07 目指すは甲子園?
「そっかあ。ついに葵が野球部に……またみんなで野球ができるんだなあ……」
空を見上げ、昔の記憶をしみじみと思い起こす宗佑。
「この3人が揃ったってことは……」
「だな。」
「ああ、目指すは甲子園──」
「何が、目指すは甲子園!よ。」
突然背後から頭を叩かれたような感覚があった葵は、その感覚の元を辿る。すると彼の後ろに立っている、ユニフォームを着た渚の姿が目に入った。首にタオルをかけ、右手にはメガホンを持っている。
「簡単そうに言うけど、アンタみたいな怠け者が行けるような所じゃないからね?頼むから、さっちゃんと私に悲しい思いだけはさせないでよ?」
「なにも叩くことはないだろ。それに俺ももう沙月のために頑張るって決めたんだ。悲しませることはしねえよ。」
「あ、そ。でもアンタ、知らないでしょ。」
他に何か問題があるらしい。葵の隣で宗佑と谷津も、腕を組みながら渚の言葉に頷いている。
「知らないって、なにがだよ。」
「……うちの監督、絶対的な実力主義で、能力の高い選手だけを優先して、その他には目もくれないのよ。そのくせに結果は出せないし、最悪なの。」
そう毒づく渚の説明に、宗佑と谷津が捕捉する。
「この部活には一軍と二軍があって、一軍に入れたら練習もさせてもらえるし試合にも出られる。でもその代わり、二軍の扱いは酷くてさ。とくに一年生なんかは、まともにボールも触らせてもらえないんだ。」
「近いうちに、選抜試験がある。そこで結果を出せば一軍に選ばれるんだが──」
「じゃ、俺二軍でいいや。」
一瞬だけ時が止まった。一通り説明し終えた後に、この言葉が出てくるとは、宗佑は予想もしていなかった。そして驚いたように目を丸くしながら、葵に詰め寄る。
「お前、聞いてなかったのか?!まともに練習もできないんじゃ、甲子園なんて夢のまた夢だぞ?!せっかくお前とまた野球ができると思ったのに、ボールも触れないんじゃ何もできねえよ……」
ものすごい勢いで葵を説得しようと試みる宗佑とは裏腹に、葵と谷津は至って冷静だった。
「1年生には特に厳しいんだろ?だったら来年の試験を受ければいいじゃねえか。この一年は、特訓だ。」
「ああ、賛成だ。」
「え。」
葵は自分の考えに賛成する谷津を、黙って見つめていた。
「西川。お前は俺たちの秘密兵器だ。全力投球をするのは、俺の目の前だけ。他の奴らの前では、六割の力でいい。」
「そこまで秘密なのかよ。」
「特訓って……俺らだけでやるのか?」
「お前んちの近く、河川敷のグラウンドがあるだろ?そこ、使えないか?」
「確かにあるけど……本気?」
「……まったく、バカみたい。」
秘密の特訓を計画する3人の横で、呆れたような顔をする少女。そして、近くの倉庫の影では、1人の老人がその姿を覗いていた。
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