13 試合?

 次の日の練習。


 葵と谷津はいつも通りグラウンドに出ようとするが、それを3年の仁保が引き止める。


「今の時期、二軍はグラウンドに入れねえんだ。悪いな。」


 仁保はそれだけ言い残して、グラウンドへと入って行った。2人はキョトンとして、思わず口から不満が溢れた。



「なあ谷津……なんか俺たち、本格的に邪魔者扱いされてきたな。」


「ああ……グラウンドにも入れねえのかよ。」



「そりゃそうさ。」


 2人の背後から声がした。振り返ってみると、そこには選抜試験で不合格となってしまった2年の久村(ひさむら)が立っていた。



「えっと……。」


「久村だ。お前たちと同じ二軍のな。」


「あ、久村さん。そりゃそうだよって、どういうことですか?」


 谷津が久村の言葉に引っかかり、問いかける。



「毎年、この時期に一軍と二軍が試合をするんだ。大会前、一軍の調整に俺たちを使うらしい。だから二軍はそれまでグラウンドに入れないようにされるんだよ。ちなみに去年は、10-2のスコアで、負けたぜ。」



「……え。」




 すると遅れて、宗佑が走ってやってきた。もちろん、練習する気満々の表情。


「あ、お疲れ様です……って、なに?お前らのその顔……。」


 驚きのあまり固まってしまった葵と谷津の表情を見て、宗佑も思わず固まってしまう。



「グラウンドには入れない?!試合するのに?!どうすんだよ谷津!」


 宗佑は谷津からの説明を一通り聞いたが、どうやら納得はできないようだ。



「俺に言うな。……俺たちだけでなんとかするしかない。二軍が勝てば少しは考え直すさ。そうだろ?葵。」


 谷津は隣にいる葵の表情を見る。葵はそれほど重大だと思っていないかのように、ただグラウンドを眺めていた。


「もともと大したことない自信をさらに無くしてどうするんだよ。」


「頼むぞ、エース。試合はお前にかかってる。」


「お前らマジで勝つつもりでいるのかよ?!」




 急なトラブルの発生で盛り上がる3人に、いつの間にかグラウンドの方から竹山監督が、腰に手を当てながらゆっくりと近づいてきていた。誰もそれに気がつくことがなく、竹山監督が大きく咳払いをすると、3人は当然、声を上げて驚いた。



「……ついにこの時が訪れたようじゃな。」


「……はい?」


「下克上のチャンスじゃ!」


「下克上?」



 息を揃えて不思議そうな顔をする3人に、監督は自信満々な表情で、拳を握りながらこう叫んだ。


「打倒一軍!目指せ甲子園!じゃ。」



 しかし、当の葵たちは監督の熱に付いていけず、相変わらずの困り顔。



「……なあ、ほんとにこの人が監督で大丈夫か……?」


「さあ……。」

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