兄ノエルから許可を貰えた私は、試験に向け、さらに猛勉強。

 前世を思い出す前の私は、社会のできごとを積極的に知ろうとしなかったため、社会問題が絡むものは大変だった。歴史もおろそかにしていたため、ほぼいちから。


 サボっていた私、マジ恨む。

 前世の言語は異なるものの、幸いルナメアの知識があるので、国語は問題なくクリア。得意分野ではない数学も難なくできた。

 大好きな化学と物理は余裕よ。


 一番の問題は魔法。学園では古代魔法について勉強する授業があったけれど、ルナメアの頭にはほぼ入っていなかった。

 社会問題は前世の世界と似たようなもの、もしくは過去にあったことだったから関連づけやすかったけど、魔法はねぇ……………………。


 魔法分野では、7種の魔法についてと古代魔法の歴史についてのペーパーテストがある。私はそれにとっても苦戦していた。

 しかし、秀才の兄からの授業を受けると、すぐに理解できた。意外と簡単。

 私はヘレナやノエルたちの力を借りながら、ひたすらに勉強。でも、健康的な生活を送る、という日々を過ごしていた。


 そして、迎えた試験日。試験会場は、アシュトン国立大学医学部の看護学科棟。

 後期試験であるためか、想像していたよりかは人が少なかった。ごくわずかに貴族出身の人がいたため、私を見ると驚いていたようだった。


 それもそうよね。社交界から消えたと思ったら、こんなところにいるんだから。

 今はそんなこと、どうでもいい。というか、考える暇がない。

 面接は大丈夫。ペーパーテストも大丈夫なはずよ。


 ここまで来れば不安がっていても、どうしようもない。自信を持って行かないと。

 私は看護学科棟を目の前にし、足がすくむ。

 やっぱり緊張する。怖いわ。


 パンっ。

 私は両手で頬を叩いた。

 ダメよ。ここで不安がっては。ノエルも言ってたじゃない。

 私は昨日言われたノエルの言葉を思い出す。


 『本当によくここまでやってきた。あとは本番だな。ルナメアなら大丈夫だ。できる』


 と言ってくれた。現役医学生の兄が言ったのだから、大丈夫よ!!

 気合を入れた私は、看護学科棟へと足を踏み入れた。




 ★★★★★★★★




 「はぁ、やっと家だ」


 長い長い試験を終えた私は、ようやく家に帰れていた。

 まぁ、看護学科は試験が1日だけだから、楽な方よね。医学科や理学部は2日間あると聞いた。そっちの方が大変だわ。

 馬車を降り、玄関に向かう。すると、そこにはある人が待っていた。


 「お兄様??」

 「おかえり、ルナメア」


 ノエルはこちらに微笑んでくれた。安堵したような表情だった。

 私は彼のところに駆け寄る。

 

 「お兄様、どうなさったのですか?? こんなところで??」

 「どうしたって、お前の帰りを待っていたんだよ。さっ、疲れただろう?? 中に入ろう」

 「あ、はい……………………」

 

 兄の対応に困惑の私は、はっきりしない返事をする。兄が優しい。いいことだけど、なんか怖い。

 私は、嬉しそうなノエルに連れられ、家に入った。ロビーには微笑みを見せるお父様とお母様。


 「ルナメア、おかえりなさい」「おかえりなさい、大丈夫だった??」

 「ええ。大丈夫でした。実力は尽くせたと思います」


 心の底から自信があるわ。まぁ、前世でも試験を受けた直後ってこんな感じだったけど。

 ニコニコ顔のお母様は私の方を真っすぐ見つめる。


 「ノエルはね、あなたが帰ってくるまで、かなりソワソワして、落ち着きがなかったのよ」

 「お兄様が??」

 「は、母上……………………」


 ノエルの方を見ると、彼はプイっと私から目を逸らす。

 てっきりずっと勉強していたのかと………。


 「フフフ。意外でしょう?? ルナメアの馬車が帰ってきたのが見えると、すぐにノエルは外に出たわ。ノエルはかなり心配していたようね。本当にあなたたちの仲がよくなってよかったわ」


 今までの私たちは、かなり仲良くなかったよね。お母様にもお父様にもご迷惑をおかけしたわ。

 ノエルは頬を真っ赤にさせ、まだ目を背けている。

 そんなに心配してくれていたのか。


 「お兄様、ご心配どうもありがとうございます」

 「あ、ああ……………………」


 ノエルが素っ気なく答えたが、私には優しい声に聞こえていた。

 

 

 

 ★★★★★★★★




 試験から数日後。

 私の手元にはあるものが届いていた。

 背筋を伸ばして、椅子に座り、机に置かれたそれをじっと見つめる。背後にいるので、見えないが、ヘレナも緊張しているようだった。同じく緊張している私は、ゴクリと息を飲む。

 ついに試験結果が来たわね……………………。


 机に置いてあるのは一通の手紙。送り手はアシュトン国立大学からだった。

 試験終了直後は自信があった。絶対合格したってね。

 でも、今の私にはそんなのない。怖くて仕方ない。私は両手を合わせ、これでもかと祈る。


 お願いします……………………合格という文字をください。


 「へ、ヘレナ、行くわよ」

 「はい」


 彼女は冷静に答えるよう務めたようだったが、声には震えがあった。

 私は丁寧にナイフで封を開ける。そして、便箋から一枚の紙を取り出した。

 迷わずに書かれている文章を読む。

 

 「あ、あ」

 「お嬢様?? 結果は??」

 

 紙を投げ捨て、立ち上がり、ヘレナに抱き着く。

 小さな声で彼女に伝えた。

 

 「合格よ…………やったわ」

 「心臓に悪いので、すぐに答えてくださいよ」

 

 ヘレナは、はぁと深い息をつく。そして、彼女は優しく私の頭を撫でてくれた。

 やったわ…………やっと看護師のたまごになれるんだ。

 

 「おめでとうございます、ルナメア様」

 「ありがとう。これもヘレナが手伝ってくれたおかげだわ」

 「私だけじゃないですよ。手伝ってくださった方がもう1人いるじゃありませんか」

 

 ヘレナは嬉しそうにフフフと笑う。

 

 「ノエル様にお伝えしなくていいですか??」

 「あっ!! お兄様!!」

 

 そうだ。ノエルにもすぐに報告しないと。認めてもらってからというものの、彼にはかなり手伝ってもらった。

 私はすぐにノエルの部屋に向かい、そっと扉を開ける。勉強しているかなと思っていたら、彼はじっくり手紙を読んでいた。


 恋人の手紙かしら?? 気になる。まぁ、今やるべきことはそれじゃないわね。

 ノエルは私に気づいたのか、顔を上げた。

 

 「ん?? どうした??」

 「お兄様、結果が出ました」

 「…………………………………………それでどうだったんだ??」

 

 彼は、重い表情と重い声で尋ねてくる。めちゃくちゃ真剣な顔をするのね。

 ノエルの合格発表をするのかな、私。

 

 「ご、合格でした」

 「ああ、そうか……………………よかったな。おめでとう」

 「ありがとうございます」

 

 ノエルは一見冷静を装っているが、安堵の表情が垣間見えた。

 彼は、手にしていた手紙を机に置くと、私のところまで歩いてきた。

 

 「本当によくやった。9月からは同じ学校だな」

 「そうですね。お兄様のいるところなら安心できそうです」

 「医学部は大変ではあるが、みんな、いい人だ。なんせ貴族だけじゃないからな」


 本当に楽しい場所だ、と語るノエル。

 兄の一言で学園時代のことをふと思い出す。貴族の世界は、ずる賢い人がたまにいるものね。

 ノエルは、私の合格がよほど嬉しかったのか、私以上に舞い上がってルンルン気分でいた。

 

 今なら、手紙の主を教えてくれるかしら??

 私は、ノエルの様子を見て、微笑みながら尋ねた。


 「それで、お兄様。先ほど読まれていたお手紙はそのご友人から??」

 「手紙か?? ああ、そうだ。お前も知っているだろう?? ヴェスからの手紙だ」


 ヴェス…………??

 ヴェス!?


 第一王子からお手紙貰ったの?? 確かにヴェス王子は医学部にいるけど、お兄様は呼び捨てにしている。かなり親しい間柄なのかな??

 意外なつながりに私は首を傾げる。


 「殿下からお手紙を貰ったのですか??」

 「ああ。ヴェスとは気が合ったんだ。彼も王族という自覚はあるものの、みんなと仲良くしたいらしくてな。王子というので、距離を置かれるのは嫌なんだと言っている」

 「へぇ………」


 「そういや、お前、ヴェスと卒業パーティーで会ったらしいな??」

 「あ、はい」

 「あの日はありがとうだとよ。お前と話して、気が晴れたらしい」

 「それはよかったです」


 あの日は大変だったけど、ヴェス王子と話してたら、私も少し気が楽になっていた。


 「俺が、ヴェスにお前が看護学科の試験を受けることを言ったら、『合格するといいな。僕もこっちから祈ってるよ』って返事がきたんだ」

 

 へぇ………ヴェス王子が1回しか会ったことのない私にそんなことを。弟のクローディアスとは大違いね。

 ノエルは手紙を取って、私に見せてくれた。そこには美しい文字でつづられていた。


 「よい知らせが書けますね」

 「ああ。本当によかったよ」


 私が帰ろうとした時、ノエルは「ルナメア」と声をかけてきた。

 

 「本当に合格おめでとう。お前と仕事できるような日が来るとはな。夢にも思ってなかったよ」

 「気が早いです、お兄様。私もお兄様も、まだ学生です」

 

 私とノエルは、アハハと笑いあう。

 

 「まぁ、これから大変だぞ。予習とかしておけよ」

 「もちろんです、お兄様」


 ヘレナの姉の話を聞いて、看護学生が大変なことは十分知った。後期試験で受かった私には前期試験の子たちよりも準備期間が短い。それだけ頑張らないと。

 看護の本を取りに、私はまっすぐ書庫室に向かった。

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