10 選抜試験
──時は流れ、選抜試験当日。
「いいか。ここにいる25名、学年関係なく実力のない者は容赦なく落とすからな。覚悟して挑め。」
「はい!」
監督がそう言い終えた後、キャプテンの伊藤があることに気がついた。
「あの、監督。1年生が3人来てないんですが……。」
キャプテンのその言葉に、少しだけ眉をひそめる監督。
「かまわん。そいつらは二軍だ。」
試験を受けないまま、二軍に落とされるのは納得いかない。新入生への、キャプテンなりの配慮だった。しかし、それも虚しく散ってしまう。
──時を同じくして、河川敷グラウンド。
ひたすらに球を投げ続ける投手。それを受ける捕手。そして打席に立つ打者。
相変わらず、風を切り裂くような、高校1年生とは思えないボールを投げる葵の姿があった。
「なあ、ほんとに試験受けなくていいのかよ?」
その葵に、バットを握りながら宗佑が質問する。
「大丈夫さ。出番はきっと来る!」
「出番ねえ……。」
「よし、52球目っ!」
そうして、また投げ込みを再開する葵。谷津のミットにボールが収まる爽快な音が、グラウンドに響き渡る。
「うーむ、いい音じゃ。」
──そして、七條学園グラウンド。
「これで試験は終了だ。今から合格者を発表する。」
試験が終了し、監督の、合格者。と言う言葉に固唾を飲む部員たち。
「まずは3年生。伊藤、八ツ木、山田、今井、石木、小宮、仁保。全員合格だ。」
「次に2年生。水野、桃崎、川上、佐久間、大久保、石井、川村。」
「最後、1年生。戸田。以上だ。」
試験を受けた6人の1年生のうち、唯一の合格者である戸田が、他の1年生の前で得意げな顔をする。
「それ以外のものは今から二軍だ。全体練習には参加させない。好きにしろ。」
二軍には用がない。その考えを貫く黒川監督とは裏腹に、合格した2年の桃崎が、惜しくも不合格となってしまった他の部員に、励ましの声をかける。
「なあ、そんな落ち込むなって。……また来年、頑張ろうぜ。」
また、そんな光景を気にも留めず、心ない言葉をかける者もいた。
「ま、お前らには才能がないってことだな。」
1年の戸田だ。彼は中学時代、シニアで全国大会出場の経験もある、実力者だった。そんな彼がなぜこの学校に入学してきたのだろうか。それが判明するのは、もう少し先の話である。
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