第17話 畑の番人
キラープラントの種を手に入れた俺は畑に戻って植えることにした。
畑の傍の土を軽く耕して、そこに種を植えて水をやる。
そして、成長促進の力を使うと植えたところからニョキニョキと葉っぱが生えてきた。
中央には小さな丸い顔がありパクパクと閉じたり開いたりしている。
「キラープラントがもう生えたのね」
あっという間に生えてきたキラープラントを覗き込んでリーディアが驚く。
「さっき出会った俺たちのことがわかるか?」
尋ねてみると、キラープラントは丸い顔をコクリと頷かせた。
どうやら種子になって育っても以前の記憶は残っているようだ。特に俺たちに攻撃を仕掛けようとする意志もなく大人しくしている。
「俺は柱で隣にいるのがハイエルフのリーディア。そして、後ろにいるのがレントだ。君には俺たちが育てている畑を守ってもらいたい。獣や魔物なんかが近寄ってきたら遠慮なく食べてくれ。その代わり君のお世話は俺たちがやるから」
自己紹介とここでの役目なんかを説明すると、キラープラントはしっかりと頷いてくれた。
「まあ、その前に今は一刻も早く成長する必要があるけどな」
「私としてはこれくらいの大きさの方が可愛いと思うけどね」
キラープラントの頭を指で撫でながら言うリーディア。
大きい時は蔓に棘が生えていて毒々しかったけど、小さい時は可愛いものだな。
まるで、ちょっとしたペットができたようだ。
「小さな虫なんかを退治してくれるために、こういう小さな個体を配置してもいいかもしれないな」
作物の敵ともいえる存在。そいつらはどこからともなくやってきて実や葉っぱを食べていく。農家の敵だ。
気が付く度に排除しているが、少し時間が経過したらいつの間にかまたやってきているんだよな。いくつか犠牲になった作物もあるので、なんとか対処したい問題だ。
なんて考えていると、キラープラントが小さな種を吐き出した。
「……これは?」
拾い上げてみるととても小さな種だ。
「もしかして、それを植えれば虫を食べてくれるキラープラントが生えるんじゃない?」
リーディアの言葉に同意するようにキラープラントは頷いた。
「おお、本当か! それは助かる!」
「早速、植えてみることにしましょう」
キラープラントに貰った種をグラベリンゴ、ピンクチェリーを植えている果実畑の傍に。
さらにモチモチ畑の傍に植えて、同じように水をかけて成長促進をかけてみる。
すると、やや小ぶりキラープラントが生えてきた。
全体的な大きさや葉っぱを見ると、母体となっているキラープラントより遥かに小さい。それに色合いも淡い感じだ。
「なんだかキラープラントとちょっと違うわね?」
【インセクトキラー】
キラープラントが生み出した、昆虫を捕食することに特化した特別種。
大きな動物を捕食することはできないが、昆虫が好む匂いを放出させておびき寄せることができる。
「インセクトキラー……昆虫を捕食することに特化した特別種だって」
「稀にそういった魔物が出現するのは知っているけど、植物型の魔物では初めて見たわ」
リーディアが感心していると、インセクトキラーに何匹もの虫が寄ってきた。
葉っぱの裏にくっついて穴をあける厄介な虫や、卵を産み付けてくる羽根虫だ。
それらはインセクトキラーの花弁に吸い寄せられ、そして丸呑みにされていた。
他にも宙を舞っている小さな虫も蔓を伸ばして捕獲して食べている。
「おお、こいつは頼もしいな」
「この子がいれば、作物が虫にやられる心配がないわね」
キラープラントも大きくなれば獣や魔物を食べてくれるだろうし、畑の防衛力がグンと上がる。より作物を楽に育てることができるので嬉しいことだ。
◆
「あれ? リーディア、囲炉裏の火を消した?」
夕方になって種火で火を起こそうとしたら、消えていることに気付いた。
今朝使った分を残しておいて再利用しようと思っていたのだが消えてしまっている。
火が苦手なレントは近づきもしないので、手を加えた人物はリーディアということになる。
「ええ、種火が残っていたから消したわ」
尋ねてみると、種火を消していたのはリーディアだった。
「夕食の時にすぐ付けられるようにわざと残しておいたから、次からは消さないでね」
「わかったけど、別に魔法ですぐにつけられるんだから消しておいた方が安全じゃない?」
「いや、俺は魔法なんて使えないんだけど……」
当然のように言われてしまって俺は困る。
「ええ? あれだけすごい能力が使えるのに魔法が使えないの?」
「うん。というか、使おうと思ったこともない」
逆にリーディアは俺が魔法をまったく使えないことに驚いているようだった。
「勿体ないわね。使えたら便利なのに」
「そもそも俺に適性はあるのか?」
「魔力量や才能に左右されるけど練習さえすれば大概の人は使えるはずよ。ハシラさえ、よかったら調べてあげるわ」
エルフィーラから十分な加護を貰っているとはいえ、魔法というファンタジックな力に憧れはある。
火をつけたり、水を出したり、風を起こしたりと使えたら便利そうなので、是非とも使えるようになりたい。
「頼む」
「じゃあ、少し手を借りるわね」
俺がそう言うと、リーディアは俺の手を握って目を瞑った。
リーディアの柔らかい手に包まれて、鼓動が早くなるのを感じる。
でも、この感触は前世の妹たちを呼び起こして懐かしくもある。
しばらくジーッとしているとリーディアは目を開いて、手を離した。
「ハシラに適性があるのは土魔法、水魔法、風魔法ね!」
「おお! 他の魔法はどうなんだ?」
「光魔法、闇魔法、火魔法があるんだけどそっちは適性がないみたい。特に火魔法は最悪の相性ね。どうあがいても使えないわ」
「そ、そうか。火魔法は使えないのか」
気軽に火を起こせるから使えたら便利だと思っていたのだが、俺には使えないらしい。
普通は苦手な属性魔法でも努力すれば、小さな現象くらいは起こせるようだが俺にはそれすらも不可能らしい。ここまで極端に使えない人は初めてだとリーディアに苦笑された。
豊穣を司る植物神の加護があるからだろうな。
植物にとって火は天敵だし、相容れないものなので身体が受け付けないのだろうな。
これに関してはそういう体質だと諦めることにしよう。
「魔法を使うにはどうすればいいんだ?」
「まずは体内にある魔力を知覚することからね。心臓は血液だけじゃなく魔力も身体中に巡らせているの。わかる?」
リーディアに言われて自分の体内に意識を巡らせてみる。
「全然わからない」
「まあ、それも当然ね。まずは私の魔法を見ることから始めましょう。魔法の発動の際には魔力が活発化するから、それを感じられるように」
「わかった」
俺が頷くと、リーディアはブツブツと何かを唱える。
すると、俺の身体を包み込むように風が吹いた。
風通しがよい家の中とはいえ、このように継続的に風が吹くことはない。これはリーディアが起こした現象なのだろう。
「どう? 何か感じる?」
「柔らかい風が肌を撫でるようで心地がいい」
「……私は扇ぎ係じゃないんだけど」
そうは言っても風があるとしか感じられない。魔力なんてファンタジックな力、いきなり感じろと言われても無理だ。
「じゃあ、土魔法ならどうかしら?」
リーディアがそう言って、手の平に土の塊を作り出す。
「んん? 今、なんとも言えない感覚があった気がする」
言葉にしがたいが自分の中で何かを感じとることができた。フワッとした曖昧な感覚だが。
「やっぱり、土魔法は突出して優れているから感覚もしやすいのね。わかったわ。土魔法をドンドン使っていくからその感覚を養ってちょうだい」
「わかった」
その日は、日が落ちるまでリーディアに土魔法を使ってもらって魔力の感覚を養った。
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