第6話 

 俺は初めての依頼を達成したあと、それを報告するべく、冒険者ギルドへと向かっていく。


 道中、右肩にスライムが、左肩には猫のポチが乗っているからなのか、それとも俺のこの容姿のせいなのかはわからないが、あちらこちらから視線を強く感じる。

 

 俺は注目されることに快感を覚える性ではないので、足早に冒険者ギルドへと向かっていく。


 冒険者ギルドに到着し、ギルドの扉を開けると、お酒の匂いがプーンと漂っていた。

 

 もう日も暮れていて、他の冒険者たちは依頼を達成して、その報酬をもらったようで、ギルド内の居酒屋でワイワイと自分たちの働きを労っているとのことだ。


 俺はワイワイと騒ぐ冒険者たちの間を抜けながら、受付の方に依頼を達成を報告しにいく。

 

 受付嬢たちが俺を発見したからか、ヒソヒソと会話をしていた。


 俺は受付嬢のことは関係なしに、受付へと向かう。


「依頼を達成しましたので、ギルドに報告に来ました!」


 と俺が言うと、今回も冒険者登録の際に対応してくれた、可愛い娘が俺の対応に当たってくれるようで、


「あの〜、健斗さん!? 依頼を達成したのはいいのですが……その〜、ケントさんの肩の子たちはなんですか?」


 と、受付嬢の子が可愛く首を傾げながら、そんな事を聞いてきた。


 と、俺は別に隠すこともないので、この子たちの紹介をすべく、ポチとスライムを腕に抱えて、


「こっちの猫ちゃんが、今回の依頼にあった、たま……、じゃなくて、ポチちゃんです! で、こっちの子がスライムで、ヴァッカの平原でテイムしてきました!」


 と、俺が言うと受付嬢は俺が言ったことにかなり驚いているようで、


「えっ!? たま……じゃなくて、ポチちゃんのことはいいのですが……す、

 スライムはなんで、テイム出来たんですか? テイムをするとなると、テイマーの恩恵が必要なはずなのですが?」


 と、恩恵が魔法剣士であり、テイマーでない俺がスライムとはいえ、魔物を使役しているということに納得ができないみたいだった。


 俺は彼女に本当のことを言うつもりもサラサラないし、彼女は魔法剣士のことについてもそれほど知らないだろうことを予想して、


「まぁ、知らないとは思うけど、魔法剣士ってテイムもできちゃうんだよ!?」


 俺は今とっさに思い付いた嘘をついて、この場を収めることにした。

 魔法剣士といえばかなりの上級の恩恵でしかも貴重な恩恵。

 だから、魔法剣士の力だと言えばなんとか納得してくれるだろうという意図があってのことだ。

 

 受付嬢の娘もはぁ、と納得してくれたみたい……というか、納得せざるを得ないといった様子で、


「で、ケントさんは依頼達成の報告に来たと言いましたが、今回は迷子の捜索についての達成報告でよかったですか?」


 と、受付嬢が口にするが、もちろん俺がここに来たのはポチちゃんの捜索だけでなく、すべての依頼が達成したことを報告するためなので、


「えっ!? 違いますよ? 今回は、先程、受けた依頼を全部達成してきたので、ここに報告しに来たんですよ?」


 と、俺がそう言うと、受付嬢さんが、この人は何を言っているのだろうといったポカーンとした表情をして、


「————でも、ケントさんはどこからどう見たって手ぶらじゃないですかっ!? あんまり私をからかわないでくださいよ~」


 と、言ってくるので、俺はなるほど、この娘は俺が無限収納インベントリを持っていることを知らないんだのだ、と理解したので、


「心配しなくても大丈夫ですよ! 薬草やスライムゼリーはこちらにありますよ! ほら!」


 と、俺は無限収納インベントリから、回復草とスライムゼリーを1つずつ取り出して、受付嬢に見せる。


 すると、受付嬢の娘は俺の無限収納インベントリを見て驚いているようで、


「えっ!? ケントさんはアイテムバックをお持ちなんですか? って、アイテムバックじゃないっ! となると、ケントさんはもしかして空間魔法が使えるのですか?」


 と、驚きの許容範囲を超えてしまったのか、周りが全く見えなくなってしまったのか、受付嬢としてではなく、普通の女の子としての表情を見せて、強引に俺に詰め寄り、俺のことを問い詰めてくる。 


 俺もこれ以上騒がれると、無駄に目立つ事この上ないので、

 受付嬢の娘に、手をこっちこっちと招いて、耳元で小さな声で、


「そうだよ、俺はなんたって魔法剣士だからね! 空間魔法も使えるんだ」


 と言っておいた。

 それを聞いた受付嬢さんは、もう縋るところが俺が魔法剣士であるという事にしかないようで、はぁ、と諦めて納得してくれた。


 と、俺が秘密を話したからかはわからないが、


「……って、私ったら何して……

 と、ごっほん。ここまでケントさんのことを教えてもらって、私が何も教というのではフェアではありませんね! てことで、私からは自己紹介をしたいと思います。私はここのギルドの受付嬢をしております、ミリアといいます。ケントさん、改めてよろしくお願いしますね」


 と、可愛らしい受付嬢こと、ミリアさんが俺に自己紹介をしてくれた。

 

 別にギルド嬢は自己紹介を別にしなくてもいいみたいだったのだが、俺が自分の秘密!? を教えたからなのか、丁寧に自己紹介をしてくれた。


 と、俺とミリアちゃんが楽しく会話をしているときに、俺の脳内に居候をしているチユキが、


『ま、マスター! 気をつけてください! 彼女からは女の匂いがプンプンしてきます! って、誰が居候ですかぁぁぁぁあ!』


 と、よくわからない事をワンワンと叫んでいた。

 俺は脳内で、うるさいチユキは放っておいて、本来の目的であった、依頼達成の報告をすべく、回収した薬草やスライムゼリーをそれぞれ出していく。


 流石に今日採って来たものを全部出すわけにも行かないので、どれくらいの量なら、許容範囲なのかをチユキに聞いたところ、


『だいたい、基本の回復草、魔力草、万能草は2〜30束くらいでいいんじゃないですか? スライムゼリーも30個くらいでいいと思いますよ〜 あ、追加で上級の薬草も5束くらい出したらどうですか?』


 と、言われたので、俺は無限収納インベントリから、魔力草、回復草、万能草を30束ずつ、スライムゼリーを30個ずつ、上級系薬草を5束ずつ取り出した。


 スライムゼリーを取り出す際にスライムたちがプルプルと揺れて、恥ずかしそうにしていた。

 

 なぜ、恥ずかしいそうにしているのかスライム達に聞いてみると、


『スラスラ、スラスラすらぁ……(ご主人様ぁ! あれは私たちの一部だったんですよ? しかもあれは一部といっても、私たちの老廃物……つまり、うんちなんですよぉ〜……』


 といった思念が伝わって来た。


 流石の俺もこの事実には驚きで、この世界の人たちはスライムのうんちで体を綺麗にしているのかと謎のパラドックスを感じてしまった。


 まぁ、そんなことがわかるのはスライムの思念が理解できる俺と、智慧神のチユキだけであって、他の人もこの事実を知らないほうが幸せだろうと、俺はこのことは言わないでおこうと決めたのであった。


 と、俺はどんどんと採取物を出していったが、今回はチユキの意見を聞いて個数を調整して出したので、そこまで驚かれはしないだろうと思っていたのだが、その俺の予想はあっけなく外れてしまうのであった……


「な、な、ケントさんっ! これは一体どういうことなんですかぁっ!」


 と、ミリアちゃんがまたも慌てふためいてしまって、俺に真相を聞くべく、じりじりと近寄って、問いただそうとしてくる。


 でも、今回ばかりは、俺にはどこに驚く点があるのかは皆目検討もつかないので、


「ねぇ……、ミリアちゃん、ちょっと落ち着いてよ……俺にはなぜ、ミリアちゃんがそこまで驚いてるのかがわからないんだけど?」


 と、俺がミリアちゃんを宥めるようにして、驚いた理由を訊くことにした。


「も、申し訳ありません……また、私やってしまったんですね……」


 と、ミリアちゃんは同じことをやらかしてしまったために、ションボリとしてしまった。

 そんな様子も、守ってあげたくなるような感じでとても可愛らしかったのだが、俺は別に彼女を落ち込ませるような気はさらさらないので、


「いや、いいよ。ミリアちゃん、気にしないで! あっ、でも、本当にミリアちゃんが驚いた理由が分からないからそれを教えてくれないかな?」


 と、俺がミリアちゃんに許しを与えると、ミリアちゃんもパァッと笑顔に花を咲かせて、いつもの調子に戻り、説明をしてくれた。


「では、なぜ、私がここまで驚いたのかを説明いたしますね! まずは、この薬草の鮮度ですっ 普通はここまでの鮮度を保ったまま採取することは出来ません。こんな風にするには、採った時に時間をとめるか、薬草が根を張った土ごとを運んでくる必要があります……

 まぁ、この点に関しては私もケントさんが空間魔法を使えると知っているので、それほど驚きませんでした……が、しかし、このスライムゼリーは異常ですっ!? 何なんですか!? これはっ!? 私は一応、鑑定のスキルを持っております。私の眼が間違いなければ、これは…………」


 と、驚いた理由を教えてくれた。

 薬草に関しては鮮度が新鮮過ぎて異常とのことだったのだが、本当の問題は俺が提出したスライムゼリーの方にあったとのことだ。

 

 俺は腕の中に収まっているスライムのことを見ると、


『スラスラスラァアっ♪(ご主人様ぁ! 私たちすごいでしょ〜! 褒めて、褒めて〜♪)』


 と、スライムたちの愛くるしい思念が伝わってくる。

 

 と、可愛いスライムをヨシヨシと撫でて、俺もさっそく神眼によって鑑定をしてみると、


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スペシャルスライムゼリー

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効果

 このスペシャルスライムゼリーを肌につけると、-10歳肌が実現します。

 さらに、髪の毛が乏しい人が、スペシャルスライムゼリーを頭皮につけることで育毛促進効果が期待でき、若かったあの頃のモサモサの髪の毛が手に入ります。

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 と、スライムゼリーの内容が表示された。

 流石の俺も、この効果には驚きを隠せなかった。


 な、な、なんだよ!? これ!?


 科学技術がこの世界よりも、発達した前世での世界でさえも、この商品が存在していたら、飛ぶように売れて、それをめぐっての暴動が起こってことだろう。

 まして、この世界でこんな物が出回ってしまったら…………


 これを求めて、ハゲたち、そしてマダムたちによる戦争が起こる……


 その事をミリアちゃんもわかっているようで、


「ケントさんっ! 私はここで何も見ませんでしたし、聴きませんでしたっ! ですので、今回のスライムゼリーに関しては依頼は達成出来なかったとのことでいいですよね?」


 と言ってきた。ミリアちゃんは俺のことを心配してなのか、俺を危険に晒さないようにしてくれるみたいで、俺もありがたくミリアちゃんの好意は受け取っておこうと思ったのだが———


『スラスラぁ……(ご主人様ぁ、ごめんなさい……ご主人様が喜ぶと思ったの〜〜、普通のを出すから許して〜〜』


 と、悲しげな様子で、スライムたちがそんな事を提案して来た。


 スライム達には申し訳ないが、せっかくの初依頼を黒星で飾るのは気が引けたので、スライム達に普通のスライムゼリーを出してもらった。


 スライムから出て来たように見せると、後々問題になりそうなので、俺は一度スライムゼリーを見えないように無限収納インベントリにしまってから、取り出した。

 


 普通のスライムゼリーをみたミリアちゃんが、ほっと安心した様子をしていた。

 


 無事に依頼の達成の報告が終わった。あとは納品に関しての報酬があるみたいで、


「普通の薬草各種、90束。及び、上級薬草各種15束、普通のスライムゼリーが30個となります。そして、さらに全ての納品物の品質が最高のものでありましたので、依頼書通り上乗せするという形で、薬草各種350フェス×90と、上級薬草各種1050フェス×15と、スライムゼリーが550フェス×30となりまして、合計、大銀貨6枚、銀貨3枚、大銅貨7枚、銅貨5枚になります」


「はい、ありがとうございます」


 と、俺は今回の報酬をミリアちゃんからもらった。


「それにしても、今日、冒険者登録をしたばかりで、まだFランクだというのに、これだけ稼げるというのは流石ですね」


 と、ミリアちゃんが俺の報酬の多さに驚いていた。

 ミリアちゃん曰く、1日でこれだけの報酬を稼ぐともなると、Bランクくらいじゃないと難しいとのことだ。


 ポチに関しての依頼達成は飼い主に、ポチちゃんを引き渡し、依頼達成の署名をしてもらった後、また冒険者ギルドの方に来て欲しいとのことで、俺は冒険者ギルドを出ていこうとしたのだが、ここは冒険者ギルド。いわば、荒くれものたちの巣窟。


 俺が外に出ようと、扉へと向かおうとしたところ、


「おい! 止まれや、そこのガキ! お前ぇ、見たことねぇ顔だなぁ! もしかして、お前新人かぁ!?」


 と、身長は195センチくらいの筋骨隆々の大男が俺に声をかけてきた。

 顔には魔物に引き裂かれたのか、古傷があって、さらに、かなり酒を飲んでいるのか顔は真っ赤で、息がとても酒臭かった。

 

「えぇ、そうですけど……それが何か!?」


 と、この男は俺の返答が生意気で、気に入らなかったようで、


「はぁぁああああ! てめぇ、Fランクの分際のくせになんだその態度は!?」


 と、俺がこの大男に絡まれたところをみた、他の冒険者たちはというと、


 うわぁ…… あいつ、ついてないな! あの人に目をつけられるなんて……

 

 そうねぇ…… 私、あの子結構好みだったんだけどなぁ……

 

 なんたって、あいつはCランク冒険者の【狂斧】のがリウスだろ!?

 

 あの人、またBランクの昇格試験に落ちたらしいぜ!? その腹いせなのか、新人冒険者たちに絡んでは、新人を痛めつけてるらしいぜ!?


 前まではここではそんなことなんてなかったのになぁ……


 そうねぇ……【紅蓮の魔女】のリーファ様さえ、いてくれればよかったのになぁ……

 

 と、俺がこの巨漢に絡まれて、悲惨な目に合わされることを予期しているのか、冒険者たちが、俺に憐れみの視線を向けてくる。


 だが、一方でからまれた本人はというと、


(ねぇ、チユキー! 来たね!? テンプレの絡まれ!? これって、やっちゃっていい感じなのかな!?)


『ププッ! マスターが楽しそうで何よりですよ。でも、ここで派手にやらかすとかなり目立ってしまいますよ!? いいんですか!? あれだけ目立ちたくないって言ってたのに……』


(うーん……そのことについて考えたんだけど、カインとして目立つわけじゃないから、いいかなって思うんだけど、それにいずれは母さんと同じSランクにもなりたいからさ、目立つのも時間の問題かなって……)


『確かにそうですね、Sランクになればこの国に留まらず全世界にその名が知れ渡りますからね……』


(えっ!? そこまでとは知らなかったよ! まぁ、とりあえず、このガリウスっておじさんはやっちゃて、いいんだよね!?)


『はい、基本的にギルドは個人の諍い、トラブルには介入致しません。ですので、殺さない程度に痛めつけるくらいならいいでしょう」


(ギルドって、なんだかドライなシステムなんだね! まぁ、ギルドがいちいちこんなことに関与してたら、大変だろうからね……)


『まぁ、そうですね……ところで、マスターはこいつにどんな粛清をするんですか!?』


(まぁ、チユキは見ててよ!)


 と、俺がチユキと会話しているところ、ガリウスからしたら、俺が無視しているように見えたからか、


「おめぇ!? よくも俺様のことを無視してくれたなぁ! 覚悟はできてるんだろうなぁ!」


 と、ガリウスが怒り狂った様子で、大きなこぶしを振り上げ、俺に殴りかかろうとする。

 

 俺からしたら、ガリウスのスピードなど止まっているように見えてしまうため、難なくそのこぶしを躱す。


「おじさんのパンチはすご〜く遅いんですねー」

 

 ガリウスは俺が交わしたことに驚きつつも、俺が躱したことが、気に入らなったのか、さっきよりも素早いパンチを俺に向けてきた。


「く、くっそぉお! 逃げてんじゃねぇぞ! このガキがぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 だが、どれだけガリウスのスピードが上がろうと、俺からしたら誤差に過ぎないので、俺はすべての攻撃を華麗にそして、最小限の動きでかわす。


 と、ガリウスが酒を大量に飲んだ状態で激しく体を動かしたため、血液と一緒にアルコールがガリウスの全身に回ったようで、立つこともできないくらいにふらふらになっていた。


 そして、そんなところをチャンスと思った俺は、よろよろになった今にも倒れそうな、ガリウスの大切な場所をピンポイントに狙いすまし、思っ切りそれを蹴り上げた。


 ちーーーーん。


 上手く狙いをすまして蹴りを放ったので、勢いはいちもつだけに集約してくれたようで、ギルドのものを破損するなんてことはなくて済んだ。


 俺は一仕事終えた感じで、ふぅーと息を吐いた。

 


 と、この様子をみたほかの冒険者たちは


 なんだ、あのガキは!? ガリウスが酔っていたとはいえ、すげぇじゃないか!

 って、あいつ容赦ねぇな…………


 なんか、俺は清々したぜ! 最近のガリウスの行動は目に余ってたからな!

 って、でもあれは絶対に痛いだろ……

 


 それにしても、あのガキは何者なんだ!? あの、身のこなし……ただもんじゃぇ……

 って、流石にあれはガリウスにも同情しちまうぜ……


 と、口々に言う。


 酒で酔い潰れ、大事なところを見事に蹴られた、ガリウスはあまりの痛みからか、口から泡を拭いて、下からもなにかの液体が漏れ出して、気絶していた。


 俺は流石にこのまま放っておくのも、気が引けたので、ガリウスに生活魔法のクリーンをかけて、他の冒険者の方にお騒がせしたことを謝罪してからギルドを立ち去った。 


 ⭐︎⭐︎


 冒険者ギルドを出てすぐ、チユキからの念話が伝わってきた。


『マスター……、見ておいてって言っときながらあれですか? もっといい方法があったでしょう!? 私はいちよ、レディなんですけどー!? 一瞬にして眠らせる魔法を使って眠らせてその後、今度悪さを起こさないように悪夢を見せる魔法をつかうとか?』


 と、チユキは俺の対処の仕方に不満があったみたいで必死に抗議をしてきた。


(たしかに、そうだったな。でも、すぐ眠らせたとなると色々面倒だと思ったんだよ。それなら、アルコールを利用した方がいいかなってね……悪夢を見せる発想はなかったけど、きっと大丈夫じゃないかな?)


 だって、さっきのがもはやガリウスにとっては悪夢みたいなものだろう。


 と、俺は再び、両肩にポチとスライムを乗せて、次の場所へと向かった。


 次、俺が向かうのは、ポチの飼い主の家だ。


 流石に夜も遅くなってきたから、早く自分が泊まる宿を見つけたいなぁと思いながら、チユキに案内されながら向かっていく。


 としばらく歩いていくと、


『マスター、着きましたよ。ここがポチの飼い主さんの家です』


 と、チユキに案内された家は、グロービル伯爵家ほどは大きくはないが、それでも他の家と比べたら、豪華で、この家の主が裕福なことがすぐわかる建物をしていた。


 と、俺が来たことがわかったからなのか、奥から、優しい顔つきをした男性がこちらへと歩いてきた。

 

 俺の肩に乗っていたポチは、その男性の姿を見ると、俺の肩からは元気よくピョーンと飛び降りて、勢いよくその人の元へと向かった。


 と、ポチを見つけた男性は、


「ポ、ポチー!? ポチなんだね? 良かったぁ!」


「ミャ〜〜♪」


「ポチが無事でよかった……」


 と、ポチとの再会を喜んでいた。

 俺もそんな姿を見たら、無骨にも割り込むわけにもいかず、しばらくの間は終わるまでじっと待っていた。


 しばらくして、ポチとの感動の再会が終わったのか、ようやくその男性が俺の存在に気が付いて、


「……大変申し訳ございませんでした……あなたがポチをここまで連れてきてくれた冒険者ですね! ポチのことを探してくれた恩人さんだというのに、挨拶もまだしていなかったですね……」


 と、男性が身なりを整え、自己紹介を始めた。


「私は、アフィリ商会の会長のカラールと申します。本日はポチをここまで連れて来ていただき本当にありがとうございました。お礼と言っては何ですが、良かったらウチで夕食を一緒にしませんか?」


 と、男性は名乗ったのだが、この発言には俺も驚いた。


 アフィリ商会といえば、この国の中では5本の指に入るほどの財力、商力を持ち合わせ、他の地域にも数多くの支店をもつ大商会。


 前に父さんや母さんにこの町には、有名な大商会の本店があることを聞いていたのだが、ポチを通して、大商会の会長とこんな風に出会うことになるとは……


 これが俺と、じきにこの国でNo. 1の商会になる、カラール商会の会長との出会いだった。


 俺はこの出会いに何かの運命を感じて、宿も取っていなかったので、カラールさん好意に甘えて夕食を共にすることにした。

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