08 俺らの監督
その老人は、ゆっくりと、眉にしわを寄せながら、一歩一歩近づいてくる。
「お主らの挑戦、ワシにも協力させてもらおう。」
突然現れた老人の、唐突な発言に、思わず振り返る四人。その正体は、意外な人物だった。
「竹山監督……」
竹山監督。宗佑が口にしたその言葉を、葵は知るはずもなかった。老人の耳に届かないように、こっそりと谷津に確認する。
「な、なあなあ、誰だよ、この人。」
「ああ、その二軍の監督だよ。一軍の黒川って監督からは、完全に邪魔者扱いされてるがな。」
「二軍の監督……」
「どうやら、学園側も長年の成績に納得しておらんようでの、今年の夏、結果が出なければ、監督を変えるという話もある。これは、お主らを鍛えるチャンスじゃ。」
そう言って拳を握りしめ、自信に満ち溢れた表情をする竹山監督。しかし、宗佑たちには冷たい目で見られていることに、気がついていないようだ。
「いつもひなたで寝てるじゃないですか……」
「俺たちだけで……やるか。」
渚もやれやれといった表情をしている。走り込みを再開しようとすると、ある異変に気がついた。
「そういえば、先輩方、まだ来ないね。」
宗佑がグラウンドに入ってから、だいぶ時間が経っただろう。普段なら既に姿を表しているはずの上級生が、未だにグラウンドに出ていないことを宗佑は気がついていた。
「ああ……リーグ戦で負けてから、ずっとやる気がないんだ。これじゃあ、実力もクソもないよ。」
その後、いつもより短い練習を終え、葵たちは帰宅する。渚は、まだグラウンドに残っているようだ。
「なかなか来なかったな、先輩。」
葵がそう言うと、宗佑からもつい愚痴が溢れる。
「俺らにはきつく言うくせに。自分たちのことは棚に上げるのかよ。」
「まあまあ。あと一年の我慢だ。その後は、俺らの力を見せてやろうぜ。」
宗佑と谷津と別れ、遠回りした道を戻る。葵の自宅は学校から近いため、皆と帰るときはいつももう少しついて来いよ。と寄り道させられるのだ。
近くの駄菓子屋を通り過ぎ、街灯の少ない路地を歩く。その少し先に、幼い頃よく訪れていた一軒家があった。
「あら、アオちゃん!学校帰り?ちょっと寄っていきな。」
一軒家の前には、買い物の帰りだろうか。野菜などが入った袋を手に下げた、渚の母がいた。
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