12

 聖女フレアに呼び出された週の土曜日。

 その日の午前中は、勉強がはかどり、予定よりも速く課題を終わらすことができた。

 課題以外にすることは特にない。せっかくだし、庭でも散歩してみようか。


 というわけで、私は動きやすい服装に着替え、外に出た。天気は晴れていていいけれど、風が少し冷たく感じた。徐々に冬が来ているみたい。

 季節の変わり目を感じながら、歩いていると、丁度黒髪短髪の彼を見かけた。

 あれは………ヴェス王子??


 彼は1人庭を歩いていた。こちらに気が付いている様子もなく、どんどん歩いていく。一体、どこに行く気だろうか。

 好奇心が湧いてしまった私は、ヴェス王子の後ろをコソコソとついて行く。人気ひとけのない、ツタでいっぱいの壁まで歩いて行くと、彼は足を止めた。


 気づかれないように、私は近くの草むらに体を潜める。ヴェス王子は辺りを確認すると、壁に手を置き、奥へと押した。

 え?? あれは隠し通路?? なんで??


 ヴェス王子の前に現れたのは、寮の外につながる通路。向こう側から光が差し込んでいた。

 学園時代とは違い、大学の寮は外へ普通に南門から行ける。なのに、なぜヴェス王子はここから??

 すると、彼は身に付けていた鞄の中をあさる。手を外に出すと、そこには金髪のかつらが出てきた。


 ま、まさか、あれを被って、変装するつもりなのかしら??

 確かに王族の人が、大学外に出るのは大変だと思う。襲われたら、厄介だし、下手をすれば命を落とすかもしれない。


 でも、危険を冒してまで、なぜ外へ??

 考え込んでいると、いつの間にかかつらを被っていたヴェス王子は、通路を通り、外に出ていっていた。

 隠し通路は通れなくなってしまっていたので、私は南門から外に出て、ヴェス王子をこっそり追跡した。

 街で何か買うのかなと思っていたが、彼はスルー。大通りを歩いていると、途中で小道に入っていった。


 危ないことに手を出していないよね?? まさかね??

 私も人気が無く、いかにも怪しげな道を通り、付いて行く。すると、ヴェス王子は突然足を止めた。

 私はすばやく近くにあった大きなゴミ箱に隠れる。


 「僕について来ているのは誰??」


 彼はゆっくりこちらを向く。完全にこちらに目を向けていた。

 これはバレているなぁ………。

 トボトボと歩いて、ヴェス王子の前に出た。

 ああ………変な勘違いされる。ストーカー扱いされる。まぁ、間違いではないのだけどさ。


 「ごめんなさい………私です」

 「ルナメアさんっ!?」


 私を見たヴェス王子は、驚きの声を上げた。


 「こんな所にきて何をしているの??」

 「それは殿下の方ですよ。1人で学外に出るなんて」

 「いや、僕は………」


 と彼は口を濁す。やっぱりやましいことをしているのかしら?? 貴族と取引とかっ!?

 私が青い顔をしていると、ヴェス王子はゆっくり首を横に振った。


 「ルナメアさんが心配しているようなことはしてないよ。断じてしてない。ただ………」

 「ただ??」


 私は、コクリと首を傾げる。


 「僕が行こうとしている所は、ちょっと危ないんだよ」

 「危ないのならなおさら行くべきではありませんよ。殿下なら王族としてのご自覚はありますでしょう?? 帰りましょうよ」


 そう言ったが、ヴェス王子は、また横に首を振って拒否。

 一体、どこに行くつもりなんだろうか??

 神妙な顔を向けると、彼は苦笑いを浮かべ、私の頭を撫でる。


 「僕、これからスラム街に行くんだ」


 スラム街は、国の中でも一番危険な場所だった。

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