第10話 収穫

畑を耕しては樹海で採れた山菜、木の実、薬草、果物なんかを畑に移植する。


 そして、畑の世話をしては食料となるものを採取し、適度に狩りをする。


 そういった生活を一か月程度続けていると、一部の作物が収穫できるくらいに育った。


「いくつか収穫しようか」


 相棒であるレントを連れて、俺は作物を収穫することにした。


 グラベリンゴやピンクチェリーの方はさすがにまだ実をつけてはいないが、かなりの大きさになっており支柱を作ったほどだ。


 これからどんどん枝葉を広げて大きくなっていくことだろう。実をつけるのが非常に楽しみだ。


 ウド、ウルイ、フキ、コゴミ、ゼンマイなどが生えている山菜エリアは非常に生い茂っている。


 通常であれば最初の一年程度は株を増やすことだけに専念するものであるが、加護による成長促進によってあっという間に株を増やしていた。


 これだけの数があれば、採取しても問題はない。


 レントと一緒に山菜を収穫していく。


 ゼンマイにあるひと際背の高い胞子葉は、次の成長のために残して、それ以外のものを根元から指で折りとって籠に入れる。


 毎日成長を見守っていたものを収穫するのは不思議な気持ちだな。


 ようやく食べられる達成感と、育てたものを摘み取ることになってしまう罪悪感。


 採取とは違った感慨深い気持ちにさせられる。


 俺の横ではレントも収穫を手伝ってくれていた。


 大きな手を伸ばして、小さなゼンマイを摘み取っていく姿は中々にシュールだ。


 最初は小さなものを摘まんだりするのが苦手だったレントであるが、畑の世話をするにつれて慣れてきたのか最近はお手の物だ。


 他にもウド、ウルイ、フキ、コゴミなんかを食べられる分だけ採取していく。


 勿論、全部摘み取るようなことはしない。きちんと次に採取できるように残してある。


 山菜の収穫が終わると、次にオリゴの実とモチモチの実の収穫に移る。


 こちらは頻繁に料理で使ったり食べたりするせいか、山菜エリアに比べるとかなり拡張されている。


 特にモチモチの実は俺の主食となっているので、見つける度に移植をしたり、種を植えたりしているので今では一番広くなっている。


「オリゴの実もいい大きさだな」


 淡い緑色の実がたくさん生っていてとても鮮やかだ。


 オリゴオイルは炒め物をする時にかかせないし、モチモチの実を食べる時につけたり、山菜を素揚げにして食べたりと非常に便利で重宝している。


 収穫できるようになっているのは非常にありがたかった。


 十分な大きさになっているのを見極めて収穫していく。


 オリゴの実を収穫すると、次はモチモチの実だ。


 広大なモチモチ畑ではいくつもの実が膨れ上がっていた。


 こちらはもう主食だけあって毎日のようにお世話になっている。


 これを食べると食べていないのとでは腹の持ちようがやはり違うのだ。


 試しに近くにあるものの皮をめくってみると、中には大きなモチの実が詰まっていた。


 手でとって摘まんでみると、もっちりと伸びて千切れた。


「……うん? 採取したものよりも甘みが強い?」


 試しに食べてみると、樹海で採取して食べているものよりも甘味が強い気がした。


 採取したものを毎日のように食べていたので味の見極めについては自信がある。


 もう一口食べてみるも、やはり普段食べているものよりも美味しく感じられた。


「俺が育てた作物は自然にあるものよりも美味しくなるのか?」


 気になったので採取したウルイを軽く水洗いして齧ってみる。


 ツルツル、シャキッとした食感と長ネギに似たほんのりとした苦み。


 それらは自生しているものよりも濃厚で新鮮に感じられた。


「やっぱり育てたものの方が美味しいな」


 恐らくこれも加護による力だろう。


 豊穣を司る神は育てた作物にすら補正をくれるようだ。


「そうだとわかると増々と美味しいものは、ここで育てたくなるな」


 俺とレントが面倒を見切れる量を見極めて、新しく食材を見つけても移植していなかったり、育てたりしていないものもある。


 それらは何かの用事の際についでとして採取して食べたりしていたのだが、このように味にまで補正がつくのであれば育てることも考えないといけないな。


「最近は生活基盤も整ってきてゆとりもできてきたことだし畑を拡張しようかな」


 ここにあるものを収穫して食べればいいので、わざわざ採取に向かう必要も減ることだ。


 レント以外にも木造ゴーレムを増やすこともできるし検討してみてもいいかもしれないな。




 ◆




 食べ物の収穫を終えた俺は、薬草畑でドクダミ、イタンドリン、シャッカク、オトキリクサなどの薬草を摘む。


 こちらはそのまますり潰して使えるものもあるが、乾燥させてからじゃないと使えないものもあるので、それらの処理をこなしていく。


 これらの手順については加護のお陰でしっかりと知識に入っているので簡単だ。


 今日は天日干しをするだけで、本格的なものは作れないものも多いが、健康なうちに作っておくのがいいだろう。


 簡単なものだとお湯に浮かべるだけで身体にいい物もあり、うがい薬になって風邪の予防にもなる、


 健康的な生活のために暇な時間を見つけて作っていくことにしよう。


 薬草の採取が終わると時間が余ってしまった。


 食べ物は収穫したものがあるので採取に向かう必要もないし、水もレントが今朝汲んできてくれている。狩ってきたイノシシも燻製して寝かせているところだ。


「せっかくだから自分の力の練習でもするか」


 この世界にやってきて一か月以上経過するが、未だに自分の力の把握はできていない。


 自衛をするためにも、生活を豊かにするためにもカギとなる能力のことはしっかりと把握しておいた方がいいだろうな。


 まず気になるのが俺はどのくらいの大きさまで木を生やすことができるのかだ。


 これまでの経験でこの樹海にある大きな木と同じくらいまで生やせることはわかっている。だけど、それ以上大きなものは生やしたことがなかった。


 気になったので十分に広い場所に移動し、杖を振るって生やしてみる。


 ドンドン大きくなれと念じると、地面から隆起した木はぐんぐんと天高く伸びていく。


 樹海にある木の大きさを越えても止まることは知らず枝葉を広げていく。


 もはや何十メートルといった大きさを軽々と超えて、空を覆うようなっている。


「うわっ、やばいやばい」


 根も太くなって広範囲に広がってきたので、さすがに中断すると成長は止まった。


 結構な大きさの木を生やしたが、特に疲労感などはない。


 あのまま放っておけばまだまだ大きくなっていただろうな。念のために広い場所に移動してよかった。


 家の前とかで生やしていたら畑に影響がありそうだったし、日陰になっていただろうしな。


 とりあえず百メートルを超える巨大な木だって生やせることはわかった。


 それを小さくしたり大きくすることも造作もない。


 巨大な木が一転して小さくなったり、元の大きさにまで戻ったりする。


 植物が急成長するシーンを早送りで見たり、巻き戻しで見ているような感覚だ。


「にしてもすごい勢いで生えたな」


 俺が生やすと植物がすごい勢いで地面から生える。


 この勢いを利用したら移動することができないだろうか。


 試しに自分の足元に生やしてみると、木に身体を押し上げられた。


「うわわっ!」


 しかし、その勢いが想像以上に強くて木から落ちそうになるが、レントがそれを支えてくれた。


 危ない。あのまま落ちていたら怪我をするところだった。


「ありがとう、レント」


 レントに身体を押し上げてもらうと何とか木の上で立つことができた。


 遅れてレントもジャンプして後ろに乗ってくる。


 大きい身体をしているのに意外と機敏な動きをする。それにバランス能力もいい。


 体勢が安定したところで木を延ばしてみると、上に乗っていた俺とレントも進んでいく。


「おお、すごいすごい!」


 木の伸びる方向を曲げたりしてみると、俺たちを乗せたままぐにゃりと曲がることができる。


 急に曲げすぎると慣性で振り落とされそうになるが、後ろにいたレントにまた支えてもらった。


 ……お前ってやつは本当に気が利くな。


 慣性については急カーブをするときに体重移動をするか蔓を身体に巻き付けて対策をすると落ちる心配はなくなった。


 木々が乱立する樹海の中を俺たちは自由自在に移動していく。


 走るよりも何倍も速い。まるで大きな蛇の上にでも乗っているかのようだ。


 この移動法を使えば移動時間が短縮できるし、いざという時は逃げることもできそうだな。


 この日は一日中、能力の練習をして過ごした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る