第18話 魔石を養分に
あれから一週間。リーディアが毎日魔法を見せてくれたお陰で、俺は魔力を感じ取ることができるようになっていた。
魔力という力の存在がわかると、自分の体内を循環している魔力のことも感じ取ることができるようになる。
そうなると自分の魔力を動かして操作することが次のステップらしい。
最初は指の先に集め、次に指一本を覆うように。
それができると片腕、両腕、片足、両足、全身と移行していくらしい。
俺は最初の段階にある指先に魔力を集めるところだ。一度感覚として掴めば、やりやすくなるとリーディアは言っているが中々に難しい。
だけど、時間ならばたくさんあるので隙を見つけてゆっくり練習していこうと思う。
もし、魔法が使えるになったら何をしたいだろう。
最初に使えるのは土魔法な気がする。一番適性があるみたいだし。
土魔法で畑を耕すとか? でも、神具を鍬にして耕した方が早そうではあるな。
土魔法で防壁を作るとか? 別に木製の壁でも困りはしない。
あれ? 意外と土魔法でやれることが少ないような。もしかして、俺ってそこまで土魔法を必要としていないんじゃ?
いや、他にも水魔法や風魔法だってあるんだ。
水魔法があれば、いつでも水を飲むことができるしとても便利だ。
悲観的なことを考えずにこのまま邁進することにしよう。
いつものように畑の世話をしていると、樹海からレントが戻ってきた。
その背中には狩ったばかりなのであろう。大きなイノシシを引きずっていた。
中々の大きさでレントでも背負うことは難しかったようだ。
「お帰り、レント。今日は大きめの獲物だね」
リーディアと一緒に近づいていくと、レントが獲物を見せてくれた。
「……デビルファングね」
「へー、そんな名前なんだ。確かに悪魔の顔のような模様をしてるから納得だな」
樹海の中でもたまに見かける大型のイノシシだ。正面から見ると、まるで悪魔の顔のごとく恐ろしい模様をしているので印象に残っている。
俺も何度か狩ったことがある。拘束するために生やした木を壊してくるので中々にパワーのある魔物だ。手足が短いので拘束の仕方を工夫すれば、対処は簡単だけど。
「かなり強い魔物なんだけど……」
「レントが殴れば一発だ」
「そうみたいね」
デビルファングの折れた牙と陥没した横顔を見れば、どうやって狩ったかは一目瞭然だろう。
俺とレントからすれば、当然の獲物なのであるが顔を青くしているリーディアからすれば違うのかもしれないな。
「ご苦労様、いつものように解体を頼むよ」
レントはこくりと頷くと、デビルファングを引きずって解体小屋へと入っていった。
それを見届けた俺たちは畑作業を再開。
俺はそれぞれの畑に成長促進をかけて回りながら、植物操作で雑草を引き抜いておく。
リーディアは作物の成長具合の確認と、枝葉の裏なんかを覗いて虫がいたり、病気になっていたりしないかの確認だ。
インセクトキラーを植えたお陰で虫の被害は格段に減っているが、幼虫や卵なんかがくっついている場合もあるからな。念のために確認するに越したことはない。
インセクトキラー自身もそれがわかっているのか、最近は蔓を伸ばして枝葉のチェックもしてくれていた。非常に仕事熱心でこちらとしても助かる。
畑の世話をしていると、解体を終えたレントが端材をキラープラントに食べさせる。
解体で出てしまうものには当然捨てるべきものもあるからな。
しかし、そんなものでもキラープラントにとってはご馳走らしく、喜んで食べている様子だった。特に強い魔物の肉は言い養分になるらしく、俺が成長促進をかけているお陰かかなりの大きさになっていた。
元の大きさを取り戻すのもそう時間がかからないだろうな。
キラープラントへの餌やりを終えると、レントが紫色に輝く石を渡してくる。
魔物を解体すると、必ず出てくる綺麗な石。以前ならそういう認識だったが、魔力を知覚できるようになった今なら違うとわかる。
ここにはきちんとした知恵者もにることだし聞いてみよう。
「なあ、リーディア。この紫色の石って魔力が宿っているよな?」
「ええ、そうよ。それは魔石といって魔物の魔力がこもっているわ。武具の加工や魔道具の材料として街では重宝されているの」
やはり、そうだったか。過去に解体した魔物の魔石も捨てないでとっておいてよかった。
「強い魔物ほど強い魔力がこもっているから高値で売れるわね。ハシラが街に行くつもりがあるかどうかは知らないけど、念のためにとっておいた方がいいわよ」
「わかった」
樹海での自給自足の生活が気に入っているので、今のところ街に行くつもりはない。
だけど、樹海の生活ではどうしても手に入らないものもあるので、交易はしたいと思っている。
香辛料とか服とか、作物の苗とかいろいろと足りなくて不便なものも多いしな。
そういう時に備えて、魔石をとっておくのが賢い選択であろう。
だが、俺の知識の中には魔石に別の使い道もあるとわかっていた。
デビルファングの魔石を持って俺はグラベリンゴ畑に向かう。
「魔石を持ってどうしたの?」
訝しみながらついてくるリーディアの目の前で俺は魔石を落とした。
すると、魔石が土の中に沈んでいく。そう、まるで土が水を吸収するように。
「土が魔石を呑み込んだ!?」
驚くリーディアをよそに作物が翡翠色の光を帯びる。まるで成長促進をかけたような輝きだ。
そのまま見守っていると枝葉がグンと伸びた。
小さく実っていたものが二回りほど目に見える勢いで大きくなる。
「……作物が大きくなった」
「どうやら魔石はいい養分になるみたいだ」
俺の力は作物に手を加えて成長をより促すもの。やり過ぎれば成長するために地面や周囲から栄養を吸い上げる結果になる。
しかし、こちらは魔石を養分としているためにそれらは起こらない。完全に魔石を使い切ることになるが、成長促進よりも安全に成長を手助けできるみたいだ。
「前から思っていたけどハシラの畑っておかしいわよね。魔石が養分になるなんて聞いたことないわ」
「普通の畑ではできないのか?」
「できないわよ」
どうやら俺が育てた畑でしかできないらしい。一般的な畑では魔石を撒いても何の効果もないようだ。
「どうせなら他の魔石も試してみよう」
家の中には他の魔石もある。他の魔石だとどのような効果を及ぼすのか確認がしたい。
俺は急いで家に戻って、魔石を保管している物置に向かう。
強そうな魔物や弱そうな魔物と色々と倒したものがあるため魔石の大きさや質も様々だ。
それらから適当にいくつかを見繕って、他のグラベリンゴやピンクチェリーの畑に撒いてみる。
「どうやら魔石の質によって成長する効果の大きさ、及ぼせる範囲が変わるみたいね」
リーディアの言う通り、魔石の質によって変わるみたいだ。
デビルファングのような質のいい魔石は目を見張る効果を及ぼすが、平均的な魔石だと成長促進に及びもしなかった。小型の質の悪い魔石だと変わったことすらわからない。
ちなみに小さな魔石はインセクトプラントにあげると喜ばれた。
「質のいい魔石は作物に使って、それ以外は軽い肥料代わりかインセクトプラントたちの餌にするのがいいだろうな」
「そうね。育つのに時間がかかる作物や手間のかかる作物に使ってあげるのが効率的かもね」
グラベリンゴやピンクチェリーといった果物は成長促進を使っても年単位の時間がかかる。
それらの時間を短縮するために使ってやるのが一番いいだろう。あとは緊急時に収穫したい作物のためにとっておくことだな。
換金のために保管しておくしかないと思われた魔石だったが、思わぬ使い道ができたのが収穫だった。
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