第27話 巣箱作り

ヘルホーネットの女王と交渉を済ませた俺は、早速住処に戻ることにした。


「移動はどうする? レントに巣ごと持って移動させようか?」


 巣にいるヘルホーネットに飛んでもらうより、巣ごとレントが運んだ方が楽で安全だと思う。


「その方が私たちとしては助かります」


「じゃあ、そうしよう。ちょっと木から巣を外すけど慌てないでくれ」


 巣を優しく取るように言うと、レントは腕だけを伸ばして高いところにある巣を優しく抱え込んだ。


「君も巣に入っていていいよ」


「はい、ありがとうございます」


 ヘルホーネットの女王が口ごもるような気配を感じたので、俺は自己紹介をしておく。


「俺の名は柱だ。ガイアノートがレント」


「よろしくお願いします、ハシラ様、レント様」


 ヘルホーネットの女王は丁寧にそう言うと、周りに控えていたヘルホーネットと共に巣穴に戻っていった。


「よし、早速戻ってヘルホーネットたちの住処を作ってあげるか」


 蜂蜜を食べられるのが待ち遠しいので、帰り道は木の上に乗って帰る。


 木を操作して伸ばすだけなので非常に楽で、行きの四分の一以下の時間が戻ってくることができた。


 家の近くに戻ってくると、作物の確認をしていたリーディアが声をかけてきた。


「ハシラ、レントが抱えているものって……?」


「ヘルホーネットの巣だぞ」


「はじめまして、この度ハシラ様の庇護下に入ることになりました。どうかよろしくお願いいたします」


「そ、そう。よろしく」


 ヘルホーネットの女王が出てきて挨拶をすると、リーディアは引きつったような表情を浮かべた。


 どうしたんだろう? もしかして、蜂が苦手だったりするのだろうか?


 そうだとしたらマズいので、後でしっかり尋ねておこう。


「この樹海にこのような家や畑があるとは……それにキラープラントもいるのですね」


「この辺りはあんまり魔物が近寄ってこないし、きてもキラープラントやレントが退治してくれるから安全だな。どこか希望する場所はあるか? 世話をするために遠すぎない場所がいいが」


「私たちは雨に弱いので雨避けができる場所がいいです。あと、できれば餌場からそう遠くない場所ですと助かります」


 ふむ、特徴からしてミツバチと同じような環境を好みそうだな。


「雨に関しては巣箱を作るから問題ないな。花についても基本どこでも生やせるだろうし」


「であれば、ハシラ様にお任せいたします」


「わかった」


 だとしたら、キラープラントからそう遠くない場所がいいだろう。


 解体小屋の近くがいいな。あの辺りは、あまり畑を作っていないし、すぐに様子を見に行くことができるし。


 俺とレントは解体小屋近くに移動して、早速巣箱作りだ。


 巣箱は前世にもあった重箱式のものを採用だ。


 地面に石材を敷いてやる。作り自体は非常に簡単なので巣門、重箱、すのこ、蓋を作ってやってそれを重ねる。これだけで完成だ。


「巣箱を用意してみたがどうだ?」


 巣に語り掛けてみると、ヘルホーネットの女王が仲間を連れてゾロゾロと出てくる。


「どちらから入ればいいのでしょう?」


「下の部分に通れるように穴を空けている」


「あ、本当ですね!」


 教えてあげると、ヘルホーネットの女王は仲間と共に巣門から巣箱に入っていく。


 ヘルホーネットの女王だけ大きいので、大きい穴を別に作ってみたが問題なく通れたようで安心した。


「しっかりと屋根があり閉鎖されていますね! これなら雨風も凌げますし、安心です! とても気に入りました!」


 巣箱の中からヘルホーネットの女王の興奮した声が響いてくる。


 どうやら巣箱を気に入ってくれたようだ。


 それならこの場所に設置しても問題ないな。


 ヘルホーネットの場所を定めた俺は、能力を使って周囲に花を咲かせていく。


 色とりどりの花々が咲いて、周囲が花畑になった。


「周りに花を咲かせたぞ」


「ありがとうございます」


 そう声をかけると、ヘルホーネットが巣箱からゾロゾロと出てきて花に群がり始めた。


 花の蜜が豊富なものを選んだからか甘い香りがする。


 アロマセラピーというやつだろうか。こうして花畑にいると、とても気分が落ち着くようだ。


 今まで花を咲かせることにメリットを感じていなかったのでやっていなかったが、これならもっと早く咲かせておけばよかったな。


 何も役に立つ、立たないだけがすべてではない。こうして綺麗な花を眺めるだけでも心が安らぐものだ。今度、家や畑の周りにも咲かせてみよう。


「出入り口になっている巣門の大きさは問題ないか? 渋滞を起こしたりしないか?」


「問題ないようです」


「わかった。問題があったら言ってくれ。調整してみせるから。俺はキラープラントに花の蜜の話を通しておくよ」


「ありがとうございます! そちらにある巣の半分をお使いくださいませ!」


「ありがとう」


 これでヘルホーネットの蜂蜜が手に入った。


 しばらくしたら、こちらの巣箱にも蜂蜜が採れるようになる。


 あちらは快適な住処と安全を提供してもらい、こちらは謝礼として蜜をいただく。まさにwinwinな関係だな。


 巣箱から離れると、俺はそのままキラープラントのところに向かう。


「ヘルホーネットにたまに蜜を採らせてやってもいいか?」


 俺がそう尋ねると、キラープラントはこくりと頷いた。


「それとヘルホーネットを守るために、インセクトキラーを配置しておきたい」


 そう言うと、キラープラントは口から小さな種を吐き出してくれたので、礼を言って花畑に戻る。


 花畑の近くにインセクトキラーの種を植えて、水をやって成長促進をかける。


 すると、みるみるうちにインセクトキラーが生えてきたので、ヘルホーネットは食べないように厳命して、花畑を守るように命じた。


 これでヘルホーネットが他の小さな虫にちょっかいをかけられることもないだろう。


「おお、なんか綺麗な花がいっぱいだな」


「綺麗な花畑ね。これもハシラが生やしたのね」


 ぬかりなく準備を終えて満足していると、土を耕していたカーミラと遠巻きに見ていたリーディアが近づいてきた。


 リーディアはともかく、カーミラは無造作に入って荒らしかねない。


「カーミラ、ここでは蜂蜜をもらうためにヘルホーネットの世話をする場所だから、無暗に荒らしたりしないようにな。ほら、蜂蜜だ」


「おお、美味いのだ! これはヘルホーネットに頑張ってもらわないとな!」


 蜂蜜を食べさせてあげると、カーミラはこの場所の重要さを理解してくれたようだ。


「私にもちょうだい」


「はいよ」


 ヘルホーネットを見て顔を引きつらせていたが、蜂蜜は食べたいらしい。


 リーディアにも分けて、自分の分も確保して食べる。


 口の中でねっとりとした蜜がバターのように溶けて広がる。


 まるで生キャラメルでも食べているんじゃないかと思うくらい濃厚な甘さだ。


 すごく、美味しい。


「初めて食べたけど想像以上の味ね」


「リーディアは食べたことがなかったのか?」


「だって、あの超危険なヘルホーネットよ? お腹にある毒針なんか私たちを何十回と殺せるほどの致死量があるんだから」


「……出会った時はすぐに女王が出てきて降参してきたんだが……」


「逆に格下の敵には容赦がないのよ」


 どこか遠い目をしながら語るリーディア。


 大丈夫。ヘルホーネットとリーディアの力量差はわからないけど、今は敵じゃなくて仲間だから。襲い掛かられたりはしないさ。


 ひとまず、この蜂蜜を使って甘いジャムでも作ろうじゃないか。




ヘルホーネットの蜂蜜のお陰でとても美味しいジャムが作れた。


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