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学園を卒業し、卒業パーティーで婚約破棄された私は、朝から家でゆっくり過ごしていた。
……………………はっきり言おう、これといったことをしていない。ダラダラと過ごしていた。
だって、社交界に出ないってことは家でずっと過ごすってことだし、特にやることもないし。ダラダラするしかないじゃん??
魔法があるから、学園に通っていたけど、私の魔法は正直言って、あまり使えない。
この世界には主に7種の魔法がある。火・水・土・風・光・闇・時の7つ。私の魔法は時で、便利そうに思われるが、全然便利じゃない。
当然、自分の能力が低いというのもある。この世界の時の魔法はゲームにあるようなタイムスリップはできない。私は進む時間を遅らせて進ませるぐらいしか能がない。高位の時の魔導士でさえ、何個かの物の時を止めるぐらいしかできないのだ。
タイムスリップするのは古代魔法を使わないといけないが、それは禁忌の魔法とされている。まぁ、能力なしの私には関係ないけどね。
そんな私は日向ぼっことして、窓に持たれ、庭をじっと眺めていた。
部屋の窓からは1本の木。私はそっと目を閉じる。
風が吹くことで、さーと木が揺れる音がする。いい音ね。
ピーピー。鳥の声。いい声ね。
ピィーピィー!! いい声……………………ん??
鳥の声に違和感を持った私は目を開け、木の下に目を向けた。すると、そこには1匹の鳥。その鳥は苦しんでいるのか、地面でドタバタと動き、ずっと鳴いていた。
助けなきゃ。
私はすぐさま1階に降り、庭の木の所に向かった。幸い、他の動物がその鳥を食べることはしていなかった。
座り込み、見ると、鳥にはかなり大きな怪我。出血をしており、その血が止まる様子はなかった。
メイドを呼んで、助けないと。で、でも、それで間に合う??
私はとりあえず大量出血を防ぐため、時の力を使う。しかし、血は流れる一方。
「誰か来てくれる!? 鳥が怪我をしているの!!」
近くにいるであろうメイドに声を掛けると、メイドは「わかりました」と返事をして、救急箱を取りに行った。
————————一刻も早く出血を止めないと。
私の時の魔法!! お願い!! せめて出血をゆっくりにして!!
鳥の傷を手で押さえ、祈りぎゅっと目をつぶる。
お願い、神様。誰でもいいから。
すると、手元がぱぁっと光りだす。一時して、鳥から手を放すと、傷は消えていた。
……………………………………………………え??
何が起きたのかさっぱりで、フリーズした私に対し、鳥は翼を羽ばたかせ、元気に地面を掛ける。そして、雲1つない空へ飛んでいった。
困惑の頭のまま、自分の手を見る。さっきまで鳥の血でいっぱいだったのに、ほこり一つないきれいな手になっていた。
これはどういうこと??
「お嬢様、治療道具をお持ちしました」
座り込む私の後ろには箱を持ったメイドがいた。
「あ、ありがとう。でも、その必要はなかったみたい。ごめんなさい」
「いえ、これは仕事ですので」
メイドの彼女は真顔で、少し威圧感があった。私のことを嫌っているのだろうか??
そういや、前世を思い出す前までの私は彼女にひどい態度で接してきたかも。
私がじっと彼女を見ていると、彼女の眉間にしわがよった。
「何かご不満でもございましたか??」
私は横に首を振る。
「ううん。ただ……………………あなたにあまりよい態度で接してこなかったなって反省してるの」
「!!」
メイドの彼女は目をカッと見開く。さらに怒ったのかしら。そりゃあそうよね。
「本当にごめんなさい。そんな簡単に許してもらえるものでもないと思うけど」
「本当に大丈夫です」
目を見開いていた彼女はいつも通りの表情に戻る。
でも、斜め下を見て「奥様がルナメア様の様子がおかしいっておっしゃていったのはこのこと…………」とかつぶやいていた。一体なにを言っているのだか。
「ええと、あなたの名前は……………………」
ずっと名前を聞いたことがなかった。「メイド!!」としか呼んだことがなかったから。
「お嬢様、私の名はヘレナと申します」
「ヘレナ。こんな私ですが、今後ともよろしくお願いします」
私がそう言うと、彼女はニコリと優しく笑う。やっと笑みを見せてくれた。
★★★★★★★★
ヘレナが救急箱を片付けると、私は彼女と木の下で話し始めた。
座り込む私に対し、ヘレナは立ったまま。座ってほしいな。
しかし、ヘレナは頑固として、座ることはなく、仕方なくそのまま話し始めた。
「ねぇ、ヘレナ」
「なんでしょう??」
「今、あなたに怪我とかない??」
私は少し試してみたいことがあった。さっき鳥を治したものはなんだったのか??
見当はついているが、確認したいのだ。
そのためには他人の怪我が必要。
「怪我ですか…………」
「そう。治したい怪我とかない??」
ヘレナは自分の指を見ていた。
「……………………指を少し切りました」
「ちょっとその指を貸してくれる」
座り込むヘレナは
「かなり深い傷。これ、どうしたの??」
「これは、その、私の不注意でやってしまったので…………」
ヘレナの目はキョロキョロと左右に動く。
ああ。深入りはしないで頂戴ってことね。分かったわ。
私はヘレナの傷に目を戻す。
「これ、残るかもしれないわね」
「え?? お嬢様何をなさろうと……………」
私は傷口に手を当てる。すると、さっきのように私の手から光を放ち始める。
「お嬢様っ!?」
ヘレナは驚いたのか、声を上げる。
光が収まると、私は指から手を放した。
「やっぱりかぁ」「えっ!?」
案の定、ヘレナの指の傷は消えていた。
動揺しているのか、ヘレナは声を上げる。
「こ、これって聖女の力じゃありませんかっ!?」
「しっ。あまり騒がないで。大事にしたくないの」
「でも、聖女の力なんて……………………聖女フレア様、ウルリカ様以外に扱える方はいらっしゃらなかったはず」
そう。治癒魔法、つまり聖女の力はヘレナが上げた2人しか使えない。
1人は小説の冒頭で少し名前がでてきただけの人物、聖女フレア。彼女は他の世界から召喚された聖女様。今何をしているか知らないけど、彼女は偉大だと世間で言われている。
そして、もう1人の聖女は皆さんご存知のウルリカ様。小説での彼女は散歩で湖に行くと、湖の妖精ヴィヴィアンに出会い、聖女の力を発動。そのことによって、庶民でありながら、学園に通うことになるのだ。
小説ではもちろん悪役令嬢ルナメアが聖女の力を発動させることはない。続編の話でもなかった。
「すぐに判断しないで。これは光魔法かもしれないわよ」
光魔法と聖女の力。この2つは似たような力ではあるが、少々異なる。
光魔法。これは7種の魔法の中でもっとも魔導士が少ないとされている。治癒力のみならず、攻撃的な魔法としても扱える。
一方、聖女の力は光魔法よりも治癒力が高く、また生命力を高める力も持つ。植物に力を使えば、成長を促すことができる。
でも、今の段階で私の力がどちらか判断がつかない。
きっと世間にこのことが広まったら、大騒ぎになる。もう一人の聖女が現れた、しかも、それはつい最近王子から婚約破棄された令嬢だって。
そうなったら、国王も黙ってないだろう。ああ、またウルリカから恨みを買いそうだわ。
「だから、このことは私たちだけの秘密にしておきましょう」
「希少な光魔法、もしくは聖女の力ですよ。黙っておくなんて、そんな……………………」
ヘレナはおろおろとしていた。私の力がもったいないとでも思っているのだろう。
「いいのよ。言ったとしても、厄介なことになるだけだし。つい最近、厄介なことがあったのだし」
私が疲れたような声で言うと、ヘレナは諦めたかのように「そうですね、わかりました。秘密にしておきましょう」と答えてくれた。本当は他の人に言いたいのだろうな。
でも、ごめんなさい。婚約破棄の時みたいに、人の注目を浴びるのはこりごりよ。
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