11
入学して約1ヶ月が経った頃。
寮生活に完全に慣れてきていた私は、突然学部長に呼び出された。
ここの学部長には、まだ会ったことはない。でも、学部長のことは知っていた。
だって、あの聖女フレアだったんだもの。てっきり、教会で働いているのかと思ったわ。
聖女フレア、フレア・プロミネンス。
彼女は、他の世界から召喚され、ウルリカとはまた別の形で聖女となった人物。いわゆるトリップをしてきたらしい。
でも、小説では、そんな設定はなかったから、前の世界の本名は知らない。私の前世と同じ世界から、やってきたかも分からないしね。
その聖女である医学部長の部屋は、医学科棟にあるので、私は、廊下にたむろっている医学科生の間を通り抜けて、部屋へと向かった。
ノックをすると、中から「どうぞ」という声。扉を開けると、書類とにらめっこするメガネをかけた、こげ茶色の髪の女性が座っていた。きっと彼女が聖女フレアなんだわ。
「失礼します。ルナメア・ジャクリーン・バーンです」
「どうぞ入って、そこのソファに座って待っていてくれる?? もう少しで書き終わるから」
じっと座って待っていると、書類との格闘が終わったのか、フレアは立ち上がり、給湯室に向かって行った。
すると、給湯室から「ルナメアさん、コーヒーと紅茶、どちらがお好み??」なんて声が聞こえたので、私は「コーヒーがいいです」と答えた。
なんか想像していたより、柔らかい人だな。
聖女フレアと言われるもんだから、もう少し堅いのかと思っていたが、結構フレンドリー。それでいて気品がある、親しみやすい人だった。
フレアは2つのグラスを持ってやってくると、私の向かいのソファに座った。1つのグラスは私の前に置いてくれた。グラスの中には、黒いコーヒーと、透明な氷が数個、入っていた。
「まだ9月で少し暑いから、アイスコーヒーにしたんだけど良かったかしら??」
「はい。ありがとうございます」
「いえいえ、それはお詫びのようなものだから。アイスコーヒーでお詫びっているのもなんだけど。でも、突然呼び出しておいて、待たせるなんて本当にごめんなさいね」
「いえ。待つほど待っていませんよ」
フレアが1口飲んだので、私も続くように飲んだ。コーヒーの香りがとても心地が良かった。
「それで呼び出した理由なんだけど、別に説教とかで呼び出したんじゃないから、リラックスしてね」
「はい」
「今回呼び出したのは、あなたの力のこと」
「力?? 時魔法のことですか??」
それ以外にあるといえばあるが、考えられるのは時魔法ぐらいだろう。
しかし、フレアは首を横に振った。
「いいえ。あなたが持つ聖女の力についてよ」
「!!」
フレアはフフフと笑みをこぼす。
ここに来て、1回も使っていないのになぜバレた??
平然を装っているが、私の心の中では動揺の渦が巻いていた。
「あら、私があなたの力、分からないとでも思った??」
「え、えと、何のことでしょう??」
もしかしたら、フレアの当てずっぽうかもしれない。ここで、口を滑らせるわけには。
動揺しながらも、私はしらばっくれた。
「隠さないでちょうだい。他の聖女が現れたからといって、決して潰そうなどという考えはないのよ」
「………」
「まぁ、いいわ。もし、あなたが聖女の力を持つのであれば、忠告しておきます」
「??」
忠告?? 一体、何の忠告だろう??
はて、と言わんばかりに、私は首を傾げる。
「むやみに聖女の力を使わないようにしてください」
「………それは、神の世界に取り込まれてしまうからですか??」
そう尋ねると、フレアはうんうんと頷く。
「もちろん、それもあります。でも、神の世界に取り込まれてしまうなんてことは、よほど聖女の力を限界値まで使わない限り、起こりませんよ」
「学部長は、行ったことあるんですね」
「まぁね」
フレアは、かわいくウィンクをする。そんな軽く言えるようなことじゃないのに。
この世界の元である、恋愛小説「ストロベリームーン」。その続編で、ウルリカが聖女の力を使い過ぎて、神の世界に取り込まれそうになることがある。なんでそんなことになったのか覚えていないけど、ともかく聖女の力を過度に使用しすぎると危険があることは知っていた。
神の世界がどうなっているのかは知らないけど、あっちには行きたくない。自分が生きている世界が一番だからね。
「別の理由はなにかあるんですか」
聖女の力を使いすぎのことを忠告していないのであれば、なんのことを言ってるのか。私には見当がつかなかった。
「それは、政治に巻き込まれないようにしないためです。私たちは、治癒力、生命力の高い聖女。戦争に利用されかねません」
フレアは先ほど違い、真剣な表情になっていた。彼女自身が経験したことがあるのだろうか??
聖女フレアは重い声で、話を続ける。
「それに、今の第2王子は、戦争を企んでいようですからね。元婚約者とはいえ、あなたに近寄ってくるかもしれません。私はそのことを忠告しておきます」
「………」
「まぁ、ルナメアさんなら、今の段階で私にまで隠しているようだから、むやみに使用することはないし、きっと一切使いことはないんでしょうね」
フレアは、優しくニコリと微笑む。
戦争か。今のアシュレイ王国は、平和だけど、クローディアスの動き次第では戦争しかねない。
でも、戦争はさせないし(どうやって止めるかはわからないけど)、私を利用するなんてことはさせない。私は、自分の意思で生きる。
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