————



「あれはトレントっていう、木の魔物だよ? 木と見分けが付かなくて、突然襲ってくる厄介な魔物らしいよ! それに治癒能力が高くて、倒すのも大変らしいよ!」 




 俺がそういうと、アオバは戦闘狂だからなのか、倒したら新しいスキルが手に入ることが分かったからなのか、早く戦ってみたくてウズウズしているようで、


『ご主人様ぁ、アイツ、殺っちゃっていい〜?』


 と、きいてきたので俺が早速、ゴーサインを出すと、ステータスが上がったからか、以前よりも各段に早いスピードでトレントの元へと向かっていった。


 アオバのスピードの上昇は単にステータスの向上だけでなく、【俊敏】に加えて、ブーストとして身体強化をしているのに理由があった。


 アオバはグレイトファングを倒した時と同様に、魔法のイメージと魔力操作を意識して、今度はウィンドカッターではなくウォーターカッターをトレントに向かって放った。


 先程のグレイトファングを倒した時の経験が生きたのか、トレントはアオバの一撃で儚くその命を散らした。


 アオバは倒してすぐに、死んだイビルトレントのもとへと駆け寄り、【暴食】のスキルで一気にイビルトレントを飲み込んだ。

 イビルトレントを吸収したアオバは新しいスキルを手に入れることができたようで、さっそく【樹魔法】というトレント系固有のスキル、花を咲かせたり、枝を動かしたりして楽しそうに遊んでいた。


 アオバはトレント系の【樹魔法】がかなり気に入ったようで、


『ご主人様ぁ、もっとトレントほしい~~! そしたら、もっといっぱいいろんなができるの~』


 アオバはトレントをさらに倒してスキルレベルを上げたいようで、さっそく俺はアオバのために近くにいた、トレントたちをインポートで引き寄せてアオバに戦わせた。


 アオバもだんだんと戦いなれてきたようで、引き寄せた100匹ほどのトレントを斬殺して、飲み込んで自らの糧にした。


『ご主人様ぁ! 【樹魔法】のlvがマックスになった~!』


 アオバは希望通りトレントを刈りまくって、目当てのスキルがレベルマックスになったことに子供のように無邪気に喜んでいた。


 そのあとも、討伐対象であるアサシンカメレオンという魔物を、早速【樹魔法】を使って、樹々を生やし、アサシンカメレオンを拘束してそのまま締め付けて殺した。


 その後もアオバは作業の如く、アサシンカメレオンを吸収して、【擬態】と【気配遮断】を入手した。


 俺とアオバが最後の討伐依頼対象である魔物の元へと向かう途中で、突如、チユキが慌てた様子でこんなことを言った。

『マスター! 大変ですっ! エルフの少女が1人、オークの集団に襲われているみたいですっ!』


 オークというと、異世界ファンタジーの世界で女性から嫌われる種族、ナンバーワンとあいつなのか?


 と、そんなことを考えていると、


『はい! 嫌われ者ナンバーワンのアイツです! このままではエルフの少女はオークの苗床にされてしまいます! 早速、助けに向かいましょう!』


 チユキがいうので、俺も助けられるのに見捨てるなんて思考はしていないので、俺はマップ探索を使用して、そのエルフの少女の場所を割り出した。


 エルフの少女は生きてはいるものの、抵抗したのかかなりHPが削られていて、アオバを肩に乗せ神速を使って、その場所へと駆けつける



——————なんてめんどくさいことはせずに、俺は


「インポート!」


 俺はインポートを使い、エルフの少女を引き寄せた。


 チユキはそんな俺の様子を見て、

 


『ま、マスター! 何、お決まりのお助けシーンで、おさぼりをかましているんですかぁ

ぁ!』


 と、俺がエルフの少女を助けたにもかかわらず、チユキはよくわからないことを口走っていた。


 どうもチユキはこういう異世界の定番を楽しもうとするところがある。


 まぁ、今はそんなチユキは置いておくことにした。


 オークたちの集団は突如、捕らえた女が消えたことにかなり慌てていた。

 

 普通のオークはDランクの魔物であったし、その肉もかなり美味とのことだったので、ランクアップの糧、食糧、そしてアオバの今日一日の訓練のテストを兼ねて、エクスポートでアオバをオークの元へと送り出した。



 その間に、気絶したエルフの少女に回復魔法を掛けてあげる。


 そのエルフの少女は回復魔法によって、回復はしたもののまだ意識は戻らないようで、

 

 俺は意識が戻るまで待つことにした。


 アオバをオークの集団の元に送ってから1分も経たずして、アオバから念話が届いた。


『ご主人様ぁぁ! 豚さん、6匹倒したよぉ〜! 死体はどうしたらいい〜?』

「うーん、死体は【暴食】で吸収しないでくれるといいかな、オークはアオバが欲しそうなスキルは持ってないと思うしね!」 

 

『ご主人様ぁ、わかったよ〜〜! 豚さんたち、回収したからご主人様の元に戻して〜〜』


 と、俺はインポートでアオバを手元に引き寄せる。


 俺はオーク6頭を難なく倒した、アオバのことを褒めて、優しく撫でてやった。


 しばらく俺とアオバが戯れていると、エルフの少女が目を覚ました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る