11 16歳
今日は学校も部活もない休日。なかなか目を覚まさない葵を、1階から起こそうとする声が響く。
「葵ー!そろそろ起きなさーい!!」
「うーん……。」
葵は学校がある日は自力で起きることができるのだが、何も予定がない日はとことん眠る。すでに時計は11時を指していた。
母の呼び声でも起きない葵だったが、携帯の通知音で目を覚ました。
業務連絡だけど、誕生日、おめでとう。
それは渚からの連絡だった。彼女も朝が弱いことを考えると、たった今起きたのだろう。6月2日。今日は葵の16歳の誕生日。
「こういうとこ律儀だよな〜。あとでお礼しなきゃ。」
眠い目を擦り、階段を下りる。すると、リビングから聞き覚えのある声がした。
「よっ。誕生日、おめでとう。」
リビングでは宗佑が、母の作った焼きそばを食べている。しかし特別驚きもしなかった。
「ん。どうも。」
「天気も良いし、行くか?そろそろ」
宗佑に誘われ、葵は出かける支度をした。と言っても、行くところは大体分かっているため、すぐに終わらせることができた。
たどり着いた先は、爽やかな金属音が鳴り響く、広いなにかの施設だった。
「葵、野球部に入る前もここ通ってたんだっけ?」
「ああ。小さい頃よく沙月に連れてこられたからな。その時から俺のお気に入りの場所だ。しかもここ、結構お得なんだぜ。」
2人は、八山(はちやま)バッティングセンターと書かれた看板のある建物に入る。
「おじさん、10回分。」
「おう、葵!久しぶりじゃねえか?」
「ずっと通ってたよ。おじさんがぎっくり腰で休んでたから、久しぶりなんだろ。」
葵はここの経営者とも顔馴染みのようだ。ここは100円で20球のバッティングができる。それを10回分のカードを受け取り、廊下を歩きマシンの置いてある部屋に移動する。葵はいつも、少し多めの回数分のカードを購入するのだ。
「今日は混んでるな。」
この日の八山バッティングセンターは、家族連れや近所の子供たちで賑わっていた。
「そうだな〜。いつものとこ空いてないかも。あ、そういえば葵、渚ちゃんからなんかきた?」
「ああ。あいつからは毎年──」
「どうした?」
葵は宗佑の質問に答えながら、いつも利用する140キロのマシンの所へ入ろうとしたが、今日は珍しく先客がいた。
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