06
廃工場に着いた。
フェンスを始めに、錆び付いた外観が打ち捨てられてから何年も経っていることを感じさせる。
もちろんゲームの設定なんだろうけど、と思ってフェンスに手を触れたら表面の一部がぺりっと剥けた。
いくらなんでもやっぱりリアルに忠実すぎる、ゲームの世界が現実化してる説が有力なのかもしれない。
「いかにも何かありそうだな」
「解体する費用もなくて放置されてる、不良の溜まり場として有名ね」
なんとなく分かる、男としてなんだかワクワクする光景なのだ。
秘密基地にはもってこいの場所だ。
建物に入る錆びた両開きの扉を発見したが押しても開きそうに無い。
仕方ない。
「うおらっ!!」
そこでタックルですよ。
バゴォン!! と盛大な音を立てて扉が吹っ飛ぶ。
一度こういう突入やってみたかったんだよね。
「……もっとこう、スマートに出来ないのかしら」
頭を抱えこむアリシア。
すんませんね、FPSのマスターキーは昔から暴力と決まってるってじっちゃんも言ってたし。
中へと入っていく。
灯りが無くて真っ暗なため、ムフフなことをするにはもってこいだ。
と、急に光が現れ、俺の前に顔が浮かび上がる。
「ぬおっ、びっくりしたあ!! なにやってんだよアリシア」
「どうせ変なこと考えてるだろうから驚かせてやろうと思って」
アリシアが持ってた懐中電灯を点けて、小学生がよくやる顔を灯すやつをやっていた。
割と本気でビビった。
セクハラに対する意趣返しだろうか。
通路を進んでいく。
スクラップや錆びてボロボロになったドラム缶がいくつも転がっている。
これぞホラゲといった雰囲気だ。
「不気味ね」
「そうだな、敵エネミーが一切出てこねえ」
獣人間も人形も全く居ない。
雑魚を相手しなくて済むのは面倒が省けていいが、それはそれで逆に不安だ。
親玉ボスが滅茶苦茶強いのかもしれないという懸念が頭をよぎる。
「ん」
つま先に何かが当たった。
アリシアがライトを照らし――
「「――っ!!」」
人間の手首だ。
大分時間が経っているのか周りの血痕はかぴかぴに固まってるが、間違いなく本物――リアルな触感を持つ物だ。
決して先の人形のような質感ではない。
アリシアがライトを思わず逸らすが、それは更なる惨劇を照らし出しただけだった。
人間の体のパーツがバラバラになって点在している。
足首、ふくらはぎ、太もも、胴、腕……etc。
とにかく分解された人間の身体が転がっている。
服を着たままやられたようだ。
数からして複数人分はある。
「どれも成人男性の物ね……」
「うわあ」
男の大事な部分まで……というかそこと頭の部分だけ見当たらない。
「これをやった犯人さんはあなたの分まで切り取ってくれるかしら」
「やめてくれ。ひゅんってなった、ひゅんって」
冗談じゃない、男の証を失ったら生きていけない。
ノゾミちゃんに改名する気も早々無い。
まるでヘンゼルとグレーテルのように体のパーツを辿って進んでいく。
オリジナルの話も相当イヤなものと聞いてるが、目の前に広がる光景はパンくずに比べようもないほど酷いものだ。
うげえ、内臓が落ちてるのがちらほら見える。
「また苦手なものを知れたわ」
「好きなやつのほうがよっぽどヤバそうだろ」
「それもそうね」
俺はHENTAIだけどそういうHENTAIではないからな。
「そういえば女性のは無いんだな」
「…………」
「いや、だから見たくないから……生きてる女性のは別として」
弁解しても蔑みの視線は注がれ続ける。
何がいけなかったのだろうか……。
「ここに来るのは不良グループの中でも男性だけって話だったわ。
女性はあんまり来たがらないような場所だもの」
「それはアリシアのような女性ならだろ?不良だったら女でも男にくっついてきそうなんだけどな」
俺はヤンキー女性じゃないから分かる訳ではないが、現実リアルでは貧民地区スラムに男女関係なく無法者が好んで暮らしている。
それを考えると男性だけで集まる理由がありそうな気がしてならない。
奥へと進んでいくと扉が見えてきた。
「ああ、やっとお顔を拝見できましたね」
「なんでこういうときだけ丁寧な言葉遣いなのよ……」
生首がごろごろ転がっている。
冗談を言ってないと吐きそうな気分が高まりそうだ。
さっさと部屋に入ろう。
「「…………」」
部屋に入ったらぐっちゃぐちゃになった体の一部が落ちていた。
生首以外に行方不明な部分といえばアソコですよ、ア・ソ・コ。
「……あー」
それを見て嫌な想像をしてしまった。
アリシアも眉をしかめて奥歯を噛み締めている。
多分同じ事を思い浮かべている。
ここまで男性に恨み持つとなりゃ、犯人は女性しかいないわ。
「多分、これやった女が今回のボスだな」
「女として気持ちは分かるわ……でもこれはやりすぎよ」
「……そうだな」
凄まじく気分が滅入る。
そういうフィクションの映像は昔あったらしいが、じいちゃん曰く娯楽用に演技したソフトな物に過ぎない。
忌まわしい出来事があったという想像をモニターの電源を消すようにぷっつりと断ち切る。
床の染みを避けながら部屋の奥へと進んでいく。
何世代も昔のビデオカメラが粉砕されていた。
俺だって犯人の身だったら同じことをしているだろう。
アリシアがわなないている。
一番奥の壁際に彼女はいた。
猿ぐつわをされ、目隠しをされている。
ボロボロの布切れが胴を隠し、四肢は切り落とされていた。
「反吐が出るわ」
「ああ」
人間として最低最悪だ。
俺だってセクハラ男だから最低の部類だが、これはやってはいけない範囲のものだ。
俺の腕も震えだした。
「でも彼女じゃアレをやるのは無理だわ」
「そうだな、彼氏が敵討ちしたとかかな」
さすがに腕も脚も無しにクソ野郎共の殺害は不可能――
「来るぞ!!」
「え?」
接近する気配は四つ。
まさか複数だとは思っていなかった。
アリシアも俺の様子を見て事態を把握し、二人で覚悟を決める。
俺は大斧を、アリシアは拳銃を構える。
「「は?」」
やってきたモノを見て間の抜けた声が出てしまった。
いやだって、ね。
デカい錆びた刃とデカくてぶっとい針が二本ずつ転がってきたんですよ。
「何あれ」
「俺が聞きたい」
構えた得物を思わず下ろしてしまう。
よく見ると球体関節人形のようなパーツがそれぞれについている。
そこで俺は気づいてしまった。
四肢切断された女性にそれぞれくっついていく。
刃は腕になりまるで鋏のようにクロスする。
針は脚となり、絶妙なバランスで身体を起こす。
「キイイイイイイイイイィィィィィィィィィィ」
金切り声が辺りに響き渡る。
俺達は迫力に呑まれ、動けない。
そして彼女はコッチに向かって突っ走ってきた!!
銃声音が轟く。
アリシアが発砲したのだが――
彼女――鋏女はきぃんという音を立てて刃で銃弾を防ぎやがった。
「逃げるぞおおおおおおおおおおおおお!!」
俺はそれを見るなりアリシアの腕を無理やり引っ張って走り出す。
さすがにこの部屋での戦闘は狭すぎてマズイ!!
「ちょっと! 腕痛い! 自分で走るから!」
アリシアがちゃんと自分の足で走り出したのを確認してから手を放してやる。
クソ! ばらばら死体が邪魔だ!
「ひいいい!!」
後ろを見ると鋏女が追ってきていた。
目隠しされてんのにまるでこっちが見えてるかのようだ。
コンパスの針のような義足でどうやってあそこまで早く走れるんだ……。
この世界に来て本気マジで恐怖を初めて感じた。
「あっ」
「何やってんだ!!」
アリシアが死体のパーツに躓いて転びそうになる。
俺は全速力で走っていたため戻るにも距離が離れすぎてしまった。
「あれ?」
「何で?」
挟み女はアリシアの横を素通りした。
俺に向かって相変わらず追いつこうと全速力で迫ってくる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
鋏女は俺に標的を絞っているらしく、走る速度を落とさない。
あと心なしか股間がうすら寒い。
「……まさか」
嫌な推測が頭をよぎる。
コイツ、男のみを狙ってくるんじゃなかろうか。
外への扉が迫ってきた。
広い空間ならなんとか戦えるだろう。
「…………」
いつの間にか扉はいくつもの鉄板で打ち付けられ、開けられないようになっていた。
タックルしても一度じゃ開かないだろう、その間に鋏女に切り刻まれるのがオチだ。
背後を振り返ると鋏女がすぐそこまで迫ってきていた。
理想の戦闘場所ではないが最早立ち向かうしかない。
振り下ろされた片刃の腕を大斧で払う。
こちらを突き刺さんとする針の脚を懸命に避けていく。
凶器じみた義手義足が恐ろしいまでのスピードで繰り出され、隙が全く見当たらない。
どちらかが先に力尽きるかでしか決着はつかないんじゃなかろうか。
「!」
鋏女の背後に現れた者。
ここまでセクハラと罵りでコミュニケーションをとってきた仲間。
女刑事アリシア様のご登場だ。
アリシアは拳銃を構える。
狙うは頭部。
しかしそれでは先ほどまでのように防がれてしまう、それならば――
「うおらああああああああ」
大斧を振るスピードを上げていく、無論鋏女も俺に合わせてスピードを上げていく。
パンと鳴り響く乾いた音。
強敵を倒す一撃にしてはあっけない雰囲気。
力が抜けた鋏女は前のめりに倒れる。
後ろに下がった俺は彼女の後頭部のど真ん中に風穴が空いてるのを見た。
「さすが」
「立ち止まってる相手を狙うのはそこまで難しくないわ」
クールビューティですねえ!アリシアさん!
彼女がいなければ倒せなかったかもしれない。
「ありがとうアリシア」
「あなたがお礼を言うとか不穏な事が起きそうなんだけど」
さすがにその返しは酷いぞ!!
二人であーだこーだ言いながら別の出口を探し、裏口があったので内鍵を外して開く。
さて次はどこへ行けばいいのだろう。
俺はセクハラ発言交じりにアリシアと話し合うことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます