第14話 畑に案内
「早速、家や周りを案内しようと思うけど体調は大丈夫か?」
「怪我ならハシラが治してくれたから問題ないわ。あまり見かけない建築様式だから気になっていたの」
体調が優れないなら案内は明日にしようかと思ったが、少し歩き回る程度なら問題ないようだ。
リーディアはどこかソワソワした様子で部屋の中を眺めている。
この家は前世の祖父母の家を模して作ったものだ。こちらの世界では珍しく感じてしまうのかもしれない。
俺はリーディアを連れて家の中を案内して回る。
囲炉裏部屋、台所、寝室、押し入れなどなど。
日本風建築はリーディアにとって珍しく、ただの部屋だというのに物珍しそうに見て回っていた。
「樹海の中だけどかなりしっかりした家を作っていて感心したわ。もしかして、ハシラは建築士なの?」
「いや、そういうわけじゃない。ただ自分の能力で作っただけだ」
「どういうこと?」
きょとんと首を傾げるリーディア。
こういう時は口で説明するよりも、実際にやってみせた方が早い。
俺は杖を振って、庭先に小屋を建ててみせる。
「ひゃっ! 地面から木が生えてきて勝手に家にっ!」
「こんな感じですぐに家を作ることができるんだ。他にも木を生やしたり、動かしたりすることもできる」
「……ハシラって、精霊のガイアノートを従えているし、もしかして大精霊とか……ですか?」
リーディアがおそるおそると言った風に尋ねてくる。
レントの存在のせいで、俺までファンタジー種族だと思われてしまった。
「いや、ただの人間だよ。というか、どうしてそこまで畏まってるんだ?」
「私たちエルフは精霊の子孫だから、そういう存在を敬うのは当然よ」
「そうか。でも、俺は精霊でも大精霊でもないから普通にしていてくれ。それとレントに対しても」
「わ、わかったわ」
素直に頷きつつも後ろを歩いているレントを気にしているリーディア。
いきなり慣れることは難しいだろうが、これから一緒に住むのだ。少しでもリラックスして過ごせるようになってほしいな。
「じゃあ、次は家の周りを見ようか」
そう言って俺はリーディアを連れ出して外に出る。
「家の周りに畑があるわ!」
近くに畑があるとは思わなかったのか、リーディアが驚きの声を上げながら畑を見つめる。
「樹海で採れた作物の種を植えたり、移植したりして育てているんだ」
「こんなところでよくここまで育てたわね。見た事のない作物がいっぱいあるわ」
「畑に入って見てみるか?」
「見る!」
作物が気になっていたのだろう、提案すると目を輝かせて頷いた。
こんな樹海だとわかっていながらやってくるほど好奇心が旺盛なのだ。未知の作物にすぐさま飛びついた。
「この丸く膨らんだやつはなにかしら?」
「モチモチの実だよ。モッチリとしていて食べるとお腹が膨らむから主食にしているよ」
俺がそう言った瞬間、リーディアのお腹がぐうと音が聞こえた。
「よかったら食べるか?」
「……ええ、お願い」
顔を赤くしているリーディアが可愛らしかったが、あまり笑ってやると可哀想なので意地悪は言わないでおく。
怪我をする前にそれほど食べていなかったのだろう。気絶している時間も含めれば、結構な時間が経過しているはずだし。
「包まれている皮をめくってやれば、白い実が出てくる」
「あっ、本当ね。弾力があって柔らかいわ」
皮をめくったリーディアは身を指で軽く突いて、そのまま手で千切って食べた。
「モッチリしてて美味しい! 上品な甘みがあって噛めば噛むほど甘さが出てくる! 大きな街で売っているパンよりも、こっちの方が好きだわ!」
リーディアがとてもいい笑顔で感想を言う。
どうやらモチモチの実を気に入ってくれたようだ。
リーディアが美味しそうに食べているのを見ると、こっちもお腹が空いてきた。
地味に看病で昼食を食べ損ねてしまったからな。
俺も同じように皮を剥いて食べる。
最近は軽く焼いて食べることが多かったが、そのまま食べても十分に美味しいな。
あっ、そうだ。畑で採取したものが自生しているよりも美味しいのか、リーディアの意見が聞きたいな。自分だけの舌じゃ判断に自信がつかないし。
「リーディア。他に育てている作物で食べたことがあるものはあるか?」
「山菜畑にあったウルイは食べたことがあるわ」
「それも食べてみてくれないか? 美味しく育っているか確認してほしくて」
「任せて」
そう言うと、リーディアは笑顔で味見役を引き受けてくれた。
収穫したウルイを軽く水で洗ってリーディアに食べてもらう。
ウルイを齧る瑞々しい音が鳴る。
「なにこれ! 私が前に食べたものよりも断然美味しいわ!」
収穫したウルイを食べたリーディアの反応は劇的だった。
この世界の住人である彼女までそういうのだから、ここで育てた作物はやはり味がよくなるのだろう。
「そうか。美味しく育っているようでよかった」
「きっとハシラの育て方がいいのね」
普通に世話をして、成長を促進させているだけに過ぎないのでそのように褒められる照れくさい。美味しく育てられるように籠をくれたエルフィーラには本当に感謝だ。
「ねえ、このモチモチしたやつもう一個食べてもいい?」
「大きくなっているやつならいくらでも食べてもいいよ」
遠慮がちに聞いてくるリーディアの言葉を聞いて、俺はクスリと笑うのだった。
◆
リーディアがやってきた翌朝。
日の出とともに目を覚ました俺は、朝の日課である弓矢をやることにした。
季節は春くらいであるが日の出すぐだとまだ少し気温が低い。
でも、俺はこのひんやりとした空気が好きだ。
ゆっくりと深呼吸をすると冷えた空気が体内に取り込まれてスッキリする。
自然が豊かで空気が澄んでいるというのもあるのだろうな。
弓矢を背負うと、レントを連れて外にある射撃場に向かう。
矢を射かけるためだけに木々を抜いて作った、だだっ広い場所だ。
的から二十メートル離れた地点に陣取ると、弓を構えて矢を番える。
弦をしっかりと引っ張りキリキリと音を立てる中、慎重に狙いを定めて放つ。
放たれた矢はしっかりと飛んで的の右端に当たった。
静かな樹海の中、スコッと的に突き刺さる音が響き渡る。それがとても気持ちいい。
「おお、一回目から的に当たるなんて今日は調子がいいな」
真ん中に当たってもいないのに何を言っているのかと思っているかもしれないが、俺からすれば的に当たらないことがデフォルトなのだ。いきなり的に当たることは十分に成功の部類に入る。
好調な出だしに気を良くした俺は、速やかに次の矢を番える。
的の中心に近づけるように狙って矢を撃った。
すると、今度は的に近付くどころか遠ざかって地面に突き刺さった。
今日の感覚なら二連続で的に当てることができるかと思ったが、そう思い通りにはいかないようだ。
まあ、当たろうと当たらまいと的を狙って矢を射かけるだけで楽しいものだ。
ちなみに俺とは違う的に射かけているレントは、矢を全部真ん中に当てていた。
これだけ命中率に差があると、もはや競うような気は失せた。
俺は俺のペースで撃って楽しめばそれでいいのだ。
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