第2話 自らの存在根拠

 「誰かいますか?」

 

 そう問いかけてみたが壁に反響した自分の声が聞こえるだけで物音など一切しない。俺はベッドから降り、おそるおそる周りを確認した。


 壁は自分がいた世界には絶対にないような素材でできていて、触ると様々な情報が表示されるディスプレイのようなものになっており、床は歩く足を適度に沈みこませることで、何歩歩いても全然疲れないようになっていた。


 家らしきものを一通り確認したが、人はいず、住んでいた人の私物らしきものはあったが、生活感もなかった。俺は壁の前に立ち、今日の日にちを確認しようとした。


 もちろん転生の疑惑を解決するためだ。


 壁を一回なでるように触り、カレンダーらしきアイコンをタッチする。すると目を疑うような数字が表示された。


 “2150年8月15日”


 日にちは帰り道にバス事故に巻き込まれた日の二日後だったが、年はそういうわけではなかった。


 俺がいたのは2068年8月13日。なんと82年もたっていた。そんなにも長期間眠っていたとは考えにくいし、おそらく俺は未来の世界にタイムスリップしてしまったのだろう。


 俺は今淡々と語っているが、別に特別落ち着いているわけではなく人並みに動揺している。


 だがここは自分にとっては未知の世界だ。この家を出ればもっとたくさんの未知なものに出会うことになるだろう。


 そんな中で冷静さを失っては取り返しのつかないことになりかねない。だが今の俺には少し状況を確認し、整理し、これからどうするべきかを考える時間が必要だった。


 俺は再び、目を覚ました時に横たわっていたベッドに戻り、何が自分の身に起こったのかを確認できるようなものがないかを確認した。


 灯台下暗しって言葉もあるしな。そう思いながら端から端まで探した。


 

 なんだこれは。明らかにスマホのような板状のものが下に落ちていた。壁を触った時と同じようりょうで板状のものを触ると、おそらく合成などの加工が施されたと思われる音声が、誰もいない空間に響き渡った。


 “空き地に倒れていたあなたを家に運び込んだのはいいものの、私は諸事情で家を長期間開けなければならなくなったの。高校生らしい容姿だったからこのあたりで一番近い高校への入学手続きは済ませておいたわ。元気になって、自分の家に帰る気になるまではこの家を自分の家と思うといいわ。”


 これで音声は終わっていたが、終わりと同時に壁の一部が開き、USBのような端末が入っていた。これも何かハイテクな機器なのだろう。


 銀色に輝いているわけでもなく、マットな感じの端末の触れると、自分の服が制服らしきものに変更された。


 82年とはかなり長い期間らしい。こんなにも技術が発展していたとは……


 家から出たらもっと驚くことになるだろう。


 もう一度USB型更衣端末に触れ、自分がもともと来ていた服に戻すと、自動ドアになっているドアから家の外に出た。

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