第5話

 冒険者になることを決めて、家族からの了承を得てからおよそ10日が経った。

 了承を得てから、すぐに冒険者として活動しなかったのには理由があった。

 その理由はというと、アイシャが俺が旅に出ることを分かっていても、すぐに俺が出て行ったら、悲しむだろうとのことだ。


 可能であるならば、アイシャも一緒に俺の冒険に連れて行ってあげたいと思うほど、アイシャとの時間を大切に思っているので、俺はすぐには出発せずに、しばらくの間は家にいることにしたのだ。


 その間、ただただアイシャと戯れるだけではなく、チユキを通じて、冒険者に関する学習をしたり、自分の力に慢心せずに剣の鍛錬、及び、魔法の鍛錬に精を出した。


 冒険者としての仕事内容には様々なものがある。いわば、何でも屋みたいな感じだ。


 一般的には採集依頼、魔物の討伐依頼、そして、商人や貴族たちの護衛依頼がある。

 

 他にも迷子を探したりだったり、犬の散歩をしたりする仕事もあって、冒険者としての仕事の種類は多岐にわたる。


 冒険者になるためには冒険者ギルドで、冒険者登録をする必要があるということだ。

 登録をするとギルドカードというものが与えられて、それは身分証としても、加えて、金通帳みたいにお金を預けたり、引き出したりできるということだ。


 そして、冒険者にはランクというものが存在して、下からF、E、D、C、B、A、Sというランクが存在するらしい。

 Fが冒険者見習いで、安全性の高い依頼を受けて、冒険者について学ぶ。

 そのあとEは新人冒険者、そして、1番冒険者数が多いのがDランク、そのあとのCランク冒険者はベテランの冒険者が多くを占め、そのあとB、A、Sは順番に、凄腕、超人、人外という具合になるらしい。

 俺の母さんはいちよ、Sランクであり人外認定されている。

 さらに、Aランク冒険者には男爵に相当する権力が与えられ、Sランク冒険者になると伯爵と同じくらいの権力が与えられるらしい。


 ランクに関して付け加えると、かなりの実力を持った新人でも、この世界では例外もなく、Fランクから始まるらしい。

 昇格に関しても厳重なようで、ぴょんぴょんと飛び級などの処置も一切ないということだ。

 

 この方針は冒険者たちの死亡率を少しでも下げるためにあるらしい。

 

 高ランクになればなるほど、実践における経験値が必要となり、加えて、依頼を真面目にコツコツ開ける、誠実な性格、および信頼が求められているということだ。

 

 と、俺は冒険者についての知識をある程度身につけて、とうとう出発の時が来た。

 

「じゃあ、行ってきますね」


 と、俺は家族に向けて、別れを告げる。

 父さんと母さんも笑顔で見送ってくれて、


 肝心なアイシャはというと、


「にーにー! 頑張ってね〜!」


 あのブレスレットをあげた、おかげで悲しむ様子はなく、いつも以上にの可愛い笑顔をこっちに向けて、手を振ってくれた。

 連絡をすることと、新たな街についたら、転移で一緒に回るなどの約束をしたのも効果があったのだろう。


 なぜだか、見送りの際に1番別れを悲しんでいるのは、俺の専属のメイドである、サーニャだった。


「サーニャ、そんなに泣かないでよ。2度と会えなくなるわけじゃないんだしさ……」


「カイン様……、私も一緒にカイン様と旅をしたかったですぅー……」


 と、いつもはピンと立っている尻尾が今はかなり垂れ下がってしまっていて、かわいい耳までもがぺったんとしていた。


「まぁ、この家にはサーニャは必要だしね……もう少し俺が大きくなったら、一緒に旅でもしよう!」


「はい……わかりました……約束ですからね……」


 ステータスからしても、サーニャはこの家の中では父さんと母さんを除いてはトップの実力なので、この屋敷の最終防衛ラインであると考えられる。


 そのことは、サーニャも充分に分かっているようで、何が何でも俺についていく、といった感じには駄々をこねたりはしなかった。


 さすがに何もしないのはかわいそうだなと思った俺は、アイシャと同じ機能を付与したイヤリングを渡した。



 と、俺は家族皆に別れを済ませて、ようやく冒険に出るべく家を後にした。



 ⭐︎⭐︎


 家を出てから数分のところで、俺は冒険者として活躍していくために、人通りのない裏路地にて姿を変えることにした。


 身長は178センチに、髪色は前世と同じ黒髪。

 そして、眼だけは金色のままにして、派手な紋様だけを消すことにした。

 ステータスの方も、変更ができるようで、歳は希望通りの18歳にして、名前は前世と同じ、ケントにすることにした。


(よし、こんな感じでいいかな? って、誰だよ? このイケメンは!)


 と、俺は鏡に映った自分の姿をみて、あまりの自分のイケメンぶりに驚いてしまうのであった。


『まぁ、マスターはなんたっても神様ですからねぇー。姿を変えようがイケメンであることは変えられないですよぉー』


 と、チユキがそんなことを言ってくる。

 と、俺は姿を変更し、裏通りから表通りへと移動し、グローバル伯爵領にある冒険者ギルドへと向かう。

 

 しばらくチユキに案内してもらいながら歩いていくと、目の前に剣と盾をモチーフにしたエンブレムが掲げられた大きな建物があった。


「すっげぇぇぇ! 流石にこれは圧巻だなぁ!」


『ふふふ、マスターが子供みたいにはしゃいでますね! そう、これこそがあの、ファンタジーお決まりの、冒険者ギルドですっ!」


 と、チユキもどことなく、テンションが高めでそんなことを言ってきた。


 俺は冒険者ギルドを見ていたら、居ても立ってもいられなくなって、冒険者ギルドの扉を勢いよく開けた。

 

 と、扉を開けた先には、アニメや漫画で見たような、冒険者ギルドの光景がそこにはあった。


 防具に身を包んだ人たちで溢れ、掲示板のところには依頼らしきものが貼り出され、ギルド内は居酒屋のようにもなっていて、数名の男達が昼間から飲んでいて、ワイワイと騒いでいた。


 と、奥の方に目を向けると、受付嬢らしき綺麗な女性たちが事務作業をしていた。


(やばい! どうしよう! ワクワクが止まらないんだけど……

てか、本当に受付嬢って美人な人が多いんだね)

 

『はいはい、マスターの気持ちはよーく分かりますよー、では、さっそく、登録しに行きましょう!』


 と、俺はまずは冒険者登録を行うべく、受付へと向かう。

 俺は目があった受付嬢に尋ねてみる。


「すみません、冒険者登録をしたいんですけど〜」


「は、は、はい。ぼ、冒険者登録でいいんですね?」


 綺麗というより、可愛いらしい女の子が俺に対応してくれた。

 なぜだか、俺の顔を見た、彼女の顔が湯気が出そうな勢いで、赤くなっているが、今は気にしないことにしよう。


「はい、よろしくお願いしますね!」


「はい! では、こちらの水晶に手をかざしてもらってもいいですか?」

 

「はい、わかりました」


 と、受付嬢に言われたまま、俺は水晶に手をかざす。


 受付嬢が言うには、この水晶はステータスを調べるものではなく、犯罪履歴があるのかどうかを調べる魔道具だということだ。

 犯罪など前世でも犯したことない俺は、何か引っかかるということはなく、


「大丈夫みたいですね、では、登録をするためには銀貨3枚が必要なんですが、大丈夫でしょうか?」


 冒険者登録の際には、ギルドカードの発行手続き料金として、銀貨3枚が必要になるとのことだ。

 この世界で銀貨3枚はおよそ、3000円くらいなので、それほど大した額ではない。

 

 と、ここで貨幣について説明をしておくと、順に、

 鉄貨=1 フェス

 銅貨=10 フェス

大銅貨=100 フェス

 銀貨=1,000 フェス

大銀貨=10,000 フェス

 金貨=100,000 フェス

大金貨=1,000,000 フェス

白金貨=10,000,000 フェス

黒金貨=100,000,000 フェス

虹金貨=1,000,000,000 フェス


 と、となり、1フェス=1円くらいの価値である。


「はい、手持ちはかなりありますので」


 と、俺は大銀貨を1枚払って、お釣りとして

銀貨7枚を受け取った。


「では、次にこの用紙に名前、年齢、および、戦闘タイプや使用する武器。恩恵などの記入をお願いします。もし、字が書けないという場合であれば代筆致しますがどうされますか?」


 と、この世界では日本ほどの識字率はないみたいで、冒険者登録の際に、代筆を頼む人も多いらしい。

 俺はいちよ、貴族の末席にいるものなので、文字の読み書きも問題なくできるので、


「あ、自分で書けますので大丈夫です。それと、戦闘タイプとか恩恵って必ず書かないとダメなんでしょうか?」


 用紙にはプライベートな質問が多数あるので、そのことを聞いたみると、


「書きたくないという場合であれば、未記入で構いません。それと、未記入であっても、冒険者として不利になることはないので、安心してください」


「はい、わかりました。じゃあ、これでお願いします」


 と、俺は名前はケント、年齢18。戦闘タイプは剣と魔法の両方。

 そして、恩恵は魔法剣士として用紙に記入した。


 と、その用紙を見た受付嬢はというと、


「ケントさんっていうんですね! って、す、すごい、ま、ま、魔法剣士なんですか? 私、初めて見ました!」


 と、可愛らしい受付嬢さんが興奮気味で用紙を眺めていた。

 ルイーゼが魔法剣士であったが、魔法剣士という恩恵はこの世界では、珍しくさらに、上位の恩恵であるので、受付嬢が驚くのも無理もない。


 けれど、受付嬢が大げさな態度をとることで、俺も目立ちたくはないので、


「あのー。冒険者登録の続きをしてもらってもいいですか?」


「あ、あ、すみません……受付である、私が興奮してしまって……」


 と、恥ずかしそうな顔を赤くして、申し訳なさそうにしていた。

 そのあとは受付嬢としてスムーズに対応してくれた。


「では、これがケントさんのギルドカードとなります。ギルドカードについて説明いたしましょうか?」


「ある程度は知ってるので、説明は大丈夫ですよ!」


「そ、そうですか…… 最初はFランクからとなりますが、コツコツと依頼をこなして、ランクを上げていってくださいね!」


 と、訊かれたがある程度は俺も分かっているので、結構です、というと心なしか、受付の子がしょんぼりとしていた。


「ところで依頼はどうしたら受けれるんですか?」


「あ! 依頼ですね! はい、私がお教えしましょう!」

 

 と、元気満々に教えてくれるということなので、俺は好意に甘えて、依頼の受け方について聞くことにした。



「まず、依頼は自分の冒険者ランク一つ上まで受けることができます。たとえばDランクの冒険者ならCランクの依頼までは受けることができます。

 そして、依頼の受け方はというと、

 あそこにある掲示板に紙が貼ってあります、あの紙は依頼書と言って、依頼内容や報酬が書かれています。

 その中で、気に入ったものがあれば、それを剥がして、こちらの受付まで持ってきてください。

 それを私たち受付嬢が受理することで、依頼を受けることができます。

 依頼に関しては、早いもの順ですので、いい依頼を希望するなら、朝早く来ることをお勧めします。

 また、掲示板にはゴブリン討伐や薬草採取などの常駐依頼がございますが、それは、受付にに持って来なくとも、いつでも、誰でも、受けることができるので、そこのところは注意してください。

 と、ここまでで依頼に関しては以上になりますが、質問はありますか?」

 

「いえ、かなりわかりやすく説明していただいたので、特に質問はありません。ありがとうございました」


 と、ひとまずのところ俺の冒険者登録については完了した。


「いえいえ、これがわたしの仕事ですからね。ところで、さっそく、依頼の方を受けていかれますか?」


「そうだなぁ。さっそく何か受けてみようかな? 何かいいのあるかな?」


 と、受付嬢はさっそく俺に見合ったものを探してくれて、


「3つ程選んだんですが、こんなのはどうでしょうか? まだ登録したばかりですし、これくらいがちょうどいいと思いますが——」

 


 と、提示された依頼の内容はというと、


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依頼内容:薬草を採取を求む

種類:薬草採取

依頼ランク:F

報酬: 採取回復草、魔力草、万能草の3種、それぞれ1束につき300フェス


備考:状態の良し悪しによって報酬は変わる。


場所:ヴァッカの森付近

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依頼内容:ポチを探して欲しい。

種類:迷子の捜索

依頼ランク:F

報酬:依頼受注で5000フェス。捜索に成功すれば、50000フェスの追加。


備考:どうかわたしの可愛いポチをよろしくお願いします。もし、見つけてくださった場合はこちらの住所まで!


場所:未定

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依頼内容:スライムゼリーの入手。

種類:討伐依頼

依頼ランクF

報酬:スライムゼリーひとつにつき500フェス。


備考:特になし


場所:ヴァッカの森、ヴァッカ平原

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 この3つである。薬草採取はポーション作りの材料となるやつをとにかく集めてから早いもので、迷子の捜索はとりあえず依頼を受けておいて、そのポチちゃんのことを意識してするだけでもいいということだ。

 見つけたら見つけたで、追加報酬がある。

 

 さらに、スライムゼリーというのはスライムを討伐した時に出てくるドロップ品で、生活の中ではあらゆるものに、利用されている。


 科学知識のない、この時代ではスライムゼリーは石鹸の材料であったり、貴婦人の美容液としても利用されているということだ。


 また、何故だかわからないのが、スライムとダンジョンの魔物に限り、ドロップ品が落ちてくるということだ。


「じゃあ、この3つを受けて見てもいいですか?」


「はい、じゃあ、依頼を受理致しますので、ギルドカードを出してもらってもいいですか?」


 と、ギルドカードを受付嬢に渡し、俺は冒険者デビューとして、この3つの依頼を受けることにした。


 依頼を受付嬢に受理してもらった後はさっそく依頼に向かうべく、ヴァッカ平原方面に向かう。

 冒険者ギルドを出ていく際に、受付嬢がキャーキャー騒いでいたのだが、きっと自分のことではないと決めつけて、足早に外へと出ていくのであった。


 って、出たのはいいものの、ヴァッカ平原ってどこにあるの?

 さっきのうちに聞いとけばよかったなぁ……

 と、俺が困っているところ、俺の頼れるパートナーが場所を教えてくれるみたいで、


『やっと、わたしの出番ですねー! そこを右に曲がって、大通りに出てそのまま東の方にまっすぐ行くと、門がありますので、そこを出ればそこからがヴァッカ平原ですよー! そして、ヴァッカ平原の奥に見えるのがヴァッカの森です』

 

(さすが俺の相棒チユキだな! じゃあ、さっそく行くか!)


『……俺のなんて、マスター、私、今ものすごく嬉しいですぅー! 幸せですぅ~!』


 と、脳内で悶えているチユキは放っておいて、俺は東へと向かう。


 チユキの言う通り、進んでいくと大きな門があって、そこに検問のための兵士がいた。

 いちよ、この兵士はグロービル領の兵士であるので、顔は知っているのだが、今の俺の姿は相手にはわからないようで、


「外に出るのか? じゃあ、とりあえず身分証を出してくれるか?」


 と、俺はギルドカードを出して、


「なんだ、冒険者だったのか、身なりがあまりにも綺麗だったからな。よし、じゃあ確認できたから進んでいいぞ。くれぐれも無茶だけはするなよ」


 と、優しい門兵に後押しされながら、門の外に出た。


 と、門を出た先にはそヴァッカ平原が広がっていて、その奥には森のようなものがあった。


「チユキ、あれがヴァッカの森なんだよね?」


『はい、それであってますよ!』


「よし、じゃあ、さっそく冒険を始めようか!」


 と、俺の冒険が始まった。


 と、しばらく平原を歩いていると、今回の依頼の目的でもあり、ファンタジーにおいての大定番である、ヤツがその姿を現した。

 にょろにょろ。ぴょんぴょん。


 と、スライムが不規則に動いていた。

 魔物というのに、俺とエンカウントしても、スライムは俺を襲う様子もなかったのだが、初依頼をこなすたためだと思って、俺はスライムに向かって、米粒サイズのファイアボールをぶつけた。


 この世界では、弱肉強食が当たり前であり、俺という強者の前に、スライムの体が光の粒子状になり、スライムゼリーだけをこの場に残していった。


 よし、これでようやく一つか、と俺はスライムゼリーを無限収納インベントリにしまい、再びスライムを探すべく歩き出した。


 一見、俺には順調そうに見えたのだが———


『マスター!! なに、本当に冒険者見習いみたいなことをしているんですか? せっかくマスターにはすんばらしいチート能力があるというのに、これでは神様もびっくり仰天の、宝の持ち腐れですよ?』


 と、のろのろとスライムを見つけるべく、平原を彷徨い歩いていたら、チユキに怒らてしまった。


(確かにそうだよね…… じゃあ、そういうなら、なんかチユキにはいい案があるのかな?)


『はい、ありますとも! では、提案させていただきますね! まず初めに、マスターは神眼をもっと使ってください。マップ機能がありますので、検索をかければそのもの位置がわかります。さらに、敵対関係にあるものや、マスターに害意を持つものは赤色で表示され、自動的にマーキングがされます。また、味方は青色で、そのほかは、緑色となります。魔物に関しては白色で表示されます。表示を解除すればいらない情報は私の方で遮断します。と、ここまでいいですか?』


 と、チユキが神眼のマップ機能についてを説明してくれた。

 

 と、俺はそのチユキが言った内容から察して、


(なるほどね! 要するにチユキが言いたいことは、このマップ機能をつかって、目的の場所まで、最短で行けってことが言いたいんだね)


 と、俺が自信満々に言うと、


『マスター…………マスターって正真正銘、生粋のおバカさんか何かですか?

それと、人の話は最後まで聞きましょうね! と、お説教はここまでにしておいて、私の提案はここからです。マスターはスライムゼリーの入手には二つの方法があるのを知っていますか?』


(えっ? スライムゼリーって倒す以外にも他に入手方法があるの? だとしたら、さっきのスライムさんには申し訳なしことをしたなぁ…… で、他にどんな方法があるの?)


『それはですねぇ~。スライムをテイムすることです。スライムゼリーはいわば、スライムの体の一部であり、老廃物です。ですので、スライムをテイムした後は定期的にスライムゼリーが手に入るようになります。ですが、スライム入手の方法のうち、この方法は一般的ではありません。それは、まず、この世界に魔物をテイムできるテイマーの恩恵をもった人が少ないこと、と加えて、スライムゼリーに関する情報があまり普及していないことに原因があります』


(なるほどね。でも、なんだか、スライムゼリーが欲しいとかそういう理由で、無駄に殺傷されるスライムたちがかわいそうだよ……

じゃあ、さっそくスライムたちをテイムしに)


『だぁかぁらぁ! 人の話は最後まで来てください! スライムをテイムする方針はいいのですが、マスターは別にここから動かなくても良いです』


(えっ!? 俺が動かなくても、今回の依頼は達成できるっていうこと?)


『そうですよ! さっきまで一生懸命動いてましたが、無駄でしたね。プププ。

まあ、マスターを馬鹿にするのは置いといて、方法について説明しましょう』


 と、チユキによる説明が始まった。

 その案はさすが智慧神だけはあるといった感じで、


・まず、最初に【インポート】という魔法を作る。

 この魔法は空間魔法の応用で任意のものをこちらに引き寄せることができるとのことだ。

 これも神の恩恵のせいで、EX化してしまったため、制限がなくなってしまい、あらゆる次元から、サイズも関係なく取り寄せることができるとのことだ。

 それに付随した形で、【エクスポートEX】というも物が手に入った。

・次に【眷属化】というユニークスキルを作り出した。このスキルはテイムの上位互換であるらしく、テイムした魔物と相互に思念伝達、および感覚共有が可能になるとのことだ。

 これも、神の恩恵のおかげで、EX化を果たし、数にも制限がなくなり、対象にも制限がなくなってしまった。

・そして、今しがた作成したスキル魔法を使って、近くにいるスライムたちをこの場に引き寄せ、眷属化。

・そして、そののち、スライムたちをエクスポートで薬草が群生している場所に送り込み、回収させる。ある程度、回収が済んだら、再びインポートで引き寄せて終了。

 

 と、いった感じだ。


 と、今度こそ説明は終わりみたいで、さっそく俺は作業に取り掛かる。


「よし! まずは神眼のマップ機能を使用して、この周辺にいるスライムをマーキングしてっと。そのあとは、それぞれに【インポート】の魔法をかける」


インポート!


「って、これは多すぎるだろっ!?」


 と、俺が魔法を発動すると、ヴァッカの森、平原全域に魔法が発動してしまったみたいで、数万のスライムが俺のもとに集結した。


 と、俺は大量のスライムたちに埋もれながらも、集まったスライムたちを次々に自分の眷属にしていった。


 ⭐︎⭐︎



 と、俺が数万のスライムに埋もれている時に、俺の近くを通りかかった冒険者パーティのメンバーたちが、


「みんな、あれ見てよ!? スライムに誰か飲み込まれてるよ!!」


 と、弓を持った茶髪の女性が。


「げっ!? なんだあれ、さすがにもう助けに行っても遅いだろ?」


 と、剣を抱えた男が。


「ってか、なんであんなにスライムが集まってるんだ? 普通、あんなことあるのか? って、どう見ても飲み込まれてるんじゃなくて、遊んでいるように見えるんだけど?」


 と、ローブを纏い、眼鏡をつけた男が。


「まぁ、見なかったことにしましょう……きっと、厄介事に巻き込まれてしまいますわ……わたしは何も見ていません……」


 と、同じくローブを纏った、長い耳をした女性が。


 と、俺のことは知らぬ存ぜぬといった感じで、俺の近くを通り過ぎ去っていった。


 ⭐︎⭐︎


「よし、お前ら薬草がある場所に送り込むから、さっそく回収に行ってこい!」


『スラスラァ!(分かったよ! ご主人様! 僕たちに任せて!)』


 と、数万のスライムの眷属化に成功した俺は、再びマップで、薬草の群生地へとスライムを飛ばした。


「ふぅ〜〜。と、こんな感じでいいんだよね?」


『はい、これでかなり効率が良くなりましたね! っと、その間にポチちゃんもインポートして置きましょう』


 と、俺が受けた依頼にはポチちゃんの捜索もあったので、神眼のマップ機能で捜索した。


 と、探して見たところポチちゃんは何故だか、ヴァッカの森にいて、さらに瀕死の状態になっていた。


 俺はすぐさまポチちゃんをインポートした。


 と、インポートしてみると分かったのだが、ポチは犬……では、なかった……


 なんと、ポチは犬ではなく、猫だったのだ。

 なぜ、タマじゃないんだ……


 と、俺はそんなツッコミは置いといて、瀕死のポチに回復魔法を掛けた。

 

 回復魔法を掛けるとみるみる、傷が塞がっていき、なくなっていた前足も何事もなかったように、生え変わり、しばらくして、ポチちゃんが目を覚ました。


 毛についた血は回復魔法ではどうにもならないみたいで、俺はクリーンを掛けて綺麗にしてあげた。


「ミャオ〜〜〜♪」


 自分が助かったのは俺のおかげと本能的にわかったのか、ポチが俺に近寄って頬擦りをしてくる。


 人の家の猫ではあるが、あまりにも可愛らしいので、俺はしばらくはポチと戯れて過ごした。


 と、あまりにも夢中になっていたせいか、送り出したスライムのことを忘れてしまっていた。


 と、慌てて俺はスライムたちをインポートして、引き寄せた。


「ごめんな! お前ら、お疲れ様!」


『スラスラぁ!(ご主人様ぁ! これくらい、なんともないよぉ〜!)』


 と、スライムたちには特に怪我というか、異常状態は見当たらなくて、俺は安堵の息を吐いたのだが—————


『マスター、薬草の群生マップを確認してくださいっ!』


 と、俺はチユキに言われるがまま、恐る恐るマップを確認してみると、


「あれ!? なんでっ!? なんで、さっきまであった薬草が全部なくなってるの?」


 と、さっきまであったはずの薬草は完全になくなってしまっていて、マップには一切、薬草の場所が映らなかった。


「もしかして—————」


『スラスラぁ!(ご主人様ぁ、こんなの楽勝だよぉ〜! また、頼って〜!)』


 スライムたちの方を見てみると、やってやりました! と、言わんばかりに自慢気な様子だった。


「なんてことを……」


『まぁ、今回はマスターが悪いんですよ? スライムたちが一生懸命、働いているのに、ポチちゃんとずっと遊んでばっかいるんですから!』


 確かに俺がスライムたちから目を離したのが悪かった。


 と、けれど、このままでは薬草がこの周辺に一本もないという状態になってしまうので、それは結構のちのち問題になりそうなので、俺はそれを改善すべく、一つの魔法を創り上げた。


【世界創生魔法:薬草発生】


 と、俺は前に、薬草があった場所に、新たに薬草を生やして元通りにした。


 そのあとはこの数万のスライムと一緒に行動するのは不可能があるため、数万のスライムたちに一つになってもらった。


 一つになったスライムは集まっただけで、体積が変わらなかったので、ちっちゃくなーれと念じてあげた。


 そうすると、見事にスライムたちが凝縮されたようで、1体分の大きさになった。


 スライムが回収をしてくれた薬草を無限収納インベントリにしまいこみ、右肩にスライムを、そして、左肩にポチを乗せて、俺は依頼達成を報告すべく、領内に戻っていった。


 と、冒険者ギルドへと途中に、あることに気付いてしまった。


 それは———


 最初から俺の能力を使って、薬草とスライムゼリーを創ればよかったんじゃね!? 


 ということを。



 その考えにチユキはというと、


『まぁまぁ、マスターにしてはなかなかやりますね!』


 と、言っていた。


 無事に依頼を全て終わった俺は、初の依頼達成の報告するために冒険者ギルドへと向かっていくのであった。


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本日の成果


スライムゼリー:35,000 個

  回復草:100,000 束

上級回復草:1,000 束

  魔力草:80,000 束

上級魔力草: 500 束

  万能草:200,000 束

上級万能草:2,000 束

  霊薬草:3 束

 奇跡の花: 5本


ポチの発見、ポチに懐かれる

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