5
私は毎日健康的な生活を送りながら、猛勉強を始めた。ペーパーテストもちろん、ヘレナたちや、お父様が雇ってくれた先生と面接の練習もした。
そんな生活をし始めて2週間が経った時、夕食後に突然兄ノエルから呼び出された。
急に呼び出してなんなんだろう??
私は不思議に思いながらも、ノエルの部屋に向かう。
ノックすると、「ルナメアだろう?? 入れ」とすぐに返答してきた。彼の部屋に入るなり、ノエルがソファに座るよう言われる。
「久しぶりにお茶でもしようか」
妙にノエルの口調が柔らかい。
………………………………………………逆に怖いわね。
ノエルはメイドにお茶を入れさせると、私と向かい合うようにソファに座った。
机には紅茶とともにイチゴのモンブランがあった。とても美味しそう。
スイーツに弱い私はそのケーキを口へ運びながら、ノエルの話に耳を傾けた。
「お前が大真面目に勉強をして、2週間が経ったな」
「はい。結構あっという間でしたね。正直試験までに時間がなくて、少々焦りが出てます」
「焦りは禁物だ。判断を鈍らせるからな…………それで、俺はお前の勉強の様子を見ていたんだが」
「書庫室で勉強している時ですか??」
「それ以外もだ」
「うわ」
私の部屋を覗きにきたの?? やだぁ。
訝しげな目で見ると、兄は「ヘレナに見せてもらったんだ」と言い訳をする。妹の様子が気になったって素直に言いなさいよ、ったく。
兄はコホンと咳払いをし、話を続ける。
「そして、お前の最近の行動で分かったがある」
「??」
なんだろう??
「お前が看護師になりたい気持ちだ。本気だったんだな」
ノエルは優しい瞳をしていた。やんわりだが、微笑んでいる。ノエルのこんな顔、幼い時以来かもしれない。
「お前が聖女といわれているウルリカにいじめをしていたのは、王子から婚約破棄を申しだしてもらうため。
お前は陛下のお気に入りだし、父上や母上に相談しづらかったのだろう?? だから、自然に婚約破棄になるように仕向け、看護師への道に進めるようにした。そうなんだろう??」
兄は笑みを浮かべ、片手にしていた緋色の紅茶を飲む。
ちょーと違うけど、ノエルの勘違い、利用させてもらおうかな。
にこっと笑顔を見せ、私は元気よく答えた。
「はい!! そうなんです!! 私、どうしたらいいか分からなくて…………」
「それなら、さっさと俺に話せばよかったのに」
ノエルは来いと言っているのだろうか、空いている隣の席をポンポンと叩く。
私は素直に彼の隣に座った。
「もう悩むことない。看護師の道に進め。困ったことがあったら、俺に言え。いいな??」
そう言って、ノエルは私の頭を優しく撫でてきた。兄に撫でられるなんて、何年ぶりのことなんだろう。
「ずっとあんなのかなと思っていたけど、成長したんだな、お前は」
彼は聞こえないようにと考え小さく呟いたのだろうが、私の耳には届いていた。
成長したというより、別人なんですけどね。うん。
私は思い出したかのように、ノエルに話す。
「あ、丁度いいです。お願いがあります」
「遠慮なしだ。言ってみろ」
「あの、お勉強を手伝っていただけませんか??」
満面の笑みで頼み込んだ。忙しいと思うけど、やっぱ現役医学生の力は借りたいんだよね。
すると、ノエルは妖艶に笑う。不覚にもドキッとしてしまった。
「いいだろう。でも、今日は十分勉強しただろう??」
「あ、まぁ、はい」
そんなにやってはいないけど。
ノエルは「なら」と話を続ける。
「もうちょっと話さないか。こうして、お前とまともに話せたんだ。もう少し話をしたい」
「はい。私もお兄様とお話したいことがいっぱいあります」
そうして、
私は、兄はメガネを外した方がカッコイイとか、
ノエルは、前の私のわがまま具合がめちゃくちゃ嫌いだったとか、
本音をぶちまけ合った。
思わず本音にムカッとした瞬間もあったけど、でも、楽しかった。
もちろん、聖女の力については話さなかったけど。
その日は久しぶりに兄と楽しい時間を過ごせたような気がした。
★★★★★★★★
その日の夜。
ノエルとの団らんの後、すぐ眠った私は、ある夢をみた。
私と、第2王子クローディアス、知っているであろう女の子、そして、もう1人誰かが登場する夢。
意識内の私自身は遠くから様子を見ていた。
クローディアスは、私の方に真っすぐ銃を向けていた。彼の手元は震えている。
一方、彼を止めようとする、女の子は彼にすがり、必死に叫んでいた。しかしながら、私には彼女の姿ははっきり見えない。
遠くに見える私も険しい顔のクローディアスに向かって叫ぶ。
『殿下、その銃を——————してください!! 止めてください!!』
『これ以上—————いかない!! 国を守るためだ!!』
クローディアスも何か叫んでいるが、大事な部分が聞き取れない。
私の横を見ると、もう1人の人も叫んでいる。姿は見えないけれど、その人はどこかで会ったことがあるような気がした。
私とその人で、発砲しようとするクローディアスを止めてと訴える。
しかし、数秒経った瞬間、クローディアスは引き金を引いた。
「ハッ!!」
勢いよく上体を起こす。窓の方を見ると、月明かりが差し込んでいた。
結構リアルな夢だった。怖かった。
私は額に手を抑え、軽く息をつく。
「ノエルの言う通り、疲れていたんだわ」
知らないうちに疲れていたんだ。でも、ちゃんと寝れば、回復するわよね。
私はもう一度布団の中に潜り込み、そして、目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます