第15話 終わりと始まり

  火星側からの返信は、


 “火星からは手を引け。引かなければ明日攻撃を仕掛ける。”


 というものだった。


 確かにその日の昼のニュースで火星の飛行場に警備型ロボットを積み込んだとみられる宇宙船が何体も航空写真で確認されている、と報道されていた。


 「どうする?このまま進めていったら俺たち死ぬかも知らないぞ?」

 「どうしろっていうの?このままやめるなんて言わないよね? ここまでたくさんの人たちに協力してらってるの。裏切るわけにはいかないわ。」


 かっこいい彼氏が言いそうなかっこいいセリフを取られてしまった。しかし紗耶香さやかが言っていることは確かに正しいし、筋が通っている。


 「そうだよな。俺たちには勝てる確信がある。戦わずして勝つ。誰の血も流させない。」

 「明日の朝からは、一緒に過ごしましょ。本当に攻撃を仕掛けてくるのか。二人で見届けましょう。」

 「うん。」


 そうして二人は別れた。


 地球側の発展に火星側が気付いていれば攻撃も考え直すはずだ。


 明日。 すべてが終わる。



 一方火星では大変なことになっていた。


 攻撃を明日に控えているのに国民からの抗議の声への対応に手を取られているのだ。


 「このまま攻撃したって倍にして返されるだけだ。」


 「降参なりなんなりすればいいから、攻撃だけはやめよう。」


 抗議の声の対応に手を焼いているのは火星の政府だけではなかった。移住計画に協力したおかげで移住させてもらえた警備型ロボット開発会社の窓口にも続々と抗議の声が来ていた。


 社長の江口勇えぐちいさむは考えた。


 せっかく政府にこびをうってまで火星移住できたが、こちら側の技術に追いつかれては戦力的に勝てないだろう。今私たちが攻撃するのをやめれば自然と今の政府は倒れる。



 攻撃を中止しよう。


 「攻撃の中止を至急連絡しなさい。」

 「わかりました。」


 江口はすぐに秘書に命令すると手を顔の前で合わせた。


 “間に合ってくれ”



 「緊急連絡。緊急連絡。攻撃中止。攻撃中止。」


 警備型ロボットを積んだ宇宙船が何体も止まっている飛行場に突然放送が鳴り響いた。





 俺たちのアカウントに新たな返信が来た。


 「火星側からだ」


 “今回、我々は地球側と交戦しないこととした。また地球側と連絡を取り合い、移住者を公平に決める方法を模索することを決定した。この内容は地球のテレビ局にも送ってある。”



 「やったじゃない! 要するに降参しましたってことよ。」

 「やっと俺たちの目的が達成されたんだな。長い間ありがとう紗耶香さやか。」

 「こちらこそ。夏彦なつひこ。」


 火星からの返信にもあった通り、返信が来てからしばらくしてテレビでも火星の声明が放送された。僕たちのアカウントには称賛のコメントが多数よせられた。


 「やっと自由になったわね、夏彦。」

 「そうだ。遊園地にもう一回かないか? 紗耶香も言いたいことがあるって言っていたし、俺も実は話したいことがあるんだ。」

 「わかったわ……」

 「じゃあ明後日、紗耶香の家の前に集合な。」


 俺はその日久しぶりに熟睡できた。悩みの種がのだから。


 

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