第8話

『マスター……、マスター……、マスター……』


 誰か、女の人?が俺のことを呼んでいる。

 なんだか懐かしいような落ち着くようなそんな声がする。


『マスター、そろそろ起きてください!』


 その声の正体は俺の相棒のチユキだったようで、俺は眠い目を擦りながら、チユキに言われた通りに、のそりと体を起き上がらせる。



(ふぁーあ……起こしてくれてありがとうね、チユキ)


 俺は天井に向かって力一杯、手を伸ばして伸びをする。


『いえいえ〜! これも私の役目でもありますからね!』


 よく分からないが、いつになくチユキが張り切っているような気がするが気のせいなのだろうか……


 アオバはというと俺より先に起きていてみたいで、ってか、そもそもスライムだから睡眠も必要無さそうなのだが……


 そんなこと言ったら俺も睡眠は特に必要ないのだが、未だに寝るとスッキリした感覚を感じられるので、俺は人間としての習慣通り睡眠を取ることにしている。


 それはそうと、何故かポチが俺の部屋にいて、朝っぱらから2匹仲良く戯れあっていた。


 俺が起きたことに気づいたアオバはポチと遊ぶのをやめて、


『ご主人様ぁ、やっと起きたんだねぇ〜! 遅いよぉ〜! でも、おはよ〜!』


 アオバは可愛らしい思念を俺に送ってきた。

 

 俺はベットから下りて、アオバとポチを優しく撫でてから、水魔法と火魔法を使って、温水を産み出し、顔を洗うことにする。


 こんなときに洗顔用の石鹸があればいいのになぁなんて、俺がそんなことを思っていると、その事がチユキに伝わったのか、


『マスター、洗顔用の石鹸ならアオバに頼めばいけるんじゃないですか? あのアオバの【液体創造】スキルでしたっけ? まだ試していませんでしたし……

 というか、そんなことをせずともマスターなら自分で作れるんじゃないですか?』


 とチユキがそんなことを言う。

 だが、俺もこのスキルをもらってからはそんな時間も経っていないので、俺自身もこのスキルを把握できてないことが沢山ある。


 まぁ、なんでもできるという把握が正しいわけで、把握する必要もないのかもしれないけれど……


 俺とチユキの念話は、眷属化しているアオバにも聞こえるようになっているのか、


『ご主人様ぁ、アオバが作ってあげようかぁ〜? アオバ、どんなものか分からないから教えてね〜!』


 アオバは俺の役に立ちたいようで、やる気満々の様子で、ぴょんぴょんとボールみたいに跳ねていた。


 ポチは跳びはねているアオバが面白いのか、パチパチと猫パンチをアオバに繰り出していた。

  

(じゃあ、アオバにはせっかくだから洗顔料を作ってもらおうかな! それと、チユキは向こうの世界の情報にアクセスして、成分を調べてくれるかな? わかったら、アオバに伝えてあげてくれる?)


 俺がアオバとチユキに指示を与えると、


『マスター、かしこまりました!』

『ご主人様ぁ、私頑張るよ〜』

 

 2人の元気いっぱいの思念が伝わってきた。

 

 チユキは、俺の元いた世界の情報にアクセスして、その世界で最も人気の洗顔料を選びだし、その成分をアオバに伝える。


 アオバはというと、その情報をもとに、俺の要望に応えるべく、【液体創造】という、俺の劣化版スキルで一生懸命に、洗顔料を創り出していった。



『ねぇねぇ、チユキお姉ちゃん。ここはこうしたら良いんじゃないのー?』


『えーと、そうですね。そこを変えてしまうと、ちょっと危ないですから、これを入れてなんとかしましょう!』


 しばらくの間、思念を通してチユキとアオバはあーだこーだいいながら、洗顔料の製作に試行錯誤を繰り返していた。


 それからしばらくして、ようやく2人の満足いくものが出来上がったようで、


『マスター! 完成しました!』

『ご主人様ぁ! できたよぉ〜!』


 かなり自信作のようで、アオバとチユキは早速、俺に使ってみて欲しいみたいだ。


(チユキも、アオバもありがとうね! 早速、使ってみるね!)


 俺は2人の頑張りに応えるためにも早速その洗顔料を使うことにする。


 俺は今しがた作って貰った洗顔料を、一掬い手にとり、手のひらでお湯と混ぜて泡だてる。


 すると、柔らかい雲のようなフワフワで、モコモコなきめ細かい白い泡が立ち上がった。


(これはすごいね! 前の世界でもこんなフワフワな泡はなかったんじゃないかな? それに、この香りも初めて嗅いだ匂いだな! 爽やかでいて、それでいて高級感がある! これは何かな?)


 俺が気になったので、2人に聞いてみると、チユキが答えてくれた。


『それはですね、世界樹ユグドラシルの滴と呼ばれるものですね! この世界のエルフの里にある、世界樹ユグドラシルの樹液から抽出される、とても貴重な成分です!』


 自身満々な様子でチユキが答えてくれた。

 アオバはそれを作ったのは私だよーと、言わんばかりに褒めて欲しそうにしていた。


 俺は頑張ったアオバのことを優しく撫でてやった。


 チユキとアオバの頑張りのおかげで、とても良い洗顔料が出来上がったのだが、その頑張りには自重というものが一切なかった。


 これをこの世界で販売する気もさらさらないので別に良いのだが……


 一応、鑑定だけはしておいた。


————————————————————

 女神の洗顔〜世界樹ユグドラシルの滴を添えて〜


等級 創生級

効果 これで洗顔すると、顔の汚れが取れるだけではなく、-10歳程、肌を若返られせる事が可能。

 そして、朝にこの洗顔を使用すると清々しい、さっぱりした朝を迎える事ができ、就寝前に使用すると、ぐっすりとこの上ない快眠をする事ができるようになる。

 加えて、日々これを使用する事で、魅力値が徐々に上がっていく。

————————————————————



 あのスライムゼリーと同じで、こんなものを世に出してしまったら、これを求めて戦争が起こっても困るので、無限収納インベントリにしまうことにした。

 

 俺の顔は洗顔料を使った後は、-10歳肌を実現したようでお肌がもちもちのプルンプルンになっていた。

 

 よくよく考えれば、俺の実年齢は6歳なのだから、-4歳の肌ということになるのだろうか?

 とりあえず肌が若返ったということだけでいいだろう。


 

 俺は洗顔料を俺のために作ってくれた、チユキとアオバに感謝をいって、アオバのことを優しく撫でてやった。

 実体のないチユキのことは撫でてあげられないのが、申し訳ないけれど……

 

 アオバとチユキに俺の洗顔料を作ってもらったというのに、俺から何もしないわけにもいかなかったので、



(洗顔を作ってくれたから、何かチユキとアオバにお礼がしたいんだけど、何か欲しいものとかはないかな? なにかあればかなえてあげられると思うけど……)


 俺はお礼にアオバとチユキの要望を一つ聞くことにした。



『うーん……そうですねぇ……私は今すぐには思いつかないので、また今度でいいでしょうか?』


 チユキは欲がないのか、咄嗟には思いつかないようで願い事を保留する形となった。


 一方、アオバはというと、チユキと違って強欲な性格なのか、咄嗟にこう答えた。


『ご主人様ぁ、私は強くなりたいですぅ〜! だから、私を強くしてください!』


 スライムのアオバが強さに執着するのは仕方がないことだろう。

 なんたってアオバはスライムで、この世界では最弱種族と呼ばれる存在なのだから。


 アオバ自身も今まで自分たちの力の無さに他から蹂躙されてきた鬱憤が溜まっているだろうし、強くなりたいという他よりも気持ちがあるのだろうと、俺はアオバにアオバを強くすることを約束した。


 まぁ、アオバに頼まれなくとも、俺はアオバを強くする気は満々だった。


 なんたってスライムのチート育成は異世界に来たら、やることランキングで言ったら10位にはランクインするのだから。


 俺の願望とアオバも希望もあったことだし、今回は張り切ってアオバを強くすることを決めた。


 例の洗顔を終え、俺も寝間着を脱いで、無限収納インベントリから、服を取り出して着替えを済ませる。


 身支度が終わったタイミングで、カラールさんの従者が朝食が準備できたとのことで、俺を呼びに来た。


 夕食の時と同じ席に座って、カラールさんたちと一緒に朝食を取った。

 

 朝食は白パンに、野菜スープ、ベーコン、スクランブルエッグといった感じで朝食にはとてもいい組み合わせだった。

 

 朝食を食べた後は、早速トランプの商品登録をしに行くとのことで、俺とカラールさんは領内にある教会へと向かっていった。


 ⭐︎⭐︎

 

 教会に到着して商品登録を行おうと神像の前にトランプと契約書を置いた。

 すると、神像の2体が輝きだし、気が付くとトランプと契約書が消えていた。


 何が起きたのか、カラールさんに訊くと、商業神様のもとに送られた、とのことだった。


 2体が光るのは今までなかったらしく、それについてはわからないとのことだ。

 光った神は遊戯神のヘレネスだったから、トランプに興味でも持ったのだろう。


 カラールさん曰く、これで登録と契約は無事に完了した、とのことだ。


 俺とカラールさんはが教会での用事が済んだので、教会から出た。


 突然、カラールさんが俺の方を向き直って、


「ケントさんいろいろとありがとうございました。後のことは私にお任せください! ケントさんは冒険者になられたばっかりとのことですしね!」


 と言ってきた。


 本来ならば提案した俺本人も、商売に関することで、カラールさんの手伝いをするべきなのだが、カラールさんは俺の思いを察してくれているのか、後は任せてください、と言ってきた。


 まぁ、俺は商売に関しては素人であるし、もともとカラールさんに丸投げつもりだったので、


「わかりました、じゃあ、後のことはよろしくお願いします」


「はい、任せてください。それと、ケントさんはこれから冒険者として、各地で活動していくと思いますのでこちらを渡しておきます」


 別れ際にカラールさんに巻物のようなものを渡された。


「カラールさん、これは何でしょうか?」

 俺が訊くとカラールさんが丁寧に教えてくれた。


 この巻物はアフィリ商会の紹介状であって、各地点の支店で商品が割引されることはもちろんのこと、他の場所でもある程度、融通が利くようになるとのことだった。


 俺はカラールさんに紹介状のお礼を言って、お別れをした。


 そのあとは冒険者としての依頼を受けるために冒険者ギルドへと向かっていった。


☆☆



 俺は冒険者ギルドに到着して、中に入るといつも以上にものすごい視線を感じた。


 俺を見た冒険者たちは口々に噂しているようで、


 見ろよ! あいつが例の『金玉潰し』だぞ!?


 まじかよ!? 全然、そんな風に見えないぞ! あんな綺麗な顔してるのに玉をつぶすとか……


 あいつは絶対に怒らせちゃだめだ……特に玉ある連中はつぶされるぞ!?


 と、ひそひそと俺のことを話していた。

 それにしても、俺には冒険者になって初日で不名誉な二つ名が付けられたものだな……


 と、俺はほかの冒険者たちに呆れながら、ギルドの受付へと向かった。


 受付に行くと、昨日と同じく可愛いらしい受付嬢のミリアちゃんが出てきて、ミリアちゃんも、俺の不名誉な二つ名を耳にしているのか、出会って早々俺のことを慰めてくれた。


「大丈夫ですよ……ケントさん……」


 俺の内心はというと————


 その憐れんだ目を俺に向けるのはやめて! 痛いよっ!?


 他の誰から何と言われてもかまわないのだが、ミリアちゃんにそんな目を向けられるのは痛すぎる……


 俺はとうとう耐え切れなくなって、話をそらすためにも依頼についてを訊くことにした。


「ミリアちゃん、さっそく依頼を受けたいんだけどいいの無いかな?」


「そうですね……って、その前にケントさんは昨日Fランク依頼を三つ達成しましたので、今日からはランクがEに昇格します」


 突如ランクアップが宣言された。


 Fランクは体験期間みたいなもので、ランクアップは比較的簡単とのことだった。

 だが、これからのランクアップは難しいらしく各ランクで、ランクアップするには自分の1つ上のランクのクエストを5回連続でクリアするか、もしくは合計で10回クリアする、または、自分と同じランクのものを10回連続でクリアするか、もしくは合計で20回クリアする必要があるとのことだった。


 つまり、俺が次にランクアップするにはDランクのクエストを5回連続でクリアするか、Eランクのクエストを10回でクリアする必要があるということだ。


 その話を聞いた俺は特に遠回りする、必要もなかったので、


「じゃあ、Dランクの依頼を5つほど見繕ってくれませんか?」


 と、俺はミリアちゃんにそう提示した。


「そ、そんな!? いくら、健斗さんでも————」


 ミリアちゃんは最初は俺を止めようとしていたのだが、昨日のことを思い出して、Dランクの依頼を5つほど用意してくれた。

 

 ミリアちゃんは俺の実力の片鱗を知っているもの、心配なことには変わりないようで、


「……はい、こちらが依頼になります……ケントさんはお強いのはわかりますが、どうか無理だけはしないでくださいね……」


 ミリアちゃんは俺のことを本気で心配してくれるみたいで、俺も自分のことを自分のことのように思ってくれている人を無碍にすることなんてできなかったので、「ありがとう」と言って、冒険者ギルドを後にした。



⭐︎⭐︎



 冒険者ギルドを出てすぐに依頼の内容について再度確認することにする。



 俺の肩にいるアオバは早く、早くと待ちきれない様子で、


『ご主人様ぁ、どうやって私を強くしてくれるの~?』


(アオバ大丈夫だよ! ご主人様に任せておいてっ!)

 

 俺はアオバを優しく撫でながら、そんな事を言ってやる。


 今回の依頼は5つとも全てが討伐系で、アオバのレベリングにも、効率的なランクアップにもちょうど良かった。


 依頼を確認した俺は早速ヴァッカ草原の奥、ヴァッカの森へと向かっていく。


 ヴァッカの草原にはEランク以下のモンスターがたくさんいるのだが、平原だけあって魔物の数が少ないらしい。


 それに比べてヴァッカの森はランクの高い魔物も棲息しているし、数もかなり多いしのことだ。


 俺は昨日と同様に、東の門から出て、ヴァッカの森へと向かっていった。


 到着して森の中へと入っていくと、しばらくして今回討伐対象であるモンスターを発見した。


「なんか北海道犬みたいなやつがうじゃうじゃいるな!」


『ま、マスター! 北海道犬って、流石に可哀想ですよ?』


 俺が見つけた魔物は白色の毛並みの狼で、鋭い牙が生えていてかなり獰猛な姿をしていた。名前はホワイトウルフといって、群れを作って生活する魔物らしい。


 俺らが見つけたホワイトウルフも数10匹で群れを成していた。


 気配遮断を使用しているおかげで、ホワイトウルフたちはまだこちらのことを気づいていなかった。


 とりあえず、戦う前にホワイトウルフのステータスを確認してみることにした。


————————————————————

種族:ホワイトウルフ

lv.8/40

【HP】1500

【MP】50

【筋力】1500

【物攻】1500

【物防】1200

【魔攻】30

【魔防】30

【敏捷】1500

【知力】1500

————————————————————

異能:未発現

加護:加護なし

————————————————————

能力アビリティ

俊敏lv.3

噛みつきlv.3

————————————————————


 ホワイトウルフたちの平均はこんな感じだった。

 見た感じアオバよりは強いのだが、アオバの方がポテンシャルは確実に上だし、ある程度経験を積ませたかったので、俺は————




(よし! これならアオバでもいける! アオバ! これからお前を強くしてやる! だから、とりあえず君に決めたぁぁぁあ!)


 俺はアオバを持って、ホワイトウルフの群れへと投げ入れた。

 

 いきなり投げ入れられたアオバは、


『ご主人様ぁぁぁぁぁあああああ!』


 と、叫びながらホワイトウルフの元へと飛んでいった。


 流石のホワイトウルフたちもアオバの投擲には気付いたようで、こちらを威嚇して臨戦態勢を整えていた。

 

 

 ガルルルルルゥゥ! 


 ホワイトウルフたちが低い唸り声をあげる。


 俺の投擲したアオバがホワイトウルフの元に到着したようで、突然投げられたアオバは状況を理解する事が出来ず、俺に抗議をしてきた。

 

『ご主人様ぁぁぁあ! いきなり何するんかぁぁぁあ!』


 だが、ホワイトウルフも目の前に現れた獲物には容赦がなく、待ってはくれない。

 ホワイトウルフたちは無防備なアオバに一気に襲いかかった。


 気づいたアオバは絶叫を上げながら、ホワイトウルフから必死に逃げ回った。


『きゃぁぁぁぁ、ご主人様ぁぁぁあ! ごれ、どうすればのぉおおお! ご主人様ぁぁあ、たすけてぇぇぇぇえ!』


 アオバは逃げ回りながら俺に必死に助けを求める。

 

 だが、俺はアオバの叫び声を聞いても、何もしなかった。

 俺は心を鬼にして、


(アオバ、お前は強くなるんだろ!? 強くなりたいんだろ!?)

 

『……そ、そうだけどぉお! きゃぁぁぁ!』


 アオバは俺に異議を唱えながらも、生きるために必死にホワイトウルフの攻撃を躱す。

 

(アオバは強くなりたいんだよね!? 強くなりたいってのは嘘だったの!? 強さというものは何もせずには手に入れられない! (俺みたいな例外はあるけどね……) だからここで限界を突破するんだ! そしたらアオバは強くなれる!)

  

 俺はアオバに松岡修造並の熱烈な檄をとばす。

 アオバはかなり単純なのか、俺の熱烈な檄に感化されたようで、


『ご主人様ぁぁぁあ! アオバは強くなりますぅぅう!」


 ようやく覚悟を決めて戦う気になったのか、ホワイトウルフから逃げる事はやめて、ホワイトウルフに勢いよく立ち向かっていった。


 一方、可笑しな光景を俯瞰していたチユキが


『ま、マスター……、マスターは何、馬鹿なことをやっているんですか? アオバを強くするならもっと効率的な方法があったでしょ? アオバをあんなところに投げ入れて何がしたいんです……?』


 と、冷ややかな調子で俺に聞いてきた。

 それに対して俺は、


(いやぁ……、なんかね、今までは簡単に強くしてたけど、アオバは強さにはすごい執着していたからね。どうせならアオバの強化はスパルタな感じで行こうかなって思ってさ……)


 と、俺の解答にチユキは呆れた感じで、


『はあ……マスターはおかしなことをしますねぇ……まぁ、私も、そんなところだろうとは思っていましたけどね……ですが、これでよかったと思いますよ。アオバの場合は、幼いせいか簡単に力を与えて強くしたら、なんだかちょっと危ない気がしますからね……それはそうと、なんだかマスターの都合に振り回されるアオバが可哀想だなぁと思ってしまいます……』


 チユキは呆れながらもアオバの強化方法には納得してくれたみたいだ。


 チユキが言う通りに、簡単にアオバを強くしてもいいのだが、俺はアオバに一種の危うさを感じ取っていた。


 だからこそ、俺はアオバが努力して苦労することで、強くしたいという風に俺は考えていた。


 まぁ、個人的に俺がスパルタにしたいと思ったという理由が理由の大半を占めるのだけれど……

 そのことはアオバには言わないようにする。


 そんな俺の身勝手な思惑にはアオバは気付いていないようで、今自分の置かれている状況が俺による愛の鞭だと感じているようで、俺の愛に応えるべく、アオバはホワイトウルフの攻撃をあたらないように必死に躱していた。


 アオバは物理防御のステータスが0なので、一撃でも喰らえば致命的なダメージになってしまう。

 

 アオバはそれをわかっていて果敢にホワイトウルフに魔法を放とうとするも、躱すのに精一杯で魔法を放つことが出来なかった。


 しばらくそんな膠着状態が続いた。


 アオバはかなり体力を消耗している状態というのに対して、ホワイトウルフたちは十数匹もいて、知力が高いからか一匹一匹交互に攻め込んでいたのか、疲労している様子が一切見られなかった。


 俺も流石にここまでかと思って、アオバの代わりにホワイトウルフたちを倒そうかと思ったのだが—————


『マスター! まだ、待ってあげてくださいっ!』


 チユキが俺の行動に待ったをかけた。

 そして、次の瞬間、十数匹いたホワイトウルフたちが次々に倒れていった。


 何が起こったのか、ホワイトウルフ達の状態を見てみると全てが「死亡」になっていた。

 

 アオバがやったのかと思って、アオバの方を見てみると、魔力が完全に枯渇してしまったみたいで、気絶状態になって動かなくなっていた。


 俺はすぐアオバの元へと向かい、アオバのことを抱き抱え、回復魔法を掛けてやる。


 と、アオバが気がついて


『ご主人様ぁ、アオバ、頑張ったよぉぉ……』


 アオバは元気なさげだったがホワイトウルフを倒せたことに満足した様子だった。


 俺もあれだけの数のホワイトウルフを倒したことには純粋に賞賛が口から出てきた。


「うん、凄かったよ、アオバ! それにしても、あれはどうやったの?』

 

 俺がホワイトウルフが突然倒れた理由をアオバに聞くと


『ご主人様ぁ! アオバね、ご主人様の洗顔のやつと同じやつを使ったのぉ〜! 狼たちが死ぬようなやつをイメージして霧状にして撒いたんだよぉ!』


 俺が回復魔法を続けているおかげか元気になったようで、自信満々にそんなことを言っていた。


 アオバは魔法の発動は躱すのに必死で出来なかったものの、スキルは使えることがわかったので避けている間に、並列して【液体創造】を使ったらしい。


 創造した液体は【ヒュドラの毒】というもので、この毒は致死かつ即死性の毒で、それをうまく霧散させてホワイトウルフを倒したということらしい。


 なんてチート能力なんだ!?


「よく頑張ったね、さすがアオバだね」


 俺はアオバのことを優しく撫でて、労ってやる。


 プルプル! プルプル!


 アオバも撫でられて気持ちいいのか、トロンとした様子でプルプルと嬉しそうにしていた。

 俺はアオバの中に一つ気になるスキルがあったので、早速試してもらうことにした。


「アオバ、早速だけどアオバの【暴食】スキル使ってみてくれる?」


 俺がアオバにスキルを使うように頼むと、


『ご主人様ぁ、わかったよ〜!』


 アオバは俺の腕から降りて、毒死したホワイトウルフを次から次へと飲み込んでいった。

 

 アオバはホワイトウルフを飲み込むたびに力が溢れるような感覚があるのか、


『ご主人様ぁ! アオバ、力が溢れてくるぅ〜!』


 強くなるのが嬉しいのか、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。


 俺はアオバの強さを数字で確認するためにもアオバを鑑定してみると、


————————————————————

名前:アオバ

年齢:0

種族:スライム

lv.20/9999

【HP】3000/3000

【MP】3250/3000

【筋力】0

【物攻】0

【物防】0

【魔攻】3000

【魔防】3000

【敏捷】3000

【知力】3000

————————————————————

異能:【暴食(悪食、飽食)】【液体創造X】

加護:覇王の祝福EX、創造神の加護lv.5、魔法神の加護lv.3

————————————————————

能力アビリティ

分裂lv.10

結合lv.10

俊敏lv.4

噛みつきlv.4

————————————————————

称号

覇王の眷属

最強の因子

————————————————————


 と言った感じになっていた。

 ホワイトウルフたちを倒したことで、レベルが上がり、さらに【暴食】のスキルのおかげで、相手のスキルと相手のMPを吸収できたみたいだった。


 それともう一つ気になることがあって、早速アオバに試してもらうことにする。


「アオバ! 噛みつきっていうスキルがあるんだけど、使えるかな?」


 と、聞いてみると、アオバは、


『うんっ! 多分、使えるよ〜!」


 と、元気よく答えてくれた。

 俺が気になったのは噛みつきという物理系スキルが物理系ステータス0のアオバに使えるかどうかということだった。

 それを確かめるべく、俺はアオバにスキルの実践をしてもらう。


「じゃあ、俺に噛み付きのスキルを使ってきてくれないかな?」


『うん、わかったよ、ご主人様ぁ! じゃあ、行くよぉ〜〜!」


 

 ガブリっ!


 と、確かにスキルは発動したみたいで、アオバは俺の腕に噛み付いて……いた!


 だがしかし、俺には何も感じられなかった……

 これは俺の物理防御が高いというわけではない、なぜなら今は、痛みを感じれるように物理防御を0にしていたのだから……


 となると、アオバは物理系スキルは使えるけど、物理攻撃が0であるせいで、物理系スキルを使っても何もおこらないということになる。



 流石にアオバもこの事実にはかなり、ショックだったようで、


『……ご主人様ぁぁあ……、わたし……』


 と、アオバは悲しげな様子で、プルプルと震えていた。

 

 悲しい時も嬉しい時もプルプルとするのだが、思念でどんな感情かは伝わってくる。


「だ、大丈夫だよ……アオバ、アオバには魔法があるだろ……? 俺が魔法教えてあげるからさ……元気だしてよ……」


 と、俺はしばらく消沈してしまった、アオバを慰めてから、さらにアオバのレベルアップをするべく、ヴァッカ森の奥へと向かっていった。

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