第7話
俺は泊まる宿も決まっていなかったので、カラールさんの夕食のお誘いを受けることにした。
この世界というか、貴族や大商人の世界では、急遽夕食にお誘いするということは、今夜は一晩、泊まっていってくださいと同じことを意味している。
貴族たちとも交流が深いであろうカラールさんは当然そのことを知っている。
というわけで、今日一日はアフィリ商会の会長、カラールさんにお世話になることになった。
俺はカラールさんに案内されるようにして、カラール邸宅に足を踏み入れる。
カラール邸の中はというと、金持ち特有のギラギラとした派手さはないものの、大商会の会長だけあって、見たことない工芸品があちらこちらに飾られていた。
カラールさんにあれは何かと尋ねたところ、それらは各国を回った時に惹かれて衝動的に買ってしまったものらしい。
大商会の会長なだけあって、珍しいものや斬新なものには目がないらしい。
そのカラールさんの童心というか、探求心というか、貪欲さがアフィリ商会を発展させていったのだろうと、俺は納得するのであった。
俺はところどころ置いてある珍品を鑑賞しながら、カラールさんに案内させるように後ろをついていく。
階段を上がって、二階へと進み、そこから廊下をしばらく歩いたところで、
「ケントさん、ここが今日ケントさんに使っていただく部屋です。ここの部屋はケントさんの自由にしていただいて構いません。夕食が出来次第、従者の方を呼びに向かわせますので、しばらくの間はこちらでおくつろぎください」
俺は今日泊まる部屋へと案内された。
俺はカラールさんにありがとうございますと告げ、その部屋でしばらく時間をつぶすことにした。
特にやることがなければダラダラ過ごしても差し支えなかったのだが、今日はいろいろなことがあったので、順次それを解決していかなければならない。
まずはこのスライムたちをどうにかしないとなぁ。
俺はずっと肩に乗っていたスライムを腕に抱えるようにして、優しくスライムを撫でてやる。
スライムは撫でられていることを気持ちいいと感じるのか、気持ちいいという思念が伝わってくる。
俺が部屋がスライムと話していたら、変に思われてしまうので思念を通じて、スライムと会話することにする。
(ねぇ、移動のために君たちには一つになってもらったけど、君たちはこれからどうするの? もとに戻りたい?)
このスライムはもともと、数万の集合体。移動のためにスライムたちには一つになってもらったが、この子たちは元に戻りたいのだろうか。
俺がそんなことを考えていると、
『スラスラ、すらスラぁ!(私たちはこのままがいいーー!)』
スライムたちのそんな思念が聞こえてくる。
(別に、君たちは遠慮しなくていいんだよ、俺には空間魔法が使えるからみんなを分離しても、そこに入れてあげることもできるよ!?)
『スラ! すらすらぁ、スラ! すらぁあ!(違うよ、ご主人様ぁ! そんなことじゃないの! 私たちはご主人様とずっと一緒にいたいからなの……
私たちが分離したら、マスターとの時間が平等じゃなくなっちゃってすくなくなっちゃうの…… そんなの私たちはイヤなの! だからみんな一緒がいいの。それに私たちはもともと一匹一匹は弱かったけれど、ご主人様に出会って、一つにしてもらったら、なんだか強くなった感じがするの!』
スライムたちが可愛らしいことを言ってくれる。
何というか、無性の魔物なはずなのに、アイシャのような妹としての可愛さを持っているような気がする。
これは俺の好みの補正なのだろうか……
俺はスライムたちの話を聞いて、少しばかり気になることがあった。
なので、その気になることを解明すべくもスライムたち!? いや、もうスライム!? を鑑定することにした。
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名前:No name
年齢:0
種族:スライム
lv.1/9999
【HP】1000
【MP】1000
【筋力】0
【物攻】0
【物防】0
【魔攻】1000
【魔防】1000
【敏捷】1000
【知力】1000
————————————————————
異能:【暴食(悪食、飽食)】【液体創造X】
加護:覇王の祝福EX、創造神の加護lv.5、魔法神の加護lv.3
————————————————————
【
分裂lv.10
結合lv.10
————————————————————
称号
覇王の眷属
最強の因子
————————————————————
俺がスライムを鑑定してみると、このように表示された。
普通のスライムのステータスはというと、
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種族:スライム
lv.1/10
【HP】100
【MP】100
【筋力】0
【物攻】0
【物防】0
【魔攻】100
【魔防】100
【敏捷】100
【知力】100
————————————————————
異能:未発現
加護:創造神の加護lv.1、魔法神の加護lv.1
————————————————————
【
分裂lv.1
結合lv.1
————————————————————
称号
最強の因子
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と、言った感じだ。レベルの最大値が10だなんて……
スライムって人生というか魔生というか、かなりハードモードみたいだな……
調べてみた結果は俺が眷属化したスライムと比べてみると、その強さの違いは一目瞭然だった。
ひとまず眷属化したスライムにまだ名前を付けていなかったので、スライムに名前を付けることにした。
ん~……スライムの名前をどうしようか……正直、こういう名づけは苦手なんだよな……
色が青色だから、アオっていうのは……て、安直すぎるか……
なら、よし! 決めた!
(よし、今日からお前の名前はアオバだ!)
俺はこのスライムをアオに一文字追加して、アオバにすることにした。
俺が名前を付けてあげると、アオバはプルプルと動いて、嬉しそうにしていた。
アオバが気に入ってくれたみたいなので、俺は鑑定の際に気になったことを続けて調べていった。
とりあえず俺は、アオバのステータスの中で今まで見たことないものの詳細を調べていった。
それぞれの項目に詳細が分かるように念じてみると、各項の詳細部分が表示されていく。
異能:魔物の中でも上位種や、希少種がもつ特別な能力。人族に相応するのは【ユニークスキル】というもの。
【暴食(悪食、飽食)】
あらゆるものを飲み込み、そのスキルまたは、
【液体創造EX】
あらゆる液体を思い浮かべることによって創造することができる。
本来なら一度使用すると、1年間は使用できなくなるというクールタイムがあるのだが、EX化を果たしたことにより、制限が一切なくなった。
いわば、【万物創生EX】の劣化版だが、一般的に見ればものすごい能力だ。
最強の因子:何かしらの突然変異、または環境変化により、それに順応し最弱の存在から最強の存在になる可能性を持つ。
といった感じで、俺ほどではないが、アオバもかなりのチートだったわけだけど、なんだかとても残念なチートだった。
それは何かというと、アオバの筋力及び、物理関係のステータスが0だったからだ。
このことが何を示すのかというと、アオバは物理攻撃を相手に加えても、相手はビクともしないどころか、何も感じない。
そして、逆の場合はというと、アオバは軽い物理攻撃でさえも当たってしまえば、かなりのダメージが入るということだ。
さらには、ステータスの項目が0であることがもう一つ示すのは、今後どれだけレベルが上がって成長しようとも、0である項目は永遠に0のままであるということ。
この世界のレベルアップは倍率制で平均的には1.1~1.3の間である。
要するに何が言いたいのかというと、0に何をかけても結果は常に0だということだ。
俺ならアオバのステータスをささっといじることも可能だったのだが、なんだかこれも面白いなと思い、このステータスは放っておくことにした。
魔物であるアオバはステータスを見ることは出来ないものの、本能的に自分の能力を理解しているらしく、あのスライムゼリーも自分の能力で創ったとのことだ。
俺はせっかくだから、アオバにアオバ自身のステータスを口頭で教えてあげた。
それを聞いたアオバは、筋力と物理関係が0であることは特に気にしていないようで、純粋に強くなれたことに嬉しかったのか、かなり興奮した様子で、客室のベットの上をぴょんぴょんと跳びはねていた。
さすが、物攻0なのか、着地した際の衝撃は俺に、そもそもベットにも衝撃は加わらなかった。
☆☆
そんなこんなしているうちに時間が過ぎ去っていった。夕食の準備が出来たようで、カラールさんの従者が俺を呼びに来た。
まだ、いろいろ検証したいことがあったのだが、親切に誘ってくれたカラールさんに迷惑をかけるわけにもいかなかったので、検証は後に回して従者のあとについていった。
ダイニングテーブルには、すでにカラールさんと、カラールさんの家族が着席していて、
「カラールさん、お待たせてしまい大変申し訳ございません……」
と、俺が謝罪を口にすると、
「いえいえ、いいのですよ。ケントさんはポチの恩人ですし、今回は客人ですからね。気になさらず、どうぞ席にお座りください」
カラールさんに言われて、俺は用意された席に着く。
俺が着席したことにより、メイドや従者が出てきて、フランス料理のごとく一品一品、順番に出てきた。
メインはオークの肉の霜降りのステーキで、上品な味に柔らかな舌触りでとても美味な一品だった。
食卓テーブルの上座に座っているのは、もちろん家長であるカラールさんで、カラールさんの左側に俺、そして、カラールさんの右手、そして、俺に向かい合う形で美人なご婦人が座わっていた。
その方はカラールさんの奥さんで、大商会の会長の奥方だけあって、貴族並みの品と、美貌を兼ね備えた感じのいい人だった。
カラールさんの奥さんと話をしていると、実は元は貴族のご令嬢だったとのことだ。
そして、その奥様の隣には6、7歳の男の子が座っていた。
この男の子は、カラールさんの息子さんで、マイケルという名前らしい。
奥様に似たのかその年でもかなり顔が整っていて、将来は女殺しのイケメンになることが伺えた。
しかし、社交的なカラールさんと奥様とは違って、かなり極度の人見知りとのことで、俺が見ると顔をそらしていしまう。
まだ、小さいのだからしょうがないなと思いながら、楽しく食事をとった。
カラールさんや奥様からは冒険者についてのことや膝に座っているアオバにことについて聞かれた。
俺が冒険者になって、一日もたっていないという話をすると二人ともかなり驚いていた。
冒険者の話をしている最中、マイケル君は会話には混ざってこなかったものの、冒険者に憧れているのか、冒険者のことをキラキラした目をしながら聞いていた。
そのあとはカラールさんにアフィリ商会についてのことをいろいろと聞いた。
アフィリ商会は生活雑貨から武器まで、さまざまな幅広い分野を取り扱っているとのことだ。
しかし、最近では他の新興商会にも追い抜かれそうとのことで、新たな分野に踏み出したいとのことだった。
カラールさんのアフィリ商会は困窮しているようには全然見えなかったのだが、かなり切羽詰まっているようで、猫の手も借りたいといった感じで、ダメもとで俺になにかいいものはないか、と訊いてきた。
前の世界のものを参考にすれば、めちゃくちゃ案がたくさんある俺はというと、どうしようかと思考を巡らせていた。
ここは定番にそって、リバーシとか将棋にするのがいいのだろうか……
他にはそうだなぁ……トランプとか、UNOとかがいいのだろうか……
残念なことに、この世界には民衆の娯楽という文化が一切ない。
文化が発展しないのは、娯楽というと貴族たちの贅沢であって、平民たちはそんなものに捻出する財もなければ、時間もないというのが原因だった。
俺は娯楽というものを民衆たちにも広めるにまた思考する。
大衆に娯楽を進めるには、コストが安く済み安価で発売が可能なもの、そして、大量の需要にこたえるための大量生産が可能なもの。
しかも、この世界の文明水準のもとでという条件が付く。
急激に文明を発展させることには多大な影響をもたらすので、俺が文明を一新してしまうのはなしだ。
となると、この世界では魔法書の発行にはすでに、活版印刷を使っているから、紙や台紙でなら大量生産が可能、だな。
となると、今回はやはりトランプを作成するのがいいだろう。
トランプとなると、考えようによっては無限の遊びが可能となるし。
それに今回の俺の目的としては、前世での知識を披露して金稼ぎをすることではない……
今回の目的はこの世界に一般大衆的な娯楽というジャンルの存在を提示することである。
これはなんのためであるのかというと、究極に言えば俺のためである。
そして、ほんの少しだけではあるが、アフィリ商会の手助けをすることである。
ここで恩を売っておけば、何かあった時に頼れるだろうから。
この魔法がある世界なのに、前の世界のものを無暗矢鱈に持ち込んだだけでは、この世界の人は満足かもしれないが、俺が楽しむことができない。
それではもったいない……と俺は思う。
この世界にも非凡なアイディアに富んだ人もいるだろうから、せっかくならこの世界の天才たちが作ったもので遊んでみたい。
だからこそ、あくまで娯楽というジャンルのきっかけになるだろうトランプをカラールさんに教えることにした。
俺は簡単に魔法でトランプを創り出した。
突然、俺の手に出現したトランプを見ると、珍しいものに目がないカラールさんは、獲物を見つけた猛獣のような獰猛な眼をして、トランプをじっと眺めていた。
「ケントさんっ! それはいったい何ですか!?」
俺の思い通りにカラールさんはトランプに食いついてきて、俺は順にカラールさんたちにトランプについて説明をした。
そのあとはルールが簡単なババ抜きをして、カラールさんと奥さん、そしてマイケル君と楽しんだ。
マイケル君はトランプにはまってしまったのか、もう一回、もう一回とせがんできて、人見知りが嘘みたいになって、俺にも普通に話しかけられるようになった。
このマイケル君の姿には両親も驚いたようで、
「トランプってものはすごいですね……あの人見知りのマイケルがこんなにもすぐに打ち解けてしまうなんて……」
奥さんがマイケルの様子をみて、息子の成長を感じたのか嬉しそうにしていた。
一方、大商会の会長である、カラールさんは商人として、こんな儲け話を放って、置くことなんかは出来ず、
「ケントさんッ! 30でいかかでしょうか!?」
と、言ってきた。
この数字はというと、アフィリ商会がトランプというものを専売するにあたっての特許料にことだ。
簡単に言うと、売上価格の30%を俺に支払う代わりに、このトランプをアフィリ商会に専売させてくれということだ。
まぁ、俺の見積もりでは、おそらく25くらいだったのだが、それ以上に30と言ってきた、カラールさんにはさらに好感が持てた。
夕食をともにして、ある程度親密になったのだから、20くらいでどうか? いわれると思っていた。だが、カラールさんは親しい中にも礼儀あり、といった感じのひとだった。俺もこの人なら今後ともに良い関係を持っていたいと思ったので、
「今回はカラールさんを見込んで、20でいいでしょう……その代わりといっては何ですが、大衆娯楽という新分野をこれからはアフィリ商会が熱意をもって、この世界に発展させていただくことにしましょう。さらに加えて、アフィリ商会で新たに産まれた商品を無料で、俺に提供することを約束してくださいってのを、契約内容としたいのですが、どうでしょうか」
と、契約内容をカラールさんに告げた。
カラールさんは最初はその条件をあまりにも自分優位のものだったため、渋っていたものの、カラールさんには確実に利益のあることなので、最終的にはその条件を承諾してくれた。
俺としてもかなり利のある話だった、というか利しかない話だった。
なにせ俺としては何もしないで、ただで娯楽商品つまりゲームを、加えて莫大なお小遣いを手に入れたのだから。
そのあとにカラールさんに教えてもらったことなのだが、新たな商品の特許をとるには教会へ行って、その新商品を商業神にささげる必要があるようで、明日はさっそく教会へと向かうことが決まった。
神様に特許申請をすると、他の誰かが無法に利益を犯そうとしたときに神罰が下るようになっているとのことだ。
この世界で商売に関するものは教会にて、商業神に捧げることによって管理されているらしい。
このシステムは明らかに俺の居た世界よりも進んでいるといえよう……
そんなこんなでマイケル君がトランプにご執心だったため、かなり長い時間経っていた。
いつの間にか、俺の膝にいたはずのアオバはポチのところまで移動して2匹が仲良く眠っていた。
俺はアオバを優しく起こし、眠そうなアオバを腕に抱えて、俺は自分与えられた部屋へと戻っていった。
俺は夕食に行く前に、戻ってきたらアオバの検証をしようと思っていたのだが、スライムのくせに気持ちよさそうに眠っているアオバを無理矢理起こそうなんて思わなかったので、俺はアオバを抱き枕にして、チユキにはおやすみと告げて、目を閉じた。
眠りに着く前に、アオバのレベリングもしてあげなきゃな、と思ったのであった。
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