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ヘレナと話し、昼食を終えて、午後。
ついに彼が帰ってきた。
「お、お兄様、おかえりなさいませ」
「………………………………………………………………ただいま」
玄関で出迎えた私はメガネの彼を前に圧倒されていた。彼はこめかみ部分を触り、メガネを上げる。そして、私の方をちらりと見てきた。
いつか帰ってくるだろうと思っていたけれど、結構早かったわね。
前世を思い出す前の私は、兄ノエルからかなり嫌われていた。ルナメアが自己中心的なお嬢様だったので、そんな子を妹に持てば、嫌になるだろう。
兄ノエル、ノエル・イサク・バーンは、アシュトン国立大学医学部医学科に通う1年生。寮生活をしているので、実家に滅多に帰ってくることはない。しかし、今は夏休み。長期休暇のため帰ってきた。
ノエルは素っ気なく私に挨拶を返すと、颯爽とお父様の部屋に向かっていった。
本当に私のことを嫌っているのね……………………ちょっと嫌な気分。
私は溜息をつき、自室に向かう。
医学部か……………………前世の私が生きていたら、本来通っていた場所なんだろうな。
前世での私が受験したのは有名な大学の医学部看護学科。推薦っていう手があったのだけれど、そこの大学の推薦は試験内容が得意としていなかった。だから、センターを受け、そして、前期の2次試験を受けた。
試験が終わった後、上手くいったか心配で、でも一応後期の勉強もしなくちゃいけない……………………という感じで不安だらけだった。
合格通知が来たときは本当によかった。安堵しかなかったわ。
それなのに浮かれた私は交通事故で死ぬ。バカよ。本当にバカ。
話を戻して、兄ノエルは自分の家の病院を継ぐため医学部に通っている。
バーン家は自分の病院がある。当然、私の父も医者。
私も医療に携わりたい。毎日ダラダラ生活はパッとしないわ。
「あ」
私はふと思いつき、手を叩く。そして、後ろからついてきているメイド、ヘレナの方に顔を向けた。
「どうかしましたか?? お嬢様」
「あの聞きたいことがあるんだけど……………」
「聞きたいこと。それはなんでしょうか?? 私が答えられる範囲でお答えします」
ヘレナはなんなりとと言わんばかりに、会釈をする。
「お兄様の通われている大学についてなのだけれど」
「アシュトン国立大ですか」
「そう、そこ。そこに医学部看護学科ってある??」
あるなら、ぜひとも行きたい。
ヘレナは優しく微笑み、答えた。
「ありますよ」
「本当っ!? 本当にあるのっ!?」
「ええ。ありますとも。私の姉が通っていました」
ヘレナがそう言うのなら、あるのね。
でも、通うにはまずあの人に頼まないと…………。
★★★★★★★★
時間は過ぎて、ディナーの時間。
私は食堂で、お父様、お母様、そして、ノエルと一緒に夕食を取っていた。向かいにはあの怖いお兄様、ノエル。彼はこちらに目を向けることなく、黙って料理を口に運んでいた。
「それで、ルナメア。何か言いたいことがあるって言っていたけれど」
お母様はカチャりとナイフとフォークを置き、私の方を見る。お父様とノエルも合わせて、こちらを見た。ノエルの視線は相変わらず鋭い。お兄様、怖いわ。
ノエルの鋭い目つきで、一瞬、言うのを止めてしまおうと思った。でも、私は息をつき、覚悟を決めた。
ええい、さっさとはっきり言っちゃえ!!
「そうなんです。アシュトン国立大学がありますよね。そこの看護学科に通いたいんです!!」
「えっ??」「なんだって??」「!!」
私がそう言うと、3人は目を真ん丸にし、困惑の声を上げていた。そりゃそうよね。突然なことだから。
にひっとみんなに微笑みかけると、お父様が問うてきた。
「ルナメア、急にどうしたんだい?? 医療には興味なかったじゃないか??」
確かに小説でのルナメアも、前世を思い出す前の私も、実家のことはおろか、医療に全く興味はなかった。
でも、前世を思い出した今の私は違う。ずっと看護師になりたかった。せっかくのチャンス逃すわけにいかない。
すると、黙っていたノエルが机を叩き、ぎろりと私を睨んできた。
「甘ったるい世界ではない。お前には無理だ」
や、やっぱり言われますよね。急ですもん。だからと言って、ノエルに負けるわけにいかないわ。
私はさらに声に力を入れ、主張した。
「私、本気です。医療の世界が厳しいことも分かっています」
「知ったような口をしやがって……………………」
ノエルは舌打ちをし、さらに顔を曇らせていく。顔にはしわができまくりだった。
む、むぅ…………………………………………負けないわ。
私もノエルの瞳を真剣に見る。数秒して兄はプイと目を逸らし、席を立った。
「お父様、お母様。失礼ですが、お先に失礼します」
そう言って、彼は食堂を出ていった。あれはガチギレだわ。
私はそのまま2人の方を訴えるように見る。
「お父様、お母様はどう思いますか?? お兄様と同じ反対の意見ですか??」
そう尋ねると、2人は目を合わせ、そして、くすりと笑った。お母様は私の方を向いて、首を横に振る。
「いいえ。あなたが医療に興味持ってくれて嬉しいもの。反対なんかしないわ」
「僕もだよ。本当は医師になってもらいたいけど、医療に携わってくれるなら、全然構わない」
お父様は「だが」と話を続ける。
「ノエルの言うことも一理ある。医療の世界は厳しい世界だ。でも、最近までのルナメアは……………」
「そうですね……………………わかってます」
婚約破棄されるまでの私は勉学に対してそこまで意欲的でもなく、また何かに挑戦するわけでもなかった。つまり特に何もしてこなかった。
そんな私が急に医療の世界に入って、柔軟に対応できるかというと心配になるだろう。
お父様はニコリと笑い、そして、言った。
「だからね、僕らはノエルがいいと言ったら、全然構わないよ」
つまり、ノエルの判断しだいということですかぁ。
私は不満たっぷりに口をとがらせる。
頑固兄を攻略せよ。それが私のミッションとなった。
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