入学が決まった私は寮生活をするため、引っ越しすることになっていた。なんか大学生になった感じだわ。

 荷物はメイドたちに任せ、一部はすでに寮の方へ送っているので、出発当日は特にやることはなかった。

 

 「いよいよなのね」「ルナメアにこんな日がくるとはな」

 

 玄関まで出てくると、お母様とお父様は目を潤まし、私をぎゅっと抱きしめていた。

 

 「なにかあったら、すぐに帰ってきなさい」

 「母上、俺がいるので、大丈夫ですよ」

 「そうだわね。ノエル、ルナメアをよろしくね」

 

 お母様は、流れる涙を拭きとると、私の方を真っすぐ見つめる。

 

 「ルナメアも無理のないように、頑張るのよ」

 「はい、お母様」

 

 大きな屋敷を見上げる。寮生活だった学園に通う前、そして、卒業した後、ずっと過ごしていた家。

 ああ、この家とまた離れちゃうのか。ちょっと寂しい気もする。

 

 「ルナメア、行こうか」

 「はい、お兄様」

 

 ノエルに声を掛けらると、私は馬車に乗り込む。

 在学生はもう少し休みはあるのだが、兄も私の引っ越しとともに、寮へ帰るらしい。どうやら私を心配しているみたい。


 私が腰を下ろすと、ノエルは向かいに座った。

 こうして、兄妹で馬車に乗るのも久しぶりかも。新鮮ね。

 窓の外を見て、お母様とお父様に軽く手を振る。


 お兄様ともだけど、お父様ともいつか一緒に仕事がしたいわ。頑張らないと。

 通り過ぎていく実家の景色を眺めながら、そう誓ったのだった。

 


 そして、入学式のある9月始め。

 前世とは違い、この世界では入学期間が9月らしい。

 海外とかは9月に入学するんだよね?? 


 寮で何日間か過ごした後、私はアシュトン国立大学本学ホールで入学式を迎えていた。

 大きなホールには入学生約1000人。隣の席との間はそんなになかった。

 看護学科の1年生は合計80人。後期で受かったのは10人ほどで、あとの70人は前期で受かったらしい。

 私はじっと椅子に座り、前にいる学長の話を聞いていた。


 眠たくなりそうな話をずっと聞いていると、1つ前の椅子に座る黒髪ロングの女の子が目に入った。後ろ姿しかみえないけど、髪も艶やかで、本当にきれいだわ。

 先生の話があきてしまった私は、前にある黒髪をじっと見つめる。すると、いつの間にか入学式が終わっていた。意外と入学式、短かったわ。


 みんなは帰ろうと立ち上がるので、私も立ち上がろうとする。その時、前にいた彼女が、ちらりとこちらに目を向けてきた。

 彼女は私を睨んできたような気がした。

 ………………………………………まさかね??


 彼女は椅子から立ち上がると、知り合いらしき子たちの方へ入っていった。

 前に座っていたってことは看護学科の子なんだろうけど、なんで私を見てきたんだろう?? もしかして、私が後ろからじっと見ていたこと、気づいていた!? 気持ち悪がられた!?

 と黒髪ロング美少女のことが気になったが、彼女に話しかけるなんてことはなく、私は他の学部に入学した令嬢と少し話をするだけで、ホールを去った。

 

 

 

 ★★★★★★★★

 

 

 

 午前中にあった入学式を終え、私は寮にある自室に戻っていた。

 私の部屋は個人部屋。他のみんなも同じような個人部屋らしい。しかし、私の部屋には彼女がいた。

 

 「お嬢様、お疲れのようですし、お茶をお飲みになりますか??」

 「ええ、よろしく」


 私はヘレナがお茶を用意する間、ソファに座って、今日の新聞を読んでいた。


 「お嬢様、睨み目で新聞を読んでおられますが、何か気になったことでも??」

 「うん」

 

 ヘレナは、訝し気な声で尋ねてくる。

 

 「…………もしかしてウルリカ様ですか??」

 

 私は首を横に振った。彼女も気になると言えば気になるけどね。

 

 「それもあるけど、クローディアス殿下の方かな。何をしているんだろうと思って。あ、決して未練があるわけじゃないのよ」


 「それは十分承知しております」

 「私が気になっているは、殿下の行動よ。殿下は次期国王だし、気になってもおかしくないでしょう?? ほら、この記事を見て」


 私が指すそこには、クローディアスの動向が書かれてあった。どうやら最近、軍の方に顔を出しているみたい。


 「殿下直々にお顔をお出しになさるなんて。殿下は、戦争でも起こそうとなさっているのですか??」

 「多分ね。何を考えているのやら」


 そんなことをしたって、国民の反感を買うだけなのに。


 「この記事には、原因はウルリカ様と書かれてありますねぇ…………宝石ですか」

 「彼女が宝石を欲しがっているから、鉱山があるところに領土を広げたがっているのよ。全くバカげた話」


 「次期国王にバカとはあまり言わないほうが」

 「でも、事実でしょう?? それにここには彼らはいないし、ここにいる人たちは同じようなことを思っているでしょう」


 私ははぁと溜息をつく。ヘレナは紅茶を置いてくれた。


 「今日は少し暑いので、アイスティーにいたしました」

 「ありがとう」


 ガラスのティーカップに入った紅茶。ガラスにはピンクの花が描かれてあった。華やかでとってもきれい。

 ああ、ヴェス王子が国王になってくれればな。

 そう思い、冷たい紅茶を一口飲むのだった。

 


 

 ★★★★★★★★




 入学式の次の日。

 すぐにオリエンテーションが行われた。広い教室に80人が席に座り、講義についての説明を行われた。


 「それではクラス委員を決めていきたいのですが…………」


 先生がそう口にすると、ある人がすぐに手を上げた。

 あれは、入学式で見た黒髪ロングの美人さん??

 凛々しい姿の彼女は、堂々と挙手。みんなが彼女に注目していた。


 「先生。私、委員に立候補します」

 「ショアさん。分かりました。他にいらっしゃいませんか??」


 ショアさんが手を上げると、他の人もすぐに挙手し、クラス委員はすぐに決まった。

 彼女、ショアさんと言うのね。ショアさんのおかげで、すぐに決まったわ。

 その後は、先生たちの自己紹介などがあった後、健康診断が行われ、そこで1日目は終了した。


 やることを全て終えた私は、看護学科棟の前にあるベンチで座って、休憩していた。

 教科書はもう部屋に届いているし、勉強をすべきよね。寮に戻ろうかな。

 すると、セミロングの茶髪の子が、私のところに近づいてきた。クラスにいた子ではあったが、名前は知らない。

 彼女は私の前に来ると、一礼してきた。私も頭を下げ、会釈を返す。


 「バーン様、私、マリー・ベルガーと申します。お初にお目にかかります」

 「そんな丁寧なことば遣いはいらないわ」


 ここでは、身分とか関係ない。実力社会だから。


 「よろしいのですか??」

 「ええ、もちろん。どうぞ、お隣に座って。それで、ベルガーさんは…………」

 「マリーでいいですよ」


 「マリーさんは、なぜ私なんかに声を??」

 「学園にいたのですが、前からバーン様とは普通にお話してみたかったんです。あと、闇魔導士なので、私1人だったので」


 私も1人だったわ。多分、公爵令嬢だから、距離を置かれていたんだわ。


 「闇魔導士なの??」

 「はい。よく医療の世界に来れるわね。と言われます」


 彼女はアハハと乾いた声で笑う。


 「でも、ここの学部長に『闇魔導士であろうと関係ない。医療に携わりたいのなら、誰がなんと言おうと来ればいいわ』と言われまして、やってきました」

 「へぇ」


 聖女フレアが『闇魔導士は悪ではない。私たちが勝手に悪にしているだけだ』と公言してから、比較的差別や偏見はなくなった。まぁ、完全になくなったわけではないけれど。


 「医療の世界は、信用があってこそですので、闇魔導士は少しと思われる方が多いようです」

 「でも、闇魔導士の方も治療に当たる方もいらっしゃるのでは??」

 「ええ。でも、医師の方ですよ。事件以降、看護師にはほぼいません」


 そうだったんだ。てっきりいろんな場所で闇魔導士が活躍しているのかと思ってた。


 「事件というのは??」

 「結構前のことなんですけど、当時闇魔導士であった看護師の方が、患者さんに闇魔法をかけちゃったんです。患者さんも患者さんでしたが、その人もその人で…………その事件以降、闇魔導士の方が看護師という職に就こうとしなくなりました」


 「でも、マリーさんは看護師に」

 「はい。幼い頃から憧れていたので。ルナメア様はどうして看護学科に?? お家の事情ですか??」

 「ううん。私が看護師になりたくってきたの。もちろん、自分の意思で来たわ」

 「まぁ、そうだったんですか。失礼いたしました」


 そうして、マリーさんと話していると、目の前にある池の向かいでショアさんが歩いているのが見えた。彼女は本を片手に、1人で歩いている。どうやら図書館に行っていたようだ。


 「あ、ショアさんですね」

 「ねぇ、ショアさんってどんな方なの??」


 「私もあまり知っているというわけではないのですが、風の噂ではショアさんが、前期試験の首席だったとか」

 「へぇ」


 かなり頭もいいのね。美人で頭がいい。それでいて積極的に行動する人。素敵な人じゃない。


 「だから、ショアさんがクラス委員なのは、納得いきますね」

 「ええ。そうね。私も同感だわ」

 

 横から少し強い風が吹いた。空は灰色の雲が覆っている。

 なぜだろう?? 通り過ぎていく時、ショアさんがまた睨んでいたような気がした。

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