04 久しぶり
「おい、お前!」
「え。」
先程まで、驚きのあまり動かなかった谷津が勢いよく駆け寄ってくる。とても距離が近いせいか、葵にはいつもより彼の顔が大きく見えた。
「お前、ふざけてるのか?」
「え?」
「……こんな球投げられんのに、なぜ俺らが頼んでも野球部に入らない。」
「何故って、特にやる理由が無いからだよ。」
「やる理由が無いだと……?舐めてるのか?答えになってないぞ。それ。」
「おい、2人ともやめろって!なあ、教室戻ろうぜ。」
危うく一触即発だった2人を、宗佑が慌てて引き離す。
教室に戻ると、既に昼休みの終了を告げるチャイムが鳴っていた。
(絶対に、お前を入部させるまで諦めないからな。)
授業が始まっても、葵の頭には、帰り際谷津に繰り返し言われた言葉がしぶとく残っていた。
「諦めない。か。」
「ん?なんだ西川。言いたいことがあるなら手をあげて──」
「あ、すみません……。」
学校が終わり、宗佑と谷津は部活へ、葵は自宅へと向かっていった。
「おかえり……なんか元気ないわね。」
母の言葉に返事をする余裕もなく、聞き流してしまった。心配する母を素通りし、部屋に戻ろうとするが──
「あんた、なんかあったの?」
母には全てお見通しだった。特に期待はしていなかったが、葵は少しだけ母に自分の気持ちを話してみることにした。
「母さん、沙月はさ、もし俺がまた野球やったら、喜ぶと思う?」
「そんなの、喜ぶに決まってるわよ。あんたが野球してる姿、隣でいつもすごい嬉しそうに見てたんだから。」
「……ちょっと、外出てくる。」
「あら……暗くなる前に帰ってくるのよ!」
葵は考え事をするときに、いつも家の外に出る。開放感があるところで考え事をすると、よく頭の中がまとまるからだ。そして向かう先はいつも、同じ。
「久しぶり。沙月。」
向かった先は、一ノ瀬家の墓だった。掃除と挨拶を済ませ、その場にしゃがみ込む。
「……俺さ、高校生になったよ。不思議だよな。俺の中の沙月はまだ中学生なのに、俺はもう高校生だぜ。歳とるのって、意外と早いよなあ。」
「…………。」
「……俺、まだ野球……できないんだ。お前がいた時は頑張れたのに、今はもう全然。本当だったら、今頃甲子園目指して練習してたのかな。」
「げっ」
葵が心の中に留めておいた言葉を口にしていると、背後から、何やら聞き覚えのある声がした。その方向に目をやると、そこには制服姿の渚の姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます